#1678/3137 空中分解2
★タイトル (GVJ ) 92/ 5/12 8:27 ( 34)
ネパールの三馬鹿(21) 青木無常PLUS
★内容
と、前方から見覚えのある顔が歩いてきた。島で喜捨を要求してきたあの聖者だ。
髭ぼうぼうの小汚い聖者も俺に気づいて片手をあげ「いい旅はできたか?」と叫ん
だ。夢見心地のままうなずいてみせる俺と胡散臭い聖者とは、微笑みかわしながら
すれちがった。
そのうち、ふと商店の灯りが途切れて真っ暗な道が前方に見えてきた。と、話し
声はそのまま、すこし離れて後ろを歩いていたKとYの歩調がにわかに早まる。あ
れよという間に俺の背後にぴったりと追いついた。お喋りはあいかわらず途切れ目
なくつづいている。小暗い一角を通りすぎると、すうとまた距離をおく。現金なも
のだ(Y注:むこうの小暗い所って、半端じゃなく暗いのです)。
そのうちに歩くのにも疲れてきたので、タクシーを拾った。
ホテルに着く頃には、俺はもうすっかり醒めていた。
それにしても今日はたくさん歩いたものだ。ふう、と息などつきつつベッドに腰
をおろすと、とんとんとノックの音。Kだ。目が好奇心にきらきらと輝いている。
用件など聞かなくてもわかる。Yも来た。よろしい。入りなさい。まずは煙草から
葉っぱを全部ほぐし出してしまうのだ。何を待っているんだ、自分でやりなさい。
はい、煙草。
たどたどしい手つきでほぐし出された葉っぱに、俺は麻薬屋の真似をして指でも
りもりと黒い塊から細片を押し出し、混入した。さあ今度はそれを煙草につめ直す
のだ。ほれ。なんだか手際が悪いなあ。しようがないか。
とたどたどしく時間をかけて出来上がったハシシ煙草に、いよいよ火が入る。一
本を喫い終わった二人に、のんびりとしているのだよと言って俺も煙草に火をつけ
る。これは普通の煙草だ。
煙草も喫い終わり、二人とならんでぐってりしていると、しばらくして不意にY
がフフフッと笑った。これがそうか、とつぶやく。来ているらしい。Kは……なん
だかしきりに、あれえ、とか、これがそうかなあ、とか戸惑い気味だ。喫った量は
同じなので、やはり効き目には体質も関係あるらしい。
Yが深く沈静しているのを尻目に、Kはもう一本喫うことにした。真剣な目つき
で一所懸命ハシシ煙草を制作する。そんなに焦らなくても大丈夫だって。
そうして三十分ほど経ったろうか。Kもすっかり沈黙の底に沈みこんだ。ときお
りYが自分の状態についてコメントするほかは、すっかり静かなひとときだった。
もう充分効いているだろうと判断し、俺はふたりを部屋に返して冷水シャワーを頭
から浴びた。
いい旅だった。