#1556/3137 空中分解2
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Rock'n Roll Cinderella (7)Farlia
★内容
俺は先程の夢の回想シーンに入っていた。何となく、夢と現実とがゴッチ
ャになって区別がつかなくなっているのだ。
(あの夢は予知夢ってこともありえる。ってことは………恐ろしい。それ
に、『竜人会』だってよ、おい。どーすんだよ俺は。ヤクザって言っても、
そこら変の三流のヤクザだとばかり思っていたのに……それどころか、超一
流のヤクザときたもんだ。三流でも持て余すと言うのに……)
『竜人会』広域暴力団の中でも凶悪な連中の揃っている組で、いつもマス
コミ連中を賑わしている。構成員約五万人。日本全国津々浦々至る所にはび
こっている。言わば、ゴキブリ的存在なわけだ。こいつらが、俺たちの相手
である。はっきり言って勝ち目は薄いと思う。考えてみろ、五万人一斉に追
い掛けてくるわけがないにしても、かなりシビアな事に変わりがな
い。どうしたらいいのか…………無い頭を絞って、一生懸命考える俺。
「な〜に、考え込んでんのよ。そろそろ行くわよ」
俺の悩みを知らないのか、いたって脳天気な舞。否、相変わらずなのかも
しれない。まるでこれから『お出掛けなのよ』ってな雰囲気なんだから、緊
迫感なんてものはきっと微塵もないのであろう。一番の当事者でありながら
部外者にしか見えないのも、きっと気のせいだ。
「ほらほら、グズグズしないの。置いてっちゃうよ」
舞は長い髪と、それとは反対のミニスカートを翻してパタパタと出て行っ
てしまった。
俺の苦労をよそに、舞の元気な事といったらありゃしない。まぁ、元気な
事は一向に構わないのだが、出来れば自分の立場を理解してもらって少し淑
やかにしてもらいたいのだが……
「おいおい、ちょっと待った。一人で外に出たら危ないってば」
溜め息一つついて、俺も舞の後を追うことにした。
が、このとき、もう一つ重大な問題があることを、俺は忘れているのだった。
* * *
* * *
俺と舞は、バスに揺られていた。、
平日ではあるが、結構バスは混んでいたりする。だから当然のごとく、俺
たちは吊り革を片手に立たされている。で、なぜここに居るのかと言うと、
もちろん買い物という名目ではあるが、一応逃げているのである。情け無い
ようではあるが、仕方がない。
「でねでね。その後に遊園地に行ったり、御飯食べたりなんかしてれば時
間潰せるんじゃない?」
「ん〜そうだなぁ。その通りにすんなり行くとは思えないけど………まぁ
予定としてはそれでもいいんじゃないかな?でもさ、そのコースって結構お
金が掛かるよなぁ、金が。………金?」
金。何となく嫌な言葉だ。俺は無意識のうちに財布を取り出すと、中身を
叫び出したかったが、声には出せなかった。代わりに、汗が出てきた。
「お金がどうしたのかなーっとぉ」
俺が財布を手に呆然としていると、舞がさっと財布を奪い取り中身を確認
している。
「こっこら。返せ」
別に取られた所で構わないのだが、今の財布の中身だけは覗いてほしくな
かった。
「寂しい財布ですこと………」
