#1111/3137 空中分解2
★タイトル (MEH ) 91/ 8/22 21:41 ( 84)
春 クリスチーネ郷田
★内容
これは以前,SFデータベースにアップしたものですが,[飛ぶ人間]
シリーズの第2弾としてこちらに出すことにしました。
もの凄い大金持ちの,お春ばあさんが危篤になった。いよいよ春ばあさ
んとの契約が実行される時だ。はたして成功するかどうかはなはだここ
ろもとないが,契約なのだからしかたがない。我々,「春財閥科学技術
チーム」は,春ばあさんにある依頼を受けていた。つまり,彼女を90
00型アンドロイドばあさんに改造すると言う依頼である。
成功するかどうかなんて保証はまるでない。はっきり言えば,手術の主
事担当医である私でさえも成功するなんて思っていないのだ。しかし,
男には失敗すると思っていてもやらねばならぬ時もあると言うもの。我
々はさっそく死後で硬直しかかっているばあさんのアンドロイド化手術
を始めた。
まず,頭部を切開して露出した脳髄にバンソウコウを張る。大変困難な,
レベルの高い手術といえる。おそらく私とブラックジャックくらいしか
こんな手術テクニックを持っているものはおるまい。さあ,ここにバン
ソウコウを…と。ふう,緊張するぜ。
頭部はうまくいき,無事に終った。
赤い毛糸で縫い合わされた春ばあさんの頭部は,毛糸が余分に余ってい
るせいで,まるで赤毛のアンの髪型のようになっていた。実にキュート
な印象を,見るものに与える。横たわった瀕死の老婆に,我々は一種の
エロチシズムをも感じた。官能的な恋愛,色情的な傾向,ってかんじ。
次は心臓だ。ハートのかわりにハトを埋め込む。こんな高等手術は,ブ
ラックジャックにだって出来ない。なにしろハトが暴れるので,それを
押え込むのがとても難しいのだ。そしてあのにっくきハトの爪。現在の
医科学でも,こればかりは手の打ちようがないのだ。
ハトをてなづけることは一苦労だが,これは医者ならば是非とも覚えた
い技術である。
さて,なんとかハトも埋め込んだ。
手術は無事終了した。
これでアンドロイド手術は終った。あとは,アンドロイドと化した春ば
あさんを起こすだけとなった。
「ばあさん,春ばあさん。起きて下さい。朝ですよ」
春ばあさんはゆっくりと目を開けた。
「デイジー…デイジー」
「なに言ってるんですか,ばあさん。と言っても予想されるセリフです
わな」
「春ばあさん,復活の予感。」ばあさんは照れながらそう言った。
「よかった!私が分かりますか?あなたは誰ですか?」
「とんでもない,あたしゃ神様だよ」
「はあ?あっ,これはしまった。アルツハイマー病の手術を忘れていた」
私はおばあさんの頭をトンカチでひっぱたいた。少し血が出たが,荒療
治はうまく行ったようだった。
「おお!先生。私を助けてくれたかい,サンクス!」
「ああ,私が分かるんだ!おめでとう春ばあさん!おめでとうみんな!
そして会場に集まってくれたみんな,ありがとう!」
「ワーイ!平和が帰って来たんだね。やったー!」
春ばあさんは,よろこびのあまり飛び上がった。しかし,彼女は自分の
体がアンドロイドだと言うことを忘れていた。春ばあさんは,勢いあま
って病院の壁を突き抜けて空を上昇していった。
スローモーションでくるくる回転する,春ばあさん。
ゆっくり,ゆっくりと春ばあさんは上昇していく。
実にドラマチックな風景であった。
そして,彼女は宇宙へ。
宇宙で,彼女は人工衛星となった。
「ワタシハ,カモメ。ワタシハ,カモメ。」
遠くでお猿さん人工衛星,「M1号」が手を振っているのが見える。
ああ,あのサルも私と同じ運命を背負っているのだな。
春ばあさんは,スケーターズワルツの音楽がどこかで聞こえるような気
がした。
END