AWC ぶら下がった眼球 第十五章  スティール


        
#1249/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/10/29  21:45  (176)
ぶら下がった眼球 第十五章  スティール
★内容

            第十五章  悪 夢

         私は、ADAMの処刑が行われる部屋にい
        た。ADAMは、大佐の居る地表の研究所で
        明日、処刑されることになっていた。

         私の左後方に、大佐が立っていた。

        「そろそろ、本当のことを言ってくれません
         か、博士。」
        「本当のこと?なんのことだ。」

        「あなたの記憶操作のことです。」

         ADAMの神を細工したのが、私だと、ま
        だ疑っているのだろうか。

        「私は何もしていない。」
        「まあ、いいでしょう。あなたが何をしよう
         が自由です。ただ、私は、バビロン計画の
         邪魔する者は容赦しませんよ。」

         大佐は、目は一瞬光った。だが、すぐ元の
        顔に戻り、言った。

        「できれば、ADAMに、神のことを否定さ
         せてから、処刑してください。」
        「いまさら否定させてどうなるんですか。」
        「もし、ADAMが否定したら、処刑が延期
         になるかもしれません。処刑のボタンを押
         したくないなら、頑張ってADAMを説得
         することです。博士。」
        「わかった、頑張るよ。大佐。」

         私はその晩、また酒をあおった。


         大佐は演説をしていて、大勢の人が聞いて
        いた。演説台はとても立派なもので、聴衆は
        大佐のことを神のように崇拝しているようだ。

        「諸君、目を開いて、現在の情勢を観て、考
         えてほしい。いま、何が真実で、何が真実
         でないかを。ここ何十年か、出生率が減少
         している。いま、何をすべきかを。そして
         何が正しく、何がそうでないか。人類は少
         しずつ、少しずつ、滅亡に向かっている。」

         大佐は熱狂的な演説は、聴衆をも熱狂させ
        ていた。大佐の体というよりも、姿が少しず
        つ、大きくなるような錯覚を、私は感じた。

        「ここにお集まりのみなさんはもうおわかり
         でしょうが、現実の要素、世の中のあらゆ
         る要素が絡み合って、すべてが形成されて
         います。私個人が、たった一人でバビロン
         計画を押し進めても、その効果には、おの
         ずと限界があります。もちろん、私は私の
         バビロン計画が、必ずしも正しいとは言い
         ません。私が、みなさんに言いたいことは
         みなさん自身のことです。よく考えてみて
         ください。世の中の解決しなければならな
         い問題は、人口減少の問題だけではありま
         せん。自然の環境や植民地、そして政治の
         問題など、たくさん思い浮かべることがで
         きるはずです。ここで考えてほしいのは、
         いま現在、みなさんが何をすべきかという
         ことです。バビロン計画が必ずしも正しく
         ないのと同じように、世の中で行われてい
         ることも必ずしも正しくはないはずです。
          既存の観念や現在のいろいろな事象は、
         正しいのでしょうか。いまの世の中で行わ
         れていることは、正義の真実でしょうか。
         私が訴えたいのは、みなさんの物の考え方
         や、みなさんの毎日の生活に対する態度・
         姿勢です。みなさんがいままで選挙権を行
         使して何が変わったのでしょうか。いやっ、
         人類が何十年も何百年、選挙権を行使して
         何が変わったのでしょうか。現実には何も、
         何ひとつとして変わらないのです。現在の
         候補の誰が当選しても、本当は何も変わら
         ないのです。要するにみなさんが選挙権を
         行使しても、現実には未来は変わっていな
         いのです。いま、候補の誰かが当選して、
         他の候補が落選して、何が変わるのでしょ
         うか。みなさんが選挙で投票し、何かを選
         択し、それで何かが変わるでしょうか。そ
         んなものは、候補者が選挙中にみなさんに
         植えつけたでたらめなのではないでしょう
         か。
          わたしが言いたいのは、選挙制度の改革
         の話ではありません。確かに古代ローマで
         行われていた直接全員参加の制度は素晴ら
         しい、とても、素晴らしいものでした。で
         すが、たいへん残念なことに、いまそのよ
         うなことは不可能です。個人個人に端末を
         持たせて意見を集約しても、選択肢ひとつ
         出せないでしょう。
          私が本当に言いたいのは、みなさん一人
         一人が何をすべきかということです。選挙
         のときに、選挙権を行使するだけで、後の
         期間は政府やその他の行政機関に任せて、
         何もせずいいのでしょうか。それで、個人
         が誰でももっているはずの責任・人類全体
         と社会が到達する未来と、それに自分自身
         に対する責任はどこに行ってしまうのでし
         ょうか。政府や行政機関にそれらの責任を
         負ってくれる能力があるでしょうか。私達
         はその責任を選挙を通して、誰かになすり
         つけて、何もしていないのではないでしょ
         うか。
          私はみなさんに問いたい。自分が何をす
         べきかを。いままで、改善されない問題は
         言うまでもなく、私達共通の責任なのです。
         私達がいま、なすべきことはなんでしょう
         か。そう、みなさんが自分自身で何か努力
         することです。人口減少の問題、環境汚染
         の問題、植民地等の問題は、いますぐ解決
         できる問題ではありません。みなさん一人
         一人が考え、努力することです。
          人口減少に対する対策は、政府主導で進
         められましたが、途中で投げ出され、中断
         されていました。私はみなさんと同じよう
         にこの問題を憂い、悩んだ末に、勇気を持
         って取り組みました。人口減少対策として
         のバビロン計画をです。バビロン計画で作
         り出されたADAM型は戦闘用に軍に、E
         VE型・ADAM型はみなさんに頒布され
         ます。出生率の減少の原因が何かはいまの
         ところわかっていません。ただ、人間の活
         力は衰えただけしょうか。生殖行為は、文
         字通り生殖の為の行為です。その行為に対
         する欲望自体が衰えたのでしょうか。EV
         E型やADAM型はほとんどが生殖行為の
         為に使用されるでしょう。それが大量に出
         荷されるということは、人間の活力がまだ
         衰えていないということです。現在のとこ
         ろ、我々はいわゆる犯罪行為のための利用
         は許していません。売春その他の行為は取
         り締まる方針です。また、入手する人が、
         残虐な性向にあるかどうか、面接・犯罪歴
         などで調べています。ここまで、我々が努
         力しても、倫理上の理由から反対している
         人もいます。しかし、死亡率の十分の一か
         二十分の一にまで出生率が落ちている、い
         ま、そのようなことを言っていていいので
         しょうか。このまま出生率が下がり続けれ
         ば何十年か先には、人類の人口は十分の一
         以下に減ります。それから対策を考えても
         遅いのです。私は計画の最高責任者として、
         はっきりと言います。全体の利益は、少数
         の利益は優先するのです。そもそも、バビ
         ロン計画は、高度な人類愛を持ったスタッ
         フが、崇高な精神のもとに進めてきた計画
         です。この計画を進めた目的は・・・」

         大佐は突然口ごもり、何も言えなくなった。

         その瞬間、時間が止まり、私の見ている映
        像はゆっくりと反転した。映像は百八十度回
        転した。私の視点は変わり、映像は聴衆の姿
        に変わった。私は聴衆を見た。みんな、じっ
        と私を見ていた。見据えていた。私は話した。
        私は話さねばならなかったのだ。

        「この計画の目的は、決して・・・わたしが
         ・・・EVEを・・・抱く為でなく・・・
         人類の未来と・・・純粋な・・・探究心の。
         ・・・ですから・・・けっして自分・・・
         の欲望を・・・満たすためでなく・・・。」

         私は夢から醒めた。息が苦しかった。夢だ
        った。悪夢だった。私は気付いた。もう朝だ
        ったことに。私はADAMを処刑しなければ
        ならなかった。




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