AWC 本当の時     三宅祥隆


        
#1877/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  14:11  ( 29)
本当の時     三宅祥隆
★内容
「ほんまに、あんな高校、腹立ってしゃあないで……」
 ホームで電車を待っている僕の横で、高校生の男の子がふたり、立ち話をし
ている。
 ひとりは坊主頭で、白い半袖のカッターシャツにタックの入ったややゆった
りとした黒の学生ズボンをはいている。もうひとりの方はリクルートカットの
ようなごく当たり前の髪型で、同じように白い半袖のカッターシャツを着て学
生ズボンをはいているが、ズボンの色は濃紺だ。どうやら学校が違うらしい。
僕のいる位置からは、ふたりとも顔はよく見えない。
「あんな学校、辞めれるもんなら辞めたいわ。でも、辞めてもうたらなあ、高
卒の資格がなくなるやろ」
 さっきから坊主頭の方が、熱心に喋っている。それに対して濃紺のズボンの
方は黙ってただ頷いている。
「やっぱり大学行くためには高校出とかんとなあ。あんな高校、ただの通過点
や」
 通過点、という言葉が僕の耳にいやに響いた。ニュースや新聞ではよく耳に
する言葉だけれど、当の高校生の口からこの言葉が聞けるとは思わなかった。
 本気で言っているのだろうか? もし、そうやって我慢して高校を出て、大
学に行ってもまた面白くなかったら、大学もただの通過点になるのだろうか?
就職しても面白くなかったら、そこでも我慢するのだろうか? ずっと面白い
ことがなくても、彼は我慢してやっていくのだろうか?
 いや、面白くないと思っているのは何も彼だけではない。「そのうちに楽し
いことがある」と自分に言いきかせて、あるいはそう信じてつまらない現在を
過ごしている人は多いに違いない。滅多に来ることのない、「面白いこと」が
来るまで、ずっと耐えて待っている……。
 でも、そうやって我慢を重ねたところで、楽しい時が来るという保障はどこ
にもない。いつもいつも通過点にしか過ぎず、いつまでたっても、「本当の時」
はやって来ないかも知れないのだ……。
 僕はだんだんイライラしてきて、自分の腕時計に目をやった。
 電車はまだ来ない。




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