#1735/3137 空中分解2
★タイトル (PPB ) 92/ 5/30 19:44 ( 42)
「踏んづけないで・・・」 遊遊遊遊
★内容
青森県・下北半島にある、「恐山」は、慈覚大師が開いた霊場である。
恐山は、全国の死者の霊が集まるところとして有名である。 恐山と、峰ひ
とつ背中あわせに、奥薬研温泉というのがある。 ここには「カッパの湯」
という混浴露天風呂もあって、楽しいところだが、裸天国だけではない。
昔から、奥薬研温泉には、幽霊が出るという噂があった。 若い旅人二人
は、そんなことは無視していた。 「カッパの湯」をめざして、夜の山道を
二人が歩いていく。 ふもとのホテルで満腹した二人は、腹ごなしに行って
みようかと、フロントから懐中電灯を借りた。 ブナの原生林を貫く道路が、
蛇行して山奥に向かっている。 地元の人々は、夜の山道はあまり歩かない。
街路灯もない暗闇の山道を、薬研温泉から奥薬研へ向かって、都会人の二
人づれは、無邪気に歩いていた。 2キロくらいだったら3〜40分も歩け
ば「カッパの湯」に着ける。 露天風呂での楽しみを思うと、暗闇なんて気
にならなかった。 若い二人はふざけあいながら、ブナの原生林を歩いてい
た。
男の方が、小便がしたくなって、草叢に入った。白い丸い石に立った。
「踏んづけないで・・・」と、かすかな声がする。
「?」と思ったが、男は、そのまま、立ち小便を続けた。
「そちらに掛けないで、うちのひとが・・・」と、また声!
彼はしゃれこうべを踏んでいるのだ。
女も一緒にした。
何事もなかったように、二人はまたふざけあいながら、奥薬研温泉へ向か
って、暗闇を歩き始めた。 草叢のしゃれこうべから、青白いほのおが上が
った。 すぐそばから、もうひとつ・・・・ひとだまが、ふたつ 旅人を追
っている。
男女の旅人が、背後にぞっとするような寒気を感じた時は、既に遅かった。
恐山に集まった無数の霊が、前方からまねいている。 「おいで!おいで!」
と霊たちの大合唱が、二人連れを誘う。 ひとだまが追い付いた。 暗闇の
二人の頭上を、青白いほのおがふたつ、ゆらゆらと舞っている。 投げ出さ
れた懐中電灯の光がむなしく路上を照らす。 ひとだまの命ずるままに、道
をそれ、森深く入った二人連れは、木にぶらさがった。
露天風呂を楽しみに、夜の山道を奥薬研までやってきた二人連れは、今も
ぶらさがっている。 やがて、彼らもしゃれこうべになる。
1992−05−30 遊遊遊遊(名古屋)