舞が、ポツリと一言。
「だー。ほっとけ」
「へ〜。そんな憎まれ口叩いてもいいのかなぁ。バス代払えない人がさぁ」
バス代と言う言葉を強調しながら、舞は不敵な笑みを浮かべている。
「くぅぅ。まったく何てこった。仕方がない。金を借りてやるかな」
俺は片手を舞に突き付け、借りてやろうというポーズをとる。
これが、俺の精一杯の虚勢であった。。
「ほ〜。そんな事言うのね。………運転手さーん。この人無賃乗車しようと
………もごもご」
俺は何とか笑ってごまかしながら、回りにヘコヘコとお辞儀をする。
俺は舞の口を押さえながら謝っていた。謝る位なら最初っから素直に『貸
してください』と言えばいいところなのだろうが、あれもこれも優位に立た
せることを何とか防ぎたいという気持ちが、少なからず俺の中にあったのか
もしれない。
”主導権は俺が握っていると思いたいが、それすらも危ういような………
いやいや、そんな事いったら、俺は単なるオマケになってしまう”
「そうそう。最初っから素直になってればいいのにねぇ。まぁ、お金のこ
とは、あたしに総て任せてくれればいいの」
と、ウィンク一つ。
「はぁ。でも任せろって……そんなに持ち合わせあるの?」
一億円もの借金か買えているのだから、手持ちも少ないと考えるのは当然
の事だ。ましてやこれから先、俺の分まで払うとなると、倍の金額を払わな
ければならないわけだ。流石に、舞がそこまでお金を持っているとは思えな
い。
「へへっ。大丈夫だよぉ。ほらほら」
この娘にしてこの財布…………がま口を差し出しパチンと開く
な〜んと、一万円が十枚一束で十束もある!金額にして百万円也。
驚いたなんてもんじゃあない。俺はこの札束を見るなり、
「ひゃ、百万円も、何で持ってんだよ!大体普通は百万円も、持ち歩くや
つなんかいないぞ。」
と、我を忘れて、ばかでかい声を張り上げてしまった。
我に返ってみると、バスに乗車している人の視線が俺に集まっていること
に気が付いた。……否、まてよ。俺に視線が集まっているんじゃあない。が
ま口だ。舞が手にしているがま口に、視線が集中しているようだ。
俺は回りにいる全ての人が犯罪者に見える、そんな感覚に囚われつつあっ
た。
ズズズズッ。前方に力が掛り、バスがゆっくりと停止する。
どうやら信号が赤らしい。交差点の前で止まっているこのバスの前を、乗
用車や道行く人々が左右に行ったり来たりしているのが、フロントガラス越
しに見ることができた。
「ねぇ、瞬ちゃん。あの人、な〜んか危なそうなんだけど……」
傍らにいる舞が、小さな声で俺に話かけてきた。
「ん、どこ?」
「あそこあそこ」
差されている本人に背を向けるようにして、舞は自分の胸のあたりを指差
している。なるほど、これなら差されている本人は、舞自身が影になって指
の動きを見る事ができない。つまり、感付かれないって訳だ。
俺はさり気なく、舞の指差す方向を見てみた。
なるほど、確かに男が視線を送っているようだ。
年は20代位出あろうか。髪はボサボサ、髭は伸びているわで貧乏学生か
、はたまた浮浪者か?いまいち良く分からない。背丈は高いようだが、どう
見てもモヤシにしか見えない。
”こいつなら、俺でも勝てる!”
