AWC 「氷梢」                  由布子


        
#1347/3137 空中分解2
★タイトル (KPG     )  91/12/23  20:21  ( 31)
「氷梢」                  由布子
★内容

  「一度あなたに会ってみたかったのよ」
  町外れの目立たない喫茶店の客は、加納夫人と朱鷺子の二人だけだった。
  加納夫人の隣の席には、イタリアの高級輸入ブランドの紙袋があった。
  朱鷺子の目は加納夫人から、その紙袋に移った。
  加納夫人は朱鷺子の視線を確認して、多少落ちつきを取り戻した。
  「あなたお勤めしてらっしゃるんでしょう? どんなお仕事なの?」
  「普通の事務員です。」
  加納夫人の目に、また苛立ちが浮かんだ。
  「人間には釣合というものがあるのよ。お分かり?」
  「はい。」
  「じゃあ、あなたと高伊達さんは釣合がとれていると思う?」
  「いいえ、不相応だと思います。」
  朱鷺子は加納夫人に同意する意味で、また紙袋に視線を移した。
  「なら、話は早いわね。高伊達さんに会わないこと、約束してくださる?」
  「はい。」
  「あなた、頭の良い子だわ。」
  「そうでしょうか。私、高伊達さんは好きではありませんから。」
  その瞬間、加納夫人は朱鷺子の視線を避けた。
  が、一瞬の内にさらに強い視線で朱鷺子を見据えると、
  「これ、私からあなたへプレゼント。」
  そう言って、紙袋を差し出した。
  「私にですか? どうして加納さんから、私にプレゼントなんですか?」
  「深い意味はないわ。気まぐれだと思って頂戴。私の知り合いが経営して
  いるお店のものなのよ。」
  「でも。」
  突然、加納夫人は立ち上がり、
  「なんて、ふてぶてしい人なのあなたという人は。」
  言い捨てると、店を出て行った。

                                 つづく




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