#1837/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ ) 92/ 6/19 21:25 ( 52)
1984年 やまもも
★内容
アメリカのアップルコンピュータ社が初代マッキントッシュを発売したのは
1984年である。その年から遡ること35年前に『1984年』という未来
小説が発表されている。英国人作家のジョージ・オーエルの作品である。オー
エルの『1984年』には、独裁者ビッグブラザーが支配する未来の全体主義
国家が描かれている。ビッグブラザーは情報を徹底的に統制、管理、操作し、
民衆統治の手段としてコンピュータを最大限有効に活用する。
アップル社が初代マックを1984年から売りだそうとしたとき、このオー
エルの未来小説『1984年』をもじったコマーシャルをスーパーボウルのテ
レビ中継のときに大々的に放映した。徹底した管理社会のなかで主体性を喪失
し無気力となった民衆達が映し出され、彼らが無表情で見つめる大スクリーン
からは、「偽情報という有害無益な邪魔者は歴史のくず篭に葬り去られた。あ
らゆる細胞の一つひとつよ、喜びたまえ!今日を゛情報浄化命令゛の最初の栄
光ある記念日として祝うのだ」といったナレーションが聞こえてくる。スクリ
ーンには独裁者ビッグブラザーが大写しにされる。そのとき、マックのTシャ
ツを身に着けた若い女性が大スクリーンに走り寄り、ハンマーをスクリーンに
投げつける。このコマーシャルの最後にはつぎのようなナレーションが入る。
「1月24日、アップル・コンピュータ社はマッキントッシュを発売しま
す。だから、おわかりでしょう、1984年は『1984年』のようには
なりません。」
このコマーシャルには、マックはIBMなどのメインフレームによる情報統
制を打破するパーソナルなコンピュータであり、人間の個としての自己発展を
うながすツールとして誕生したという強烈なメッセージがこめられていた。そ
して、人間の自由な発展を願う人々が、このようなメッセージを支持し、マッ
クに熱き思いを託した。
だが、このコマーシャルを見ていた一人の男がにやりと冷たい笑みを浮かべ
ながらそっとつぶやいた。「コンピュータは両刃の剣、優れていればいるほど
ビッグブラザーの統治の手段としても有効に機能するんじゃないかな」。する
と、男の見ているテレビでまたコマーシャルが始まった。コマーシャルはつぎ
のようなものであった。
ビッグブラザーの独裁的な統治体制下、過酷な労働に疲れきって家路を急ぐ
民衆の群れ。彼らが通りすぎる巨大な白亜のビルの壁面には、つぎの4つのス
ローガンが書かれている。「無知は力である」、「自由は屈従である」、「戦
争は平和である」、「国際貢献にPKO法案」。だが、帰宅した民衆たちは、
家では国家真理省情報文化局ソフトウェア開発部製作のマックの楽しいゲーム
に没頭し、その抑圧された欲望をゲームのなかで思う存分に解き放つことがで
きた。また、ゲームソフトにはサブリミナル・メッセージが仕組まれており、
ゲームのプレイに熱中することを通じて知らず知らずのうちにビックブラザー
への新たな崇拝と忠誠の念も強まるのであった。
このような画面に重ねて、ビッグブラザーに忠実なテクノクラートの一人が
今後の民衆統治の方策をマックを使ってあれこれ構想しているところが描き出
される。そのテクノクラートは、なんと今このコマーシャルを見ている男と同
一人物であった。テレビの中の彼が眼鏡をキラッと光らせて、「グッドアイデ
ィア」とにっこりしたときに、「マックは偉大な指導者ビッグブラザーの忠実
なしもべです」とのナレーションが入ってコマーシャルは終った。