AWC ぶら下がった眼球 第七章   スティール


        
#1182/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/ 9/17  18:41  (118)
ぶら下がった眼球 第七章   スティール
★内容
           第七章 生きている価値

        ADAMの演説は続いた。

       「私は神の声を聴き、それを皆に伝える為に
        産まれました。そして、私はその使命を果
        たさねばなりません。」

        会場の人々は、ADAMの意表をついた発
       言に動揺しているようだった。そういうざわ
       めきが伝わってきた。

        ADAMに何が起こったのだろうか。きっ
       と、誰かがADAMの脳に何か細工をしたに
       違いない。だとすれば、大佐以外考えられな
       い。あの大佐、何を考えているかわからない
       ようなところがあるから、油断できないなと
       私は思った。

        大佐は後ろで何かを指示していた。恐らく
       演説を止めさせるのだろう。大佐は顔や態度
       を観る限り、当惑しているようにみえた。演
       技にしては上手過ぎるようだ。ADAMの発
       言の意図も私には判らなかった。どちらにし
       ても、なんらかの連絡があるはずだ。なけれ
       ば、こっちから連絡しなければならないだろ
       う。
        私は隣に座っていたEVEの表情を見た。
       EVEは顔を赤らめ、ADAMの映像を見入
       っていた。EVEは、私の視線に気付くと、
       私に言った。

       「ADAM、かわいそう」

        EVEのその言葉に私はなぜか動揺した。
       ADAMとの行為の記憶の部分は消した。し
       かし、その他の記憶は残っている。私がAD
       AMを培養していた部分の記憶や、ADAM
       が造られてから追い出されるまでの部分の記
       憶が・・・。

        TVの画面ではADAMが演説をやめさせ
       られるところだった。私は酒が好きではなか
       ったが、なぜかなんとなく飲みたくなった。
       EVEとADAMのことについては、酒に酔
       いながらゆっくり考える必要がありそうだっ
       た。TVがCMに変わっている間、私はぼん
       やりとその事を考えていた。過労気味で疲れ
       ていた。私はただ気が抜けた感じで、EVE
       の表情を観察していた。疲れているところに
       いくつものアクシデントで、嫉妬する気分に
       も陰謀の匂いを嗅ぎわける気分にもなれなか
       った。

        CMは終わったが、演説台にはADAMの
       姿はなく、かわりに愛想笑いをした司会者が
       何かを話していた。EVEの顔には、失望と
       も心配ともつかぬ色が浮かび出ていた。
        その時、電話のベルが鳴った。私は軍の誰
       かだろうと思い、無視しようとも考えたがや
       めて、受話器を取った。

       「やぁー、ヘンリー!TVを観たか?」
       「ああ、観てるよ!いま、ADAMがマイク
        を取り上げられたところだ。」

        モーゼルだった。

       「ヘンリー、知ってるか。軍が地表の生物工
        場をいくつか買い取って、人間の増産を始
        める準備を進めているようだ。」
       「どういうことだ。増産してどうすんだ?」
       「さあな。ただ、最近、俺はバベル博士がわ
        ざと失敗したんじゃないかと思うよ。悪い
        予感がするぜ。そのうち、大佐に会った時
        に聞いたらどうだ?」
       「さっきのADAMの発言も計画の内か?」

       「いやっ、聞いてないな。お前が組み込んだ
        んじゃないのか?」
       「モーゼル、冗談はやめてくれ。組み込むと
        したら、大佐だろう。」
       「ならいいが。なにかキナ臭いな。ぜいぜい
        気を付けるんだな。」

        私はモーゼルに礼を言い、電話を切った。
       それからEVEの顔をじっと見た。EVEは
       見つめられていることに気付き、顔を真っ赤
       に染めた。私はそんなEVEが可愛らしくな
       り、抱いた。

        窓の外には、宇宙そして地球があった。私
       はEVEと一緒にノアの窓から外を観ていた。
       私は地球を観ながら、突然気分が悪くなった。
       地表に住む人々を思ったのだった。(愚かで
       自分のことしか考えない利己主義の馬鹿ども。
       生きている価値のない人間。)いろいろな思
       いが私の脳を駆け巡った。私は生きている価
       値のない人間はみんな抹殺すべきだと信じて
       いた。私はうまくいえない虚しいような悲し
       いような思いにとらわれ、傍らにいたEVE
       を強く抱き締めた。私はEVEに問いかけた。
       それはEVEが人間ならば、絶対に言わない
       問いかけだった。
       「いままでの私の人生は報われるのか?」
       「何のために生きてきたのか?」
       「いま自殺したほうがいいんじゃないか?」
       「なぜいままで死ななかったのか?」
       「これから生きていることが正しいのか?」

        EVEは何も言わず、微笑んだ。私はEV
       Eの胸に顔をうずめた。EVEは私を優しく
       抱き締めてくれた。私は「そのまま、眠りた
       い」と言った。EVEは、私の顔を上げさせ
       私の眼をみつめた。それから、彼女の顔はゆ
       っくりとうなづいた。私は疲れを回復するた
       め、それかEVEとの愛に包まれるために、
       EVEとともに眠りについた。




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 レミントン・スティールの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE