AWC 通好みの肉料理 /えびす


        
#1191/3137 空中分解2
★タイトル (SEF     )  91/ 9/19  20:14  (128)
通好みの肉料理 /えびす
★内容

 先日、復活させたOASYSliteのディスケットの内容覗いてたら、ふ
っるーい自作の小説が出て来ました。高校三年の時にOASYS買って、浮か
れていた時に書いたやつです。とってもなつかしーので、形式だけ変換して(
アラビア数字を漢数字に直すとか、「・・・」を「……」に直すとか)、アッ
プします。

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   「通好みの肉料理」

                             by えびす


 「やあ! ひさしぶりだなあ! 何でこんな辺鄙な所で料理屋なんか始めた
んだい? おまえの腕なら高級店のチーフでもやっていけるはずだぜ。……ん
? ああ、そうだったな、肉料理を極めるとか昔言ってたっけ。へえー、こう
いう僻地以外では手に入れにくい肉もあるっんだって? ほんとかねえ……。
 はは、そりゃ俺はお前の知っての通り食通だから。大抵の料理は食べ尽くし
たはずだぜ。何? 俺が食べたことのない肉料理がまだあるって言うのか?
まさか! 冗談言うなよ。俺の批評の専門分野は肉料理だぜ。俺は全ての種類
の肉を食ったんだ。俺が食べていない肉なんかあるはずが無い! なんだって
? それでも俺が一度も味わっていない筈の肉があるって? 強情な奴だなあ、
そんなものがあるわけないだろう? まったく……。
 くどいなあ、よし! それほどまで言うんだったら賭けようじゃないか!
一〇万だ! 今からお前が出す肉を俺が食べたことがある方に一〇万! どう
だい、この賭に乗るかい? よし、決まりだ!
 なんだよ、その笑みは……。そんなに自信があるっていうのか? 悪いけど
お前の負けは決まったようなもんだぜ。さあ、料理を作って持ってきなよ」

 「やけに待たせるなあ……。まあ、それだけ念入りに調理してるってことだ
ろう。ひょっとして料理しにくい動物なのかもしれないな。ん? 今何か叫び
声が聞こえたような……。気のせいかな」

 「お! 来た来た。なんだよ、その恰好は。ほら、おまえの左頬。赤黒くて
ベタベタしたものが顔に付いてるじゃないか。なに? その肉を解体する時に
付いた血だって? へえー、さっきシメたばっかりなのか。わざわざ俺のため
にとっておいてくれたんだって? そりゃどうも。しかし、その血の色は普通
の動物じゃないぞ。ん? わかったよ、今食べるからそんなに急かすなって…
…。
 なになに、スープとステーキと……あとは……なんだこりゃ? おい、これ、
生じゃあないのか? 刺身で食っても大丈夫な肉なんだろうな? よし、信用
してるからな。もし俺が病気なんかになったらタダじゃおかないぞ。えっと…
…これだけかい? まあいいや。食べてみるとするか」
 「とりあえずスープからだな。どれ、ひとくち……!!! 確かにこの味は
妙だぞ! ? なんだ!? この味は?
 おい、ちょっと隠し味を教えてみてくれ。そう渋ることはないだろ? 俺と
おまえの仲じゃあないか。おお、教えてくれるかい。ありがたい。
 なになに、ああ、そいつと? うん、あれもだな。むむむ、それも当然入っ
ているだろうな。他には? ふむ、少し珍しいが、そいつも分かったよ。それ
だけ? それだけか? じゃあ、この味は肉自身の味なのか!? こいつは少し
手強いぞ!
 よし、次のステーキにいってみよう。なんだよ、その笑い方は気色悪いぞ。
おい、変な物を食わせてるんじゃないだろうな……」

