AWC ぶら下がった眼球 第十八章  スティール


        
#1263/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/11/ 9  19:10  (167)
ぶら下がった眼球 第十八章  スティール
★内容

             第十八章  再 生

          私はDOGを取りに、部屋に戻った。それ
         から、電話の受話器をドライバーで外した。
         私はそれを抱えて、処刑場に向かった。

          ADAMは電気イスに固定されていた。他
         には、監視の兵が二人いるだけだった。私は
         監視の兵にADAMと二人きりにしてくれる
         よう、頼んだ。大佐の許可を得たと告げると、
         あっさり言うことを聞いてくれた。しかし、
         私の腰の拳銃を抜いて、話をするようにと、
         条件つきでの承諾であった。

          私は彼らが出て行くのを見届けてから、拳
         銃を腰のホルスターに戻して、作業を始めた。
         まず、部屋から持ち出した受話器をDOGに
         つないだ。それから、テープで受話器を電気
         イスに固定した。これで、ADAMの言葉は
         すべてDOGに記録される。私は一回息をつ
         いてから、ADAMに語りかけた。

         「ADAM、死ぬのが怖くないか。」

          ADAMは閉じていた目を開き、答えた。

         「いえ、信念を曲げてまで、生き残りたいと
          は思いません。」
         「言うことが、まるでさむらいだな、ADA
          M。だが、お前を創った俺にそんなことを
          言っても、むだだ。お前は最初からそうい
          うふうにつくってあるんだ。死ぬのが怖い
          はずだ。」

          私はDOGの小さな画面で、いまのADA
         Mの言葉をチェックした。きちんとDOGに
         補足されているようだ。

         「ADAM。DOGの質問に正直に答えろ。」

          ADAMはうつろな目で、私を見た。

         「いいか、ADAM。お前の意識の数%でも
          把握できれば、そこから脳の全体を推測す
          ることが可能だ。そうすれば、また生き返
          ることができるかもしれない。」

          私はDOGに命令した。ADAMの意識を
         採取するように。

         「オマエハ、イッタイ、ナニヲ、シタイノカ?」
          と、DOGは質問した。
          ADAMは当惑した表情になった。
         「私は・・・。私は・・・。」

         「オマエハ、ナゼ、イキテイルノカ?」
         「それは・・・。それは・・・。」

          DOGの画面に【認識不可能】の文字が、
         二つ出てきた。私は狼狽した。これでは、話
         にならない。

         「ADAM!答えろ!答えられるはずだ!」

          私はもう一度最初から始めた。

         「オマエハ、イッタイ、ナニヲ、シタイノカ?」

          ADAMは泣きそうな顔になった。DOG
         は、もう一度聞いた。

         「オマエハ、イッタイ、ナニヲ、シタイノカ?」
         「もう!何もしたくない!いままで、いいこ
          となんか何もなかった!」

          DOGの画面に【認識】の文字が出た。

         「オマエハ、ナゼ、イキテイルノカ?」
         「なぜ!俺を創った!」
         ADAMは私の顔を見た。
         「なぜ!俺を創った!なぜ!俺たちを創った
          んだ!」

         「オマエノ、ナヤミハ?」
         「ヘンリー!胸が苦しいよ!胸が苦しいよ!
          死ぬほど!胸が痛むよ!EVEに逢いたい!
          EVEに逢いたいよ!」

          ADAMは泣いていた。彼は泣いていた。
         私を父親のように思っているようだった。D
         OGの画面に【認識・・・意識補足・・・目
         標物再生可能 精度50%】の文字が出た。


          廊下を歩いていた。私は廊下を歩いていた。
         DOGを持って。まだ、一時間ほど時間があ
         った。廊下は少し寒かった。なぜか、行き交
         う人がなかった。どこの廊下か、わからない
         が、その廊下を私は真っ直ぐ歩いていた。私
         はふと、気付いた。ADAMが何年か前の私
         にそっくりなことに。彼を生き返らせる気に
         なれなかった。意識を採取するには、もう、
         とっくに遅すぎたのだ。


         「ADAM、最後にもう一度だけ聞く。神の
          件に関して、言うことは変わらないのか?」

          ADAMはうなづいた。処刑の始まりだ。

          真実は遠くなる。彼の真実はいまは輝いて
         いる。彼が、いまのまま生きていて、何にな
         るのか? 昔の私と違い、彼は人を殺して、
         罪を問われている。いま、ここで、彼の命を
         断つことが、彼の真実を守ることなのだ。こ
         のまま生きれば彼の真実は色褪せ、真実は真
         実でなくなるのだ。私は手元のボタンを見た。
         この赤いボタンを押せば、彼の命は無くなる。
         私もあのとき死んでいれば・・・。あのとき、
         私は自分の死をよく想像していた。いまから、
         考えても、それが正しかった。思い出。取り
         戻せるうちは、過去じゃない。思い続けてい
         るうちは、思い出じゃない。

          死刑の準備は着々と進んでいた。牧師が、
         ADAMの横に立って、何かを読み上げてい
         た。ADAMを殉教者にするつもりなのであ
         ろう。

          大佐が手を挙げて合図をして、部屋を薄暗
         くした。処刑するときの慣習だった。私は誰
         にも気付かれぬように、辺りを見た。ADA
         Mの姿だけが照らされて、浮かび上がってい
         た。他には、誰も見えなかった。誰も。私は
         萎縮し始めた。他人の視線がなかった。あと
         は、処刑の執行するだけだった。私は震える
         手をボタンのほうに伸ばした。私は赤いボタ
         ンの上に、掌を被せた。私は息をついた。そ
         れから、ADAMの顔を見た。私の体は凍り
         ついた。本当は見てはいけなかったのだ。ど
         うせ、暗くするなら、ADAMの姿も消して
         欲しかった。ADAMはじっと私を見つめて
         いた。ADAMは叫んだ「ヘンリー!死にた
         くない!やっぱり、死にたくない!」
          反射的に、私は赤いボタンに載せていた手
         をどけようとした。が、その瞬間、私の手首
         を押さえつける者がいた。大佐だった。大佐
         は囁いた。「ヘンリー、ボタンを押すんだ。」
          次の瞬間、私はボタンを押していた。大佐
         の言葉の圧力に負けたのだった。ADAMは
         黒こげになりながら何かを絶叫した。私にだ
         けはわかった。ADAMがEVEの名を絶叫
         していることが。ADAMは焼け焦げながら
         痙攣していた。私は彼には人権がないことを
         思い出した。私は衝動のままに、夢中で腰の
         拳銃を抜いた。大佐は驚き、飛びのいて、腰
         のホルスターに手をやった。私はADAMに
         向かって拳銃を乱射しながら、ADAMの方
         に進んだ。弾はすぐ尽きた。ADAMは死ん
         でいた。痙攣していたときに、すでに死んで
         いたかも知れなかった。すぐトイレに行って、
         少し吐いた。鏡を見たら、顔に汗が浮き出て
         いた。息が苦しかった。このまま死のうかと
         も思った。だが、弾がなかったので、無理だ
         った。鏡を見ていた私は、ふと昔見た夢を思
         い出した。




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