AWC 「カードがない!」 −1枚のカード−   YOUNG


        
#1388/3137 空中分解2
★タイトル (BWA     )  92/ 1/15  11:26  ( 87)
「カードがない!」 −1枚のカード−   YOUNG
★内容

あー、イライラする。早くしろよな、まったく。こっちは急ぎなんだよ。男だろ。男
だったら、さっさと切り上げろって。あー、ここ通るたび見てるけど、いつも空いて
るんだよな。どうして使いたいときに限って空いてねぇんだよ。早くしろってば、こ
のやろう!

「すいません、まだ時間かかりますか?」

ん? 終わったか? よしよし。こういう時は、ただ黙って待ってちゃいけないんだ
よな。はいはい、失礼しますよ……と。えーと……あれ? カードは……どこに入れ
たんだっけ? 財布か。財布は……と。財布はカードだらけですね、こりゃまた。こ
れ……は違うし、これは……オレンジカード……まだ20度数くらいあったと思った
んだけど……。ま、いいか。どうせ使うもんだし、買っといても。……なんだよ!
自動販売機ぐらい置いとけよ! まいったなぁ。小銭はないし……小銭、小銭……どっ
かにないか……1枚でいいから。いつも鞄の隅に何枚かあるんだけど……昨日、鞄の
中身を整理したばっかだしな……ズボンのポケットをん、つまみぃだぁしてみぃれん
ばぁん……出てくーるもぉのぉは、綿ぼーこり、綿ぼこり。のんきに歌ってる場合じゃ
ないって。おっと、これは! ……誰だよ、パチスロのコインを後生大事に持ってる
やつは。小銭さん、小銭さん。いらっしゃいましたら正面玄関までお越しください。
……いいよなぁ、俺ってのんきで。あ! 上着、上着。上着のポケットに穴あいてた
んだよな、たしか。……あったぁー! この感触は、まさしく100円玉! よっ。
……ん。あれっ。こら。入ったんだから、出てくるはずだよ。……うーむ……どうやっ
て入ったんだ、おまえ。あー、イライラする。よっ! ……あーあ、ポケットずたず
た。でも、背に腹は替えられないからな。とにかく、これでやっと……。だぁーーー!
カード専用機かよ、これ! そうならそうと早く言え! 結局、カード買いにいくし
かねぇか。

あーあ、情けねぇなぁ。……自動販売機は……ないね。こいつも、いざっていうとき
にかぎって見つからないんだ。まったく、MTTは何やってるんだか。あった!
……と、思わず大声出しちゃったじゃないか。恥ずかしい。千円、千円……あーあ、
握りしめてたもんだから、汗でぐちゃぐちゃ。……そーっと……そーっと。あ、少し
破けた。ま、いいよな、これくらい。よしよし、入った。えーと、どれにするかな…
…図柄選んでる場合じゃないって。いいよなぁ、俺ってのんきで。えい。……あれ?
ほっ! ……あれれ? へんきゃくっ!……だめか。まったくツイてねぇよなぁ。

「すいませーん。お金つまっちゃったみたいなんですけど」

あ、すいません。千円入れたんですけど……違う、セブンスターじゃなくて、千円札。
違うって。セブンスターふたつじゃなくて……買わない、買わない。あのね、おばあ
ちゃん、いい? カードのぉ、販売機にぃ、……ハンバーグが好きなの……よかった
ね。ははは……。

「すいませーん! 他に誰かいませんかー」

……もういいや。ばあさん相手にしてたら、何時間かかるかわかったもんじゃない。
このガムもらってくよ。お金は販売機の中だからねー! お釣りはおばあちゃんにチッ
プ! ……ちょっと多すぎるけど。違うって! 泥棒じゃないよー! ……ふぅ、ま
いったな。千円もするガム買って、なんで逃げなきゃならないんだ。さて、どうする
かな……。おぉ、そうだ! 喫茶店にならあるだろ。

「すいません、コーヒーください」

まさか、先客が……よしよし、空いてる空いてる。もしかして、販売機……あるな。
金はシワひとつない……と。よもや! 売り切れ……じゃないね。すっかり疑心暗鬼
だね、こりゃ。はは。よぉし、カードを手にいれたっ! 長かったなぁ、この道のり
……なんて感慨にふけってる場合じゃない。早くしなければ……ん? あれ? むむ
む?

「すいませーん、カードが戻ってきちゃうんですけど」

故障中なら、故障中だって紙でも貼っとけ! コーヒー!? いらない、いらない。
もうキャンセル! ちょっと急いでるから。あ、あのウェイトレス、笑いやがった。
いいよ、笑えよ! どうせ俺は、コーヒー飲みに入ったんじゃないんだよ。くそー、
なんてツイてない日なんだ……。あ! もう間に合わないかもしれない。もう、こう
なったら恥も外聞もへったくれもあるもんか。最初に目についた……ここでいい!

ふーっ、間に合った。しかし、こうやって落ち着いてからながめてみると、ずいぶん
豪華な内装だね。広いし、エアコンはきいてるし、間接照明のやわらかい光がタイル
を……、このタイル……七宝焼じゃないか! ひぇー、豪勢だねぇ。……待てよ……。
なんかイヤな予感が今……げっ! やっぱり! 落ち着いてる場合じゃないって!
あーあ、残り度数がどんどん減って……おい! 待て! 待てってば! あああああ。
まだ半分出かかって……。おい! 待ってくれって! 次のカード入れろったって、
カードは1枚きり。100円は……やっぱカード専用機だ! ちょっと! 待て!
ケツくらい洗わせ……せめて拭かせろ! あ、フタが閉まる……。便器のフタなんて
発明したやつは、どこのどいつ……少しくらい待ってくれたっていいじゃないかっ!
あ、いてて、痛い、痛い! ケツどけてからフタ閉めろよ! ててて……いてぇ!
便器にケツ噛まれたー!


公衆便所が汚いのは遠い過去の話になった。Managed Toilet with
Tip=トイレ管理株式会社=略称MTTが発足してから10年が経たないうちに、
アンモニア臭のするトイレは絶滅したのだ。人々の清潔志向は、清潔なトイレにいく
ばくかの対価を支払うことを厭わず、当初3分間10円だった利用料金は、人々の高
級志向によって1分間300円の豪華トイレを選択できるまでに広がった。トイレッ
トカード−−通称トレカは、今や現代人の必需品であるといっても過言ではあるまい。

               − 終 −




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