#1820/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ ) 92/ 6/18 0:39 ( 69)
続「うつつとなる」 やまもも
★内容
第9話 変態
彼は変態であった。えっ、被虐趣味でもあるのかって。いえ、サドマゾの方
面じゃないんですよ。出歯亀とかロリコン、また屍姦や獣姦なんてのとも関係
ありません。でも、やっぱり彼は変態なんです。ただ、なんともひどい変態な
もんですから、その変態ぶりをここであからさまに語ることはちょっと差し控
えたいんですね。とにかく、それはあまりにもアブノーマルで背徳的であり、
また彼の身も心もどんどん蝕むものであった。悩み苦しんだ彼は、藁にもすが
る思いでとうとうあの玉手箱を開けた。すると、煙がどっと吹きだし、彼は気
を失った。しばらくして正気に戻った彼は、ある施設で隊を編成して集団訓練
を受けている自分を発見した。
指導員が大きな声を張上げた。おーい、みんなセイレーツ、気を付けーっ、
はい番号、1、2、3、4、……、よーし、右向け右、左向け左、前向け前、
駆け足進めーっ、おいっちに、おいっちに、おいっちに、おいっちに、……、
よーし、ヘンターイ止まれ!!はい、今日の訓練終りっ!!
第10話 かちかち山異聞
「ところが どろのふねだから たまらない。どろが しめって くずれだ
し、ぱっかり われて、しずんで しまったそうな。たぬきも いっしょに
しずんで しまったそうな。これで おしまい とっぴんぱらりのふう。」
父親が「かちかちやま」(松谷みよ子文、瀬川康男絵、ポプラ社刊)を読み
終ると、男の子はすっかり満足したのか、すぐに寝息をたてて眠り出した。し
かし、父親はこの昔話に登場するタヌキの形象になにか心がひっかかるものが
あった。父親は玉手箱を取り出して蓋を開けた。すると、眼の前に一匹のタヌ
キの姿が浮かび上がって来た。
ポーンポンポン、ポーンポンポン。かちかち山のたぬ吉は中天に輝やく月の
光りを浴びながら腹鼓を打ち続けた。ただひたすら腹鼓を打ち続けた。彼は忘
れたかった。だから、狂ったように腹鼓を打ち続けた。
だが、どんなに脳裏から拭いさろうとしても、老婆のかっと大きく見開いた
両の眼が闇の中に浮かび上がって来る。拭っても拭っても、額を朱に染めた老
婆の顔が彼の心に襲いかかってくる。
「あんたが悪いんだーっ!」。たぬ吉は耐え切れずに叫んだ。彼の声は赤膚
の山々に虚しくこだました。月の光りが無惨に伐り倒された杉、松、桧などの
切株を冴え冴えと照らし出し、草の根を掘り起こされて醜く露出した山の地肌
を冷たく突き刺していた。
「あんたが悪いんだ」。たぬ吉はつぶやいた。そうなんだ、ばあさまのあの
言葉が彼の心を狂わせたのだ。彼を縛っていた藤蔓をばあさまが解いてくれた
とき、心からばあさまに感謝したものだ。そして隙を見つけて逃げ出すことば
かりを考えていた。ばあさまを殺すつもりなどこれっぽっちもなかった。彼は
ばあさまだけでなく、彼を捕まえて藤蔓で縛り上げたじいさまも憎んではいな
かった。
勿論、人間達がかちかち山をオノやスキ、クワで醜い赤膚の山にしていくこ
とはたぬ吉たちの生活を脅かした。しかし、人間も俺達と同じ様に生きるため
に必死なのだ。飢えたキツネに追いかけ回されるウサギは、キツネを恐れては
しても、だからといってキツネを憎みはしない。それと同じ様にたぬ吉も人間
を憎んだりはしなかった。じいさまが山の畑にせっせと蒔いた種をたぬ吉が食
べようとする。じいさまがそんなたぬ吉を捕まえようとする。どちらの行為も
当り前のこと。じいさまが木の切株に松やにを塗ってたぬ吉を捕まえた。じい
さまの知恵がたぬ吉の知恵に勝ったのだ。ただそれだけのことなのである。
「あんたが悪いんだ」。たぬ吉はまたつぶやいた。そうなんだ、ばあさまが
「かわいそうだから逃してやるが、もう二度と悪いことをするんじゃないよ」
と彼に言ったとき、突然なんとも言えぬ激しい憎悪をこの老婆に感じたのだ。
ちらっと顔を見たら、全く邪心の無い、なんとも優しい顔を老婆はしていた。
老婆は分の「慈悲深い行為」にすっかり満足しきっている様子であった。たぬ
吉の心に殺意が生まれた。
たぬ吉は、粉つきの手伝いをすると言ってばあさまから杵を受け取ると、そ
の杵をばあさまめがけて大きく振り上げた。…