AWC 梅干し /遊遊遊遊


        
#1361/3137 空中分解2
★タイトル (PPB     )  91/12/30   1:16  ( 63)
梅干し /遊遊遊遊
★内容

 土工の仕事が終わって、今は鉄筋工が大勢入りこんでいる。 突貫工事が進
んでいる。 竹林が切り開かれて、そのあとにマンションが建つらしい。 野
山がどんどん「開発」されていく。 冬の朝、鉄筋工たちは焚火で暖をとって
仕事にかかる。 彼らは、このマンションに住むことはない。

 大晦日までに、何としても鉄筋を組み、コンクリートを打ち込まなければな
らんと、社長が怒鳴っている。 一日中降っていた雪は5〜6センチ積もって
いる。 夜になって北風も吹きはじめた。 差し入れの弁当を食って、夜業に
励む鉄筋工たち。 冷たい夜だ。

 8時過ぎになって、彼らはやっと開放された。 雑談をするでもなく、鉄筋
工たちは3人、4人とクルマに分乗して家路を急ぐ。 ひとり、遅れてマイカ
ーに乗ろうとした彼は、暗闇で両腕を掴まれた。

 「なにしゃがるんでえ」
 「・・・・・・・」
 「てめえら、なんだ」
 「・・・・・・・」
 「あんたら、誰だ」
 「・・・・・・・」

 小柄な3人が無言で彼を引きずっていく。暗くて男女は分からない。が、若
い彼が恐怖を感ずるほど、3人は力が強い。 彼は工事現場につれ戻された。
 暗闇に鉄筋柱が林立している。 巨人の骸骨たちが見下ろしているようだ。
 空から雪が落ちてくる。 もう仲間たちは誰もいない。

 3人は抜刀している。 かしらのような奴が彼に命じた。

 「脱げっ」
 「ええっ?」
 「脱げっ」
 喉元に突き付けられた刃先が、ひやりと冷たい。 彼は震えながら、衣服を
 脱ぎ始めた。 脱ぎながら、「変だな?」と彼は思った。 3人組は暗がり
 でも、異様な風体をしているのが分かる。 外国人ではない。 日本人に違
 いないのだが、俺たちとは少し違っている。 ジャンパーを脱いで震えてい
 る彼に、また刃先が突き付けられる。
 「全部脱げっ」
 「金目の物はなんにも持ってない・・・・・」
 「黙って言うとおりにしろっ。 脱げっ」
 「・・・・・・・」
 仕方なく、彼はズボンも脱ぎ下着だけになった。 また、容赦なく冷たい刃
 先が、ピタピタと彼の頬を打つ。 とうとう、彼はまっぱだかにされた。
 ううーっ! 寒い! 冷たい! 3人組は、彼の衣服を奪い合って不器用に
 着込んでいる。 奴らも寒いのだ。
 「食い物っ」
 「そそ・・・そんな物はないっ」
 非情な冷たい刃先が、下腹部にあてられる。 暗闇と恐怖と寒さで、彼はガ
 タガタと震えながら、先程、食って捨てた弁当カスのところへ3人組を連れ
 ていった。 鉄筋工の仲間たち7〜8人が食った弁当カスには、梅干しとた
 くあんが少しづつ残っていた。 3人組は奪い合ってたくあんを食った。
 梅干しを頬張った時、3人組がスーッと消えた。 素裸の彼を残して・・・

 尾張の矢作橋の下で、野伏せりの3人は気がついた。
 「オレッ、変な夢を見たぞっ」
 「オレもだっ」
 「オレも変なヤツに会った」
 3人は、梅干しの種をペッと吐いた。

 永禄元年(1558年)が終わろうとしている。 あすは大晦日だ。

             1991−12−30   遊遊遊遊(名古屋)





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