俺は、そう感じ取った。
「あの、ひょろ長い奴だろ?大丈夫だって、何もできそうにないだろ?」
「そぉ?」
舞は、そーっと後ろを振り返り見ている。
「ちょっとぉ。こっちに来るよぉ」
そう言うと、舞はひきつった顔を俺に向ける。
「へ?」
俺が男の方を見たときには既に、目の前に立ちはだかっているではないか。
「あっあの、何か用でも?」
ひ弱そうな相手でも、ついついビクついてしまうのは俺の悪い癖だ。先程
まで、こいつには勝てると思っていても、実際目の前に立たれると強そうに
見えるから不思議なものである。
男は俺の言葉に反応して一瞥をくれるが、すぐに舞のほうに向き直ってし
まった。どうやら、俺はおよびではないようだ。もしかしたら、『竜人会』
の連中かな?とも思ったが、そのようには見えない。ヤクザって位なんだか
ら、もう少しビシッとした奴が出て貰わないと、こちら としても表し抜けっ
てものだ。
声が上擦っている。まぁ、あのむさ苦しい顔を近付けられているのだから
仕方がない。あの顔を前にしたら、誰だってそうなること請け合いだ。
「そ…その…」
男が口を開いた。その姿から想像できる通りの、汚らしい声。一体どこか
ら声を出しているのだろうと考え、喉飴をあげたくなる気持ちを俺は抑えた。
「その?」
顔を引きつらしながら応答している舞を見ながら、俺は苦笑していた。
「その……そ…その、金をよこせー」
男は一気に喋ると、舞に襲いかかってきた。
”そうか、さっきの会話が聞こえてたか…って、バスの乗客全員知ってる
わな。あれだけでかい声で言えば”
「きゃああぁあ」
盛大な悲鳴が、バスの中に轟く。
俺は舞に襲いかかっている男を張り倒すため、ストレ−トを一発顔にぶち
込もうと………したら、既に舞の拳が男の腹部に深々と食い込んでいるでは
ないか。キャーキャー叫んでいる割に、これは……うぅむ。
小さなリングと化したバスの中で、おお!と言う歓声が駆け巡っている。
正当防衛を通り越して、過剰防衛にならなければ良いが……などと考えて
いるすきに、いつのまにかムックリと起き上がってくる男。
ボカッ。俺は男を無造作に殴り倒す。
男はいとも簡単に倒れたが、再びスット起き上がる。
「はぁはぁはぁ。何で起きあがってくるんだよぉぉ」
俺はそのとき、この男の中にゾンビの姿を見出だしているのだった。
起きては殴り起きては殴り、そんな事を繰り返しているうちに、こちらが
グロッキ−気味になってきた。
「もうだめだぁ。舞ちゃん、逃げるぞ!」
最初はキャッキャ言いながら楽しんでいた舞と乗客達も、流石にこの光景
に呆然としている様子だ。
「逃げるって言っても、もうバス動いてるよぉ」
人間サンドバック相手に戯れ合っている間に、バスは当の昔に目的地目指
し一路道をひた走っていた。
だしさっ」
俺は舞の手を取って運転席の前に立つと、
「すいませーん。申し訳ないけど下ろしてください……」
懇願していた。バスの奥では、再び起き上がってくる男の姿が見える。
「かしこまりました」
機械的な言葉と共に、運転手はウインカーを出し道に停車してくれた。
ガシャッ。
扉が開き、俺は有り金総てはたいて下車した。
俺たちが降りると扉を閉め、バスはさっさと行ってしまった。あの男を残
して………
* * *
「何だったんだ、あれは?」
俺は、先程のゾンビのことを口にしていた。あれだけ殴られて起き上がっ
て来るのだから、余程打たれ強いのだろう。雑誌の通信販売の欄に『人間サ
ンドバック ゾンビ君』
って名前で売り出したら、きっと売れるに違いない。
「でも、個性的でいいんじゃない?」
舞は右の人差し指を、顎に当てて思案顔。
「個性的っていうのかなぁ?」
バスとは正反対の方向に歩き出しながら、俺は呟いた。
「でも、出来たらもう会いたくないわね」
「ごもっとも」
「で、これからどうするの?せっかく久し振りに街で買物ができると思っ
てたのに」
途中で下車したしたのだから仕方がない。それにバスの方向へは間違って
も行けない訳だし…まぁ、行けないこともないのだが、ゾンビともう一戦交
える気には到底ならなかった。
「なに、ここら辺でも買い物くらいなら十分出来るだろ?」
市街地の手前って事もあってか、街の繁華街とまではいかないまでも、そ
のに対し、ここは六車線もあって排気ガスやらクラクションの音やらで喧騒
とした雰囲気からでも、俺にとっては十分すぎるほど街らしい街なのだ。だ
が、舞の表情から見て察するに『あたしは、ここを街とは認めないわ』てな
具合らしい。俺と舞で感じ方が違うのだから、そこらへんは仕方がないのだ
が。
「うん。じゃあ、あそこからっ」
舞は俺の手を取ると、一路目指す目的の店へと走った。