#1476/3137 空中分解2
★タイトル (NRG ) 92/ 2/26 2:46 (164)
戯曲 「たこ姫悲話 中の下」 たこ姫作
★内容
爆竹が鳴り響き、ウェディングマーチが始まる。イヌ、サル、キジ、女官1、
2、3、たこ坊主、ばあや、キャンドル、ウェディングケーキ、ブーケ、その他
ウェディググッズを持って登場。口々に「おめでとう」と言い交わしながら、桃
太郎とたこ姫を祝福する。たこ姫大喜び、桃太郎キョトンとしている。
ばあや (たこ姫にウェディングドレスを着せ掛けながら)姫様、ようやりました。
たこ姫 うん。第1幕にはなかったあの長ゼリフ、こなすのたいへんだった。
ばあや ばあやは奇跡を見ているようでございます。(咽び泣く。)
たこ坊主 何が奇跡なものか。わしがちゃんとあのキジどもを買収しておいたから、
うまくいったんだぞ。
たこ姫 でもあの連中、なんにもしなかったよ。
たこ坊主 何も邪魔をしなかったからよかったのではないか。あのお祭り好きにこれ
以上何を望むというのだ。
ばあや それにしてもだんな様、この度はまことにおめでとうございまする。
たこ坊主 ウム。わしもようやく鬼ガ島の実質的な支配権を握った。これで、あの玉
姫野郎のおかげで被ったホテル業の大損害を挽回できるぞ。(桃太郎に)な
あ桃殿、きょうからわしはそなたの義父、よう孝行しておくれ。
桃太郎 オラ、ヤッパシ、結婚すんだべ?
全ての音がピタッと途切れる。一同、桃太郎を包囲し、覗き込む。
たこ姫 ではさきほど「はい」とおっしゃった
あの誓いは酔っぱらっていたの?
あなたの愛はそんなものなの?
ご自分のすることがこわいのね。この世の華と
思い定めたたこを手に入れたいと望みながら、
ご自分で臆病者と思い定めて生きていこうというのね?
イ ヌ 桃ちゃんの臆病者!
サ ル 桃ちゃんの酔っぱらい!
キ ジ この不名誉な件については、ばあちゃんにご報告せねば。
桃太郎 オラ、ただ・・・。
たこ姫 お願い、そのことはもうおっしゃらないで。
悲しいくやしいああなさけない
これではあんまりひどすぎる、
それが男と思うてみても
許す気持になれようか、
抱いてあれほど夫婦になると
誓ったことばはどうしたの?
一 同 ハイ、どうしたの?
一同、包囲網を縮めて、桃太郎を窺う。
桃太郎 わかった。わかっただ。結婚すればええだろが。
教会の鐘が鳴る。パイプオルガンの荘厳な調べにのって、ばあやに付き添われ
た花嫁たこ姫が、キジが付添いを務める花婿桃太郎の隣にしずしずと歩み寄る。
神父姿のたこ坊主、聖書を片手に二人の前に立つ。音楽止む。
たこ坊主 これより、桃太郎ならびにたこ姫、両名の婚礼の儀を取り行います。
桃太郎 もうやんだべ? ばあちゃんにゆうとかんにゃあ、・・・。
イ ヌ 桃ちゃんたら、まだゴネてやんの。
キ ジ と思われますぞ。
サ ル ボクがばあちゃんに言っとくよ。
キ ジ ですから、ここは一つ穏便に。
桃太郎 うん。
たこ坊主 ゴホン。桃太郎よ、汝はこのたこを娶り、死が二人を分かつまで、生涯慈
しみ、義父のいう通りにすることを誓うか?
桃太郎 うーんと、・・・。
「サウンド・オブ・サイレンス」が流れてくる。ドンドンと扉を叩く音。女の
声が「モモタロー! モモタロー!」と繰り返し叫ぶ。
女官1 ねえ。思い出さない?
女官2 あのなつかしの映画の
女官3 ラストシーン。
女官1 ダスティ・ホフマン主演、
女官2 キャサリン・ロス共演、
女官3 映画「卒業」!!
音楽のボリュームが上がり、ノックが激しくなる。それにつれ溶暗。バタンと
扉が蹴破られる音。音楽ストップ。逆光で数人の人影が浮かぶ。
一 同 誰だ?!!
照明が戻る。自衛隊の制服を着た武装した兵士のまん中に、女性指揮官がハン
ドマイクを持って立っている。
指揮官 われわれは、国連から派遣された平和維持軍PKFである。桃太郎とその
一味は武器を捨てて、投降しなさい!
桃太郎 なんじゃ、こりゃ?
たこ坊主 わしらは平和に結婚式を取り行っているところ、
たこ姫 平和維持軍なんかがなんでくんのさ?
