#1181/3137 空中分解2
★タイトル (ENB ) 91/ 9/16 23:32 (154)
過労死 かきちゃん
★内容
データ取りである。
詳しいことは省くが、実験装置を一晩中動かして置き、二時間置きに各種データを
記録するとゆー異常にヒマな作業だ。
徹夜さっ!
研究所勤務はつらいっ!
実験条件が狂わないように監視するのも怠ってはいけない。
もちろん、実験データを自動的に記録することも可能だし、条件を自動的に制御す
ることもできる。
そうしてしまえば、何も徹夜などすることはないのだが、世の中そう甘いものでも
ない。
第一に、かなり急ぎの仕事(飛び込みというやつである)なのでそこまで整えてお
くことができなかった事。
第二に、レコーダー等、記録装置や、制御装置がほかの実験で出払っており、予備
がなかった事である。
これが、徹夜になった原因である。
午後8時26分。
ついに最後の一人が帰って行った。
「お先に失礼しまーす。」
明るい声である。
デートの約束でもあるのであろうか。
もちろん上司はとっくに帰っていた。
今ごろいつもの○○あたりで飲んでいることであろう。
「ハゲめ!」
俺は一言呟き、鞄からウオークマンを取り出し、インナーイヤーのヘッドホンを耳
につっこみ、文庫本を開いた。
やはり、徹夜作業にはウオークマン、本、そしてお菓子とカップ麺は必須アイテム
だ。
特に今日みたいな、データ取りが二時間に一回というときは・・・。
午前0時。
深夜の実験室は不気味である。
昼夜無人運転の機器(ちなみに、今日のような徹夜作業は昼夜有人運転と呼ばれて
いる……わけはない。)がかすかに音をたてている。
ときどき”ガチャッ”と音がして思わず首をすくめてしまう。
場所によっては、ネズミやゴキブリがでる。
怪談話がないのが唯一の救いである。
実験台の引出しの中がネズミのフンでいっぱいだったなんていうのはよくある話で
ある。
そういえばこのあいだ糖液(文字どうり糖の液であり、甘い)をこぼしたとき、次
の日、蟻がいっぱいたかってしまったときは駆除に苦労した。
虫よけスプレー(蚊がいっぱいいるので実験室に常備している。蚊取り線香もある
。)をまいたり、濃硫酸をかけたりしたがなかなかしぶとく、結局掃除機で吸い込ん
だ。
それから屋外によく蜂の巣ができる。
取っても取っても蜂どもは巣をつくるのをやめない。よほどこの場所が気に入って
いるのであろう。
蜂に巣退治は簡単だ。
用意するものは、バケツとママレモンである。
バケツに水をいれ、大量のママレモンで味付けをする。
ママレモン水入りバケツをもって蜂の巣に静かに近付き、射程距離に入ったら一気
にぶっかける。
これは絶大な効果があり、これだけで巣にたかっていた蜂は全滅する(危険ですの
で真似しないように!)。
それからゆっくり蜂の巣をたたき落とせばいいのである。
話がそれてしまったが、いま何をしているかと言うと、あるPC−9801VMで
ゲームをしている。
ゲームソフトは家から持ってきた。
はっきりいってひまなのである。
机の上には回覧の書類や雑誌、中にはいろいろな雑用があるのだが、やる気が起き
るわけはない。
今ごろみんなは寝てるか、飲んでるか、遊んでいる時間なのである。
「あ〜あ、眠い。」
思わず独り言を言ったりするのであった。
午前5時。
最後のデータ採取である。データ採取は1分で終わる。
数値をデータシートに書き込み、それぞれの機械の電源を切り、バルブを閉じる。
俺は”ふーっ”とため息をつき、オフィスルームに戻り、文庫本を開いた。
後は上司が来るのを待って、報告をするだけだ。データはデータシートにすべて記
入してあり、その都度必要なグラフにも書き込んである。
報告書は上司が書くことになっている
だから、報告を済ませたら即帰って寝るだけなのである。
気がゆるんだ。
机に突っ伏した。
1秒後……爆睡。
午前8時03分。
本日の一番乗りが出社してきた。
新人の女の子である。
俺はそのまま机に突っ伏していた。
女の子は俺が徹夜だった事を知っていたので、俺は寝ているのだろうとすぐに理解
し、電気ポットの水を替え、その後机を拭き始めた。
俺の机に来たところで起こすつもりだったらしい。合理的である。
8つの机を拭いたところで俺の机の番になった。
「××さん。」
女の子は俺に声をかけた。
俺は反応しない。
もう一度声をかけた。
反応なし。
ここで女の子は変だと思い始めた。
「××さん!」
声が大きくなり、俺の肩を揺さぶった。
また反応なし。
そこに本日の第二号がやってきた。入社二年目のぺーぺーである。
俺の肩を揺さぶっていた女の子を見ると、
「どーしたん?」
と聞いた。
「××さんが起きないんですぅ。」
女の子が泣きそうな声で答え、
「なんか変なんですぅ。」
と付け加えた。
ぺーぺーは人差指を立てて振りながら、”ちっちっちっ”
「××さんを起こすのにはコツがあるんだよ。」
と言うと、俺に近寄り、直立して右手を大きく振りながら大声で、
”あーたーらしいあーさがきた、きーぼーおのーあーさーが”
とラジオ体操のオープニングテーマを歌い始めた。
”よーろこーびにむねをひーろげ、ほーらいっち・にぃ・さん”
「××さんを起こすにはこれが一番いいんだ。」
とあっけにとられている女の子に言って、自信たっぷりに俺の方を見た。
反応なし。
ぺーぺーの顔にクエスチョンマークが刻み込まれ、俺をしげしげと見つめた。
ここでぺーぺーも、やっとなにか変だと思い始めた。
俺の胸に手を当てると、ふたつの事に同時に気づいた。
息をしてない。心臓が動いてない。
瞳孔を調べてみることは思い付かなかったようだ。
「ど、どーしよー!」
二人でハモっていた。
”オー、パッキャラマド”だ。
二人の頭には最近流行の”過労死”と言う言葉が同時に浮かんだ。
「119番!」
「人工呼吸!」
「心臓マッサージ!」
「霊柩車!」
「坊さん!」
二人は交互に思い付くことを言っていた。
行動はせんのか、行動は!
二人はただ錯乱しているだけだった。
そのうちに、他の人間がぞろぞろ出社してきた。
それでやっと処置を始めるかなあと思うと、そーでもない。
「110番!」
「人工透析!」
「性感マッサージ!」
「19才!」
「象さん!」
俺の机をとりまいて、混乱はますますひどくなっていく。
午前8時55分。
”あー、うるせー”
と俺は目を覚ました。
みんなのぼーぜんとした視線。
”おまえ、死んでたんじゃないのか?”
という視線である。
俺は思い当たった。
「ご、ごめーん、俺、真剣に寝てると、時たま息するのと心臓動かすの忘れちゃう
ことがあるんだよねー。」
俺は後頭部をかきながらさらに続けた。
「よくあることでしょ?」
一同、”ぎゃふん”とこけた。
捲れ上がったスカートから覗いた新人の女の子のパンティが寝起きの目にまぶしか
った。
めでたし、めでたし。