 「よし、みたところ平凡なソースがかかっているだけだな。基本的なソース
だろ?  うん、やっぱりな。ソースは普通のやつだ。
 じゃあ、肉をひとくち。……!!! 美味い! なんて美味さだ! こいつ
は凄いぞ。こんなに美味い肉があるのか!? この歯応え、この味の深さ! こ
れこそ最高の肉だ! 噛めば噛むほどに深い味だ……。ああ、はるか昔に食っ
たような記憶が……微かに……くそう! だめだ、思い出せない。これは俺の
祖先の記憶か? 何だって? 俺の祖先は食ったことがあるかもしれないって
? どういうことだ?
 とにかくこの肉は俺が今まで食った中で一番美味い肉だぜ。
 なんだよ、その気色悪いニヤニヤ笑いをやめろって。ん? なんだそりゃ。
ほら、前掛けのポケット。黒いものがはみ出てるぞ。毛か? その動物の毛の
束か? おいおい、そんなに慌てて隠すことはないだろ。しかし、やけに長い
毛だなあ……。量は少ないが、やけに黒くて長いぞ。おや? 前掛けに短いち
ぢれ毛が何本かついてるな。おいおい、だからそんなに慌てて払い落とさなく
たっていいだろ? なあ、くどいようだが、変な肉じゃないだろうな……。
 え? 分かった、分かったよ、次の刺身でこの肉の正体を突き止めてやるか
ら、そんなに急かすなよ。何? わかった。そんなに言うなら賭金を二〇万に
上げようじゃないか。しかし、なんでお前はこの賭にそんなに自信があるんだ
? 負ける可能性がないような顔つきじゃないか。なんで俺がこの肉を食べた
      、、、、、
ことが無いと言い切れるんだ?
 だから、その気色悪い笑いはなんなんだよ」

 ぱくっ。……生だと案外固い肉だな。
 ……。
 ……。
 ……。
 急かすなって! 今考えてるんだから。
 ……。
 なあ、ヒント教えてくれよ。どうにもこいつあ不思議な肉だ。――駄目か。
ケチだな。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……分かったよ、俺の負けだ。降参する。お手上げだ。答えを教えてくれ。
何? いいよ。絶対に秘密にしておいてやるから」

 食通は立ち上がった。調理人の後に続いて調理場に近付いてゆく。まるでと
っときの宝物をみせびらかす前の子供のような表情で調理人が扉を開けた。
「!」
 食通はこの上ないほど驚いた。驚いて当然だ。バラバラに解体されていて原
形をとどめていないが、眼前の肉塊が生前はいったいなんだったのかは容易に
分かる。食通の顔が青ざめる。
「なんてこった……こいつは……こいつは人間じゃあないか」
 声から魂が抜けている。
 調理人が勝ち誇ったような顔をする。
「まあね。さすがにおまえでも食った事がないだろう」
 食通はふらふらと調理場から出てゆく。調理人がそれを追う。
 食通が壁に寄り掛かって大きく息を吐いた。口を開く。
「……なあ、人間って言ったら幻の絶滅種じゃないか。あと何体くらいいるん
だよ」
「そうだなあ、五〇〇〇は生きてるな、少なくとも」
「五〇〇〇! 畜生、増やせば大儲けだ。俺にも一口乗らせろ!」
「もちろん、最初からそのつもりさ。飼育システム構築するほど金が残ってい
ないンでね。おまえさんの資金をあてにしてる」
「よし、分かった。近日中に連絡つけるからな。待ってろ!」
「おっと待った。その前に……」
 店から出てゆこうとするミズル・ミ・ルーの前にラッスル・ミ・ルーは七本
の指を大きく広げて差し出した。「二〇万ミル。約束だろ」
「しかたない……」
 苦々しく呟きながらミズル・ミ・ルーはポケット代わりに使っている大きな
鱗の下から札束を取り出した。一四進法で札を二〇枚数えると、渋々ラッスル
・ミ・ルーに手渡す。ラッスル・ミ・ルーの八つの眼は「うれしさの赤」を発
色している。対するミズル・ミ・ルーの眼は「くやしさの緑」だ。ちくしょう。
 店を出て、星系中央へのジャンプ・ゲートに入ってからミズル・ミ・ルーは
考えた。二〇万の出費なんかたいした事ないじゃあないか。上手く人間を飼育
できれば、いくらでも元が取れる!
 食通・ミズル・ミ・ルーの眼は、将来転がり込んでくるはずの莫大なミルの
事を考えるにつれてしだいに「やすらぎの青」に戻ってゆくのだった。


                             【おしまい】





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