#1302/3137 空中分解2
★タイトル (EQM ) 91/11/27 16:23 ( 96)
<プラチナ色の輝く丘> 星虹
★内容
澄みきった青い空。ぽつぽつと浮かぶ白い雲。果てしなく続く砂漠。どこから
か爽やかな風が流れ、乾燥した空気を運んでくる。美しい光景だった。この惑星
最後の文明が崩壊して数千年という時を経たいま、かつて全盛を誇った文明は、
砂漠化した大地にかすかに名残をとどめるほどに風化していた。
砂漠の小高い丘の上、かつて古代文明が公園と呼んでいた一画に、きらきらと
輝くものがあった。プラチナ色をした金属質の花。巨大なコスモスを連想させる。
直径五メートルほどの大輪で、茎もなければ葉もない。花の部分だけを砂漠の上
に置いた、という感じの花。無数の花びらが太陽の光を受けて輝く姿には、かつ
てこの惑星に君臨していた文明への憂愁があふれていた。
よく見ると砂漠のあちこちに、その花はあった。丘の上のよりは小さいが、そ
れでも、ゆうに三メートルは超える花。群生したプラチナ色のコスモスは、どこ
までも澄んだ青空を仰ぎ見ている。やがて訪れる新しい世界への希望を秘めながら。
空の一点にキラリと光る物体が現れ、やがてそれは大きさを増し、腹に響く轟
音をたてながら、ゆっくりと大地に着陸する。鈍い銀色の船体の一部分が開くと、
中から人間が降り立つ。
「空気がうまいな」
鉱物学者のミウは深呼吸をした。すがすがしい空気が胸いっぱいに充満する。植
物学者のイオタが答える。
「まったく地球にうりふたつだ。荒れ果てた地球に帰ったようだよ。いや、考え
ようによっては、この惑星のほうが進化しているのかもしれないぜ。騒音や大
気汚染なんかには縁がない世界。人間がいないと、地球も、きっとこんな美し
い惑星になるのかもしれない」
ミウは笑ってうなずいた。
それから一週間ほど惑星の調査が続けられた。その結果、かつてこの惑星には、
地球によく似た文明が存在したことが明らかになる。そしてプラチナ色のコスモ
スは、どうやら生物だと結論づける必要がありそうだった。
花は成長するのだ。観察によると一日一ミリほどの割合で直径が増加し、花び
らに風紋に似た年輪、日輪とでも呼ぶべき縞模様ができる。きらきらと輝くわり
に、花びらの表面がざらざらとしているのは、この日輪のためだ。五メートルほ
どのこの花は、逆算すると五千年の年齢になる。気が遠くなるほどの長い年月を
かけて成長を続けているのだ。
「この花は、地中の放射能を養分として吸収しているんだ」
花の脇、砂の上にゆっくりと腰を降ろしながらイオタが呟いた。
「信じられないな…」ミウが言う。
「けれど、間違いない。広い宇宙だ、そんな生命体があっても、おかしくはない
じゃないか」
「しかし、その花は、どうやって繁殖するんだ? どうやって花開くのだ? ど
うやって、この惑星に根付いたのだ? どうやって…」
「おいおい、そう質問攻めをするなよ。俺だって知らないことばかりなのだ。わ
かっていることは、この花の繁殖が、コスモスとまったく同じだということ。
タネだよ。花びらの中央にたくさんあるだろ? あれがタネなんだ。それに、
花が開く時期について…これはまだ推測だが、おそらく空気中の放射能が、あ
る一定のレベル以上になると咲くようだ。あの花の群れを見てみろ。どれもこ
れも、みな三メートルを超えるものばかりだろ。つまり、三千年前の放射能レ
ベルであれば、この花は見事に咲くんだよ。そして、地中に堆積した放射能を
養分にして生き続ける…どうだ面白い仮説だろ?」
「ぞっとするほど面白いよ。確かにこの惑星の放射能レベルは高い。といっても、
人体に影響ないくらいだがね。おそらく半減したのだろうな。逆算すると…」
ミウは、ちょっと言葉を切る。
「五千年前の放射能レベルは核戦争並み…なんだろ?」イオタが言った。
「え、ああ…」ミウはうなずいた。
「これだけの文明が滅びてしまうなんて、ほかに理由が考えられないものな。い
ちばん大きな、この花が五メートルあることも、それで納得できるってもんだ」
イオタは大きく伸びをして、砂に仰向けになった。透き通った青空が目にしみ
る。ふと手に触れるものがあった。見ると、それは特殊な金属でできた板のよう
なものだ。砂に埋もれ、その端部だけが砂上に飛び出している。
「なにか書いてあるぜ」イオタは風化しかかった金属板を手に持ち、表面の砂を
吹き飛ばした。
なにかの記念碑のようなものだった。表面に、文字のような幾何学的な配列が
しるされていたが、風化が激しく、かろうじて判別できる程度。
「おろかな人類への献花…って、とこかな」イオタは笑った。
「希望あふれる新しき人類へ…かもね」
二人は自嘲げに微笑んで、船に戻った。
おびただしい数の星々が、無機色の冷たい光を放っていた。任務を終えた宇宙
船は、二人を乗せて、はるか地球への帰途についた。
ミウとイオタは透明なカプセルの中に横たわった。低温睡眠装置…母なる太陽
系への長旅を寝て過ごすのだ。
「あの花のタネ、もってこないほうがよかったかな」
イオタは透明の保管容器に入れられたタネを見つめた。プラチナ色の花とは、似
ても似つかない黒色のタネだった。
「どうして?」通話装置ごしにミウが語りかける。
「ただ、なんとなく」
「いいさ。人類へ警告できるぜ」ミウが言う。
「このタネは、空気中の放射能が一定量を超えると開花します。一度咲いたら最
後、地中の放射能が消えるまで咲き誇ります。みなさん、この花が咲かないよ
うな、平和な世の中を保ちましょう…ってな具合にさ」
「なるほど…じゃあ、こんなのはどうだい?『この花は絶対に咲きません。そし
て、咲かないように祈りましょう』」
「いいね。それにしよう。そして、そのタネを中央公園の丘の上に植えて、根元
に、その言葉を記念碑として添える。みんなが読むぞ、不思議がってね」
「そして、あの星と同じ運命をたどるわけだ……」二人は黙った。
しばらくして、イオタが呟く。
「あの花の繁殖方法が、いまわかったよ。昆虫がタネをばらまくのさ。惑星から
惑星へとね。俺たちみたいな昆虫が…」
やがて二人に眠気が訪れ、低温睡眠装置のカプセルの中で、二人は長い眠りに
ついた。咲き誇るプラチナ色の花の夢を見ながら…。
(了)