AWC ぶらさがった眼球 第八章   スティール


        
#1190/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/ 9/19  18:27  (143)
ぶらさがった眼球 第八章   スティール
★内容
          第八章 バベル博士とDOG

        あくる日の朝。私はEVEとの楽しい朝食
       に浸ってはいたが、ADAMの問題やモーゼ
       ルからの情報を忘れてはいなかった。DOG
       に命じて、関係のありそうなニュースその他
       の情報の収集をさせた。集まった人事・工場
       の購入などの情報をみる限りでは、モーゼル
       の言ったとおり、軍は人間の増産に入るため
       に、ADAM型の少数生産・実験にかかって
       いるようだ。私はこの事には触れずに、大佐
       に電話をすることにした。しかし、喧嘩にな
       りそうな気がしたので、映像付きの電子電話
       モードにした。私には、ADAMの開発者と
       いう強みがあったので、喧嘩になっても構わ
       なかったが。

        数分待たされた後、大佐はすぐ出てきた。

       「いや、すまん、すまん。いま、こっちから
        連絡しようと思っていたところだ。」
       「いや、こっちも話したい事があったので。」
       「そうか、ノアに一人でいるのは寂しいから、
        たまには人に逢うのもいいだろう。」

        私は絶句したが、大佐はそれに気がつかな
       い素振りで、話を続けた。

       「さっそくだが、ADAMの件をどう思う?」
       「さあ、それはADAMを見ないことにはわ
        かりませんな。軍の検査の結果はどうなん
        です?」
       「精神異常ではないらしい。神に対する概念
        だけが、我々が頭を抱える問題なのです。」
       「私のデータミスでしょうか?」
       「我々の技術力では、そこまではちょっと・
        ・・。あなたのDOGをコピーして使わせ
        てくれるなら、別ですが。」

        大佐は、私の傍らのアタッシュ・ケースを
       みながら言った。

       「そんな!そんなことをしたら、私の研究や
        プライバシーはどうなるんですか!?」

        私は大佐の無法な要求に、思わず興奮して
       しまった。

       「DOGは、持ち主の過去のコンピューター
        使用歴とそのデータを記録して、それを元
        にして持ち主を補助する器械です!それを
        コピーするなんて聞いたことが無い。過去
        の判例をみても、DOGのプライバシー性
        は完璧に支持されています!」
       「ヘンリー、俺はそうは思わない。持ち主の
        補助のためだけに使うのであれば、DOG
        の意味が無いと思う。今の若い研究者の間
        では、頻繁にDOGの交流が行われている
        のは君も知っているはずだ。」
       「今までの私の研究成果、食べた物、交信記
        録、行った場所、金銭の使用、それから、
        持ち主の選択によっては、すべての会話、
        すべての行動などを記録することだって可
        能なんです!そんなものは他人に見せられ
        る訳がないでしょう!」
       「違う、ヘンリー。俺が言っているのは部分
        的なコピーのことだ。」
       「いや、あなたはなにもわかっていない。ほ
        んの一握りの部分も、全体の影響で形成さ
        れているんだ。人間の脳と同じようにね。
        だから、私はDOGの原理を応用して、A
        DAM型のソフトウェアを設計したんだ。
        1パーセント以下の部分でも入手できれば
        全体の部分のDOGを推測することも可能
        です。」

        大佐は少し考え込んだ。

       「ヘンリー、君の研究のデータを読んだ。君
        の考えでは【欲を失うことが、精神の病気
        につながる。偏執狂もその変形である。】
        ということだったな。君には科学者として
        のプライドは無いのか?君の研究の成果の
        ADAMは?君には、バビロン計画の成功
        の立役者として脚光を浴び、そして歴史に
        名を残そうという名誉欲は無いのか?」

        私は心の中で(それはお前のことだろう)
       と呟きながら言った。

       「その点は否定はしない。私の研究のデータ
        は正しいからな。」

        大佐はさらに言った。

       「それにDOGの開発意図は、自分のためじ
        ゃなく他人にも利用させることにあるんじ
        ゃないのか?」

        私は悪いと思いながらも、笑い転げた。

       「ばかな!DOGは、バベル博士が造った物
        だ。私が博士の遺志に背くと思うのか?」

        どうやら、この喧嘩は私の勝ちのようだ。

       「ヘンリー、わかった。負けたよ。じゃあ、
        君がADAMを診察してくれ。」

        私は返事は電気メールですると言って、電
       子電話を切った。大佐はわざと、くだらない
       口論をして負けたのかもしれない。
        最初からADAMの診察はするつもりだっ
       た。ADAMのあの消去しそこねた記憶を消
       す目的もあった。軍の研究所の技術レベルで
       はADAMの記憶に入り込めるかどうかは、
       疑問があったが。

        私は地表に向かう準備を始めた。EVEは
       私に「どうかしたの?」と聞いた。私が地表
       に行くと言ったら、EVEは「いつ戻ってく
       るの?」とまた聞いた。
        私が、二三日中に戻ると言うと、EVEは
       泣きそうな顔をした。そして「寂しいから行
       かないで!」と言った。

        私は一瞬とまどった。私はすぐ戻るからと
       言って、EVEをなだめた。EVEはなかな
       か納得せず、泣いた。それから、何時間も子
       供のようにごねた。EVEはそうすることで
       私に甘えているのだろうか。
        結局、私がいない間の何日間、EVEを眠
       らせることにした。EVEの心はまだ純真で
       子供のようだった。私はEVEが今のままで
       いればいいと思った。

        私はEVEを人工睡眠装置に寝かせ、キス
       をした。それから私は人工睡眠装置を作動さ
       せた。EVEが寝つくのを見届けてから、私
       はDOGと人工睡眠装置とを電話回線でつな
       ぎ、常にチェックできるようにした。

        そして私は地表へ旅立ったのであった。




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