#972/3137 空中分解2
★タイトル (UYD ) 91/ 5/28 12:35 ( 60)
KEME物語(1) KEKE
★内容
KEMEは京都の某芸術系大学の学生だった。在籍したのはデザイン関係の
学科だったらしいが、本人は、漫画科を卒業したといっていた。
事実漫画はかなりうまかった。しかし、プロになるにはちとたりない。そう
いうレベルだった。
彼女に関して印象に残っているのは、歯が丈夫だったことだ。なにしろビー
ル瓶や日本酒の一升瓶の王