#1736/3137 空中分解2
★タイトル (AJC ) 92/ 5/31 2:37 (113)
加藤さんダイエット 木村ガラン
★内容
フラン法で痩せましょう。これは最新の痩身法です。体内にプラズマを通すことによって、脂肪を燃焼させるといいます。この痩身法を行なうには高度の技術が必要ですから、山本さんは不法のエステシャンということになります。いけないことだと解っていても、低料金なので、彼の美容エステテックは繁盛しています。加藤さんも彼の所に通っていました。通い初めてから一ヵ月後、私は彼女と再会して驚きました。肥満していた加藤さんは見事に痩せていたのです。
「どう、やせたでしょ」
加藤さんは、得意そうにポーズを取りました。
「痩せたなあ、局部痩身というやつかい」
「ううん、ちがうわよ」
と言って、加藤さんは一寸だけ自分の体を見ました。その顔には満足そうな表情が浮かんでいます。
「凄い痩せ方だなあ、大丈夫なのかい」
「なにがよ」
「そんなに痩せちゃって、具合は悪くないかい」
加藤さんの身体は、一見、以前と何の変化もないように見えます、一部を除いては。
「わるいわけないじゃない、わたしはこんなにすてきなぷろぽーしょんになったのよ」 と言って、加藤さんは、また、満足そうに自分の身体を見ました。どうやら、彼女の目には自分の身体が、理想的なスタイルる嫻っているようです。その理由も私には何となく分かりました。
「ふーん、それじゃあ、君の目には自分の身体が美しく見えているんだね」
「もちろんよ、ごらんのとおりよ」
と言って、加藤さんは、クルリ、と回ってみせました。すると、フレアスカートの裾が翻り、肉付きのいい太股が剥出しになりました。それは一月前の加藤さんの足そのもののようでした。
「ふーん、ご覧の通りか、……なるほど」 私は頷きました。そして、微笑しました。
「ええ、そうなの、わたしはきれいになったの」
そして、加藤さんも笑いました。その笑顔はとてもすっきりしたものでした。
「そうだね、綺麗になったね」
加藤さんの笑顔は以前とは明白に違っています。以前にあった影のようなところが、なくなっています。それと一緒に知性的な光もなくなっています。そうです、加藤さんの笑顔はとても明るいものになったのです。私はその笑顔を、からっぽの笑顔だ、と感じました。
「ええ、みにくいわたしは、もう、どこにもいないの。このせかいには、うつくしいわたししかいないのよ」
と言って、加藤さんは笑っています。彼女の頭は頭蓋骨ごとソフトボールくらいの大きさにまで、縮んでしまっています。どうして、そんな事になってしまったのかは分かりませんが、フラン法の痩身術にはまだまだ改善の余地があるようですね。
「そうだね、加藤さん、君はとっても綺麗になったよ」
私は、奇怪な姿になった加藤さんを気の毒だとは思うけど、加藤さんはとても幸せそうにしているので、幸せです。頭だけが痩せてしまうというのは、ひどい副作用だと思いますが、それの治療法がなさそうに見える以上、幸せになった加藤さんを私はそっとしておいてあげたいと思うのです。
「そうでしょ、きれいでしょ」
君は明るく笑い続けています。それは脳の少なさがそのまま表れた原質的な笑顔です。 「綺麗だ、とっても綺麗だ」
と、私は言いいました。そして、加藤さんのすっきりした笑顔を好ましく思いました。
「じゃあね、おおばやしくんにも、きれいなわたしをみてもらわなくてはならないの」 そして、加藤さんは後ろを向き、立ち去っていきました。少し離れた加藤さんの姿は、頭が異常に小さいので、物凄く体格のいい大女のように見えました。
「そうだね、きっと、大林も褒めてくれるよ」
と、私は加藤さんの奇妙な後ろ姿に言いました。その声が少し乾いていることに加藤さんは気が付かないんだろうな、と思ってほっとする私でありました。
終
おまけ(一応、上でお話は完結してるので、ここからは読まなくてもいいです)
大林くんは野球部員です。学校の野球部で日夜猛練習を重ねています。いま、彼たちは練習試合をしています。一転リードの九回裏です。
むー、あと一人でゲームセットだー、むー。
打ちました。
カッキィィィン。
大林くんの守っているライトへぐんぐん打球は伸びてきます。
むー、大変だあー。落としたら負けてしまうー。
ぐんぐんぐーん。
むー、エラーしたら、石橋先輩たちにまたぼこぼこに殴られてしまうー。むー。
おおばやしー、今度こそちゃんと捕れよー。
むー、むー、むー。
ぐぐぐーん。
そこに加藤さん軽やかに踊りながら登場です。
らららん、いしかわくーん、あたしきれいでしょおー
大林くんは目の前に現われた加藤さんの可愛らしい顔を見てなにか思いました。
ぐーん、がさがさ。
ボールは大林くんの後の雑木林のなかに入ってしまいました。ホームランですね。
むー、ボールゥー。
大林くん、加藤さんの頭をむんずと鷲掴みにしました。
あったしぃーきっれいでしょおおおー
むむむー。
握るのにちょうどいい大きさでした。加藤さんの小さな頭は大林くんのゴツゴツした掌にすっぽり納まってしまいました。
むぎゅっ
むー、ばっくほーむー。
大林くん力任せにバックホームしました。
プチッ
えへ?
ばかじから大林くんの矢のような豪速球。
ぐいぃぃーん。
ザシュッ。
アウトー。
やりました。一転差を守りぬきました。大林くんのチームの勝利です。
えへへー
やるなあ、おおばやしぃー
キャッチャーの石橋くん、いまバックホームされたボールをかざして言いました。
えへへ、と大林くん。大てれです。
勝った。勝ったあ。
チームメートも大喜びで彼の元に集まってきます。
仁王立ちになり噴水のように首から血を吹き出しているのは加藤さんの体です。
その下で大喜びしているナインのユニフォームは真っ赤に染まっていきます。
こうして、わが校の連敗記録はついに36回でストップすることになったのです。
終
うーん、やっぱりおまけはいらなかったかな。