指揮官 われわれは鬼ガ島解放のために来た。
イ ヌ 鬼ガ島は解放的だよ。
サ ル 今度マリンランドもできるしさ。
キ ジ 週末の解放感に浸るにはピッタリ。
指揮官 鬼ガ島政府は、桃太郎とその一味によって主権が蹂躙されているとして、
国連に軍隊の派遣を要請した。国連は調査団を派遣し、桃太郎とその一味が
鬼ガ島を侵攻、鬼の角を折るなどの残虐行為を働いた挙げ句、現地住民の財
産を不当に没収した事実を確認した。
桃太郎 オラ、鬼退治したんだべ。
イ ヌ ボクらだって、危なかったんだったんだぞ。
サ ル ボクらは国際平和に貢献したんだ。
キ ジ したがって、ワタシたちと桃ちゃんはノーベル平和賞モノだと思いますね。
指揮官 鬼ガ島侵攻は誰の要請によるものか?
桃太郎 よーせー? 誰からもこーせーともあーせーとも言われんかったわい。た
だ、ばあちゃんが「鬼退治して、ワシらんちに宝もんようけ持ってけえるえ
え子はおらんかのう。誰もおらんだろうなあ。やっぱ、おらんのかのう」ち
ゅうとったのを聞いたけえ、オラが自分で決めたんじゃ。
指揮官 かつて日本国は朝鮮征伐と称して朝鮮に出兵した。しかし主権国家の権利
を犯す行為は正当化されない。歴史上、秀吉の朝鮮出兵が侵略戦争として位
置づけられるのはそのためである。今回の鬼ガ島侵攻にはまったく大義名分
がない。よって、国連安全保障理事会は全会一致で、桃太郎とその一味に対
する非難決議を採択した。
ばあや これこれ指揮官殿、平和維持軍といえば、停戦合意が成された上でその実
行を監視するのが目的のはず。鬼どもは桃殿に降参して、停戦は成立してお
ります。しかもこれこの通り、婚礼の儀が行われるほど平和そのもの。お役
目ご苦労でございました。お引き取りくださいませ。
指揮官 安全保障理事会は桃太郎とその一味に対して、次のような条件をつけて、
停戦勧告を行った。
(1)鬼ガ島で不当に没収した住民の財産を速やかに返却すること。
(2)鬼ガ島から無条件に撤退すること。
これに対して、
(A)桃太郎側からは勧告を拒否する意志表示がなされなかった。
(B)桃太郎とその一味は鬼ガ島から退却した。
この(A)、(B)二つの状況から、桃太郎側は国連の停戦勧告を受け入れ
たものとみなされた。よって、停戦条約の完全な履行を迫るため、われわれ
が派遣されたのである。
たこ坊主 婿殿、そのような勧告、なんでその場できっぱり断わってしまわれなかっ
たのです?
桃太郎 ばあちゃんにきいてみょうと思っとったけえ。
ばあや この上は婿殿、武力蜂起以外ございません。いいえ、ご心配なさるな。相
手は戦闘行為を主眼としない平和維持軍。戦になれば、憲法9条を楯に逃げ
ましょう。
指揮官 いかにもわれわれは戦闘部隊ではない。しかし国連の停戦条約が破棄され、
戦闘状態になった場合、自由と民主主義を守るために武器を取るのにやぶさ
かではない。まして正当防衛は認められている。全員、配置につけ!
隊員一同 はっ!
舞台の奥が崩れ、銃を構えた隊員たちが桃太郎たちを取り囲む。
指揮官 桃太郎とその一味に今一度、告ぐ。武器を捨てて投降しなさい。
桃太郎 おのれ! ものども、やれ!!
戦闘場面の大活劇が始まる。といっても、実際に立ち回りをしているのは桃太
郎だけ、他はみんな逃げ回っている。たこ坊主、さっさと退場。たこ姫、オロオ
ロ、ウロウロ、やたら邪魔。
隊員A おーい、ちょっと。おばさん、邪魔だよ。
たこ姫 お・ば・さ・ん・! それはもしかして、わたしのこと?
隊員A あれ、おばさんじゃないの? なら、おじさん?
隊員A、たこ姫に近寄りジロジロながめる。
隊員A やっぱり、おばさんじゃないか。
たこ姫、ブッ倒れる。離れた所で一部始終を目撃していたばあや、とんでくる。
ばあや 姫様、お気をたしかに。
隊員A この人、どったの?
ばあや 姫様はこのお年になっても、おばさんといわれるのがショックなのです。
それを3度も呼ばれたものだから、気を失ってしまわれた。かわいそうな姫
様。今、お水をお持ちいたします。
ばあや、退場。隊員A、ばあやが行くのを見計らって、たこ姫を担いで退場。
ばあや、金バケツを持って登場。
ばあや 姫様、お水を。あら、姫様は? 姫さまー、たこ姫さまー!
ばあや、たこ姫を捜し回る。暗転。
[つづく]