#1274/3137 空中分解2
★タイトル (NJF ) 91/11/17 19:26 ( 49)
パラレル>「鷹司」 ニーチェ
★内容
「あれは、いったいなんだったんだ」
加藤の曖昧さにいい加減いやになったというように、鷹司が声をあらげる。
「忘れろと言ってるだろう。お前の手に負えるようなことじゃないんだ」
「そんなことは自分で判断する。ちゃんと説明してくれ」
口と鼻から同時に息を吐き出して、うんざりだ、という調子で加藤が下を向く。
30分もこの調子だ。指揮官である加藤に対して、鷹司は一度も信頼感を持ったこ
とがない。いつでも何か肝心のことを隠してメンバを動かそうとするからだ。他の
連中は、煙草を吸ったり居眠りをしたり、二人のやりとりに無関心だった。
「だから言ってるじゃないか、鷹司。ただのモルモットにすぎないんだよ、バイ
オテックの失敗作にすぎないんだ」
「なぜ、オレに似ていたんだ」
「自分に似たやつなんて、世の中にいくらでもいるじゃないか。これ以上、私を
困らせないでくれ」
「チーフ。だいたいオレは気に入らなかったんだ。Dブロックのラボを破壊せよ
というだけで、そこに何があるのか、なんで破壊しなきゃならないのか、オレ達に
は一言もなかったじゃないか」
「いいか。お前らは、ただのスイーパーなんだ。命令を受けたら忠実に異分子を
取り除く、それだけに専念すればいいんだ。今までだって、そうしてきたじゃない
か」
「人間があの中にいるなんて思わなかった。これまで、人間狩りをしたことなん
てなかったぜ」
「あいつらは人間じゃないと言ったろう」
「ぜんぜんわからん。チーフよ、あんたの言ってることは、さっぱり理解できな
いぜ。オレがオペレータルームに飛び込んだとき、あいつらはガラスの向こうで涙
を流しながらこっちを見たんだ。銀色のベルトコンベアの上で、あいつらは確かに
救いを求めていたんだよ。まったく、感情を持った人間だった」
「アザを見たろう。どいつも体のあちこちにいろんな形のアザをつけていたろう」
「それがどうした」
「バイオテックの失敗作。さっきも言ったろう。あいつらは人工的に作り出され
たただの実験動物だ。これまでにお前らが相手にしてきた、できそこないのミュー
タントと何も変わらない」
「どうして人間の形をしているんだ」
「知らんよ。私はバイオテックの専門家じゃない」
「嘘だ。オレは知ってるぜ、チーフ。あんたは以前、国防省の生物学研究所でネ
オレーザ技師をしていた。あの設備を見れば、あんたにはどんな実験をしていたの
か分かるはずだ」
加藤は鷹司を睨みつけしばらく黙ったあと、「もうやめろ」と言って部屋を出て
行こうとした。鷹司は、そのテカテカした加藤の後頭部を見ると、自分と同じ顔を
した鷹司のほうへ手を伸ばしたミュータントの涙を思い出した。だから、思わず大
声を出してしまった。
「あんたと同じ顔をしたやつだって、いるかもしれないぜ」
すると加藤は、血走った目を大きく開いて振り返り、言った。
「しかたないだろう。人工受精があたりまえの世の中じゃな、自分が何人いたっ
て不思議じゃないんだよ」
《’91.11.17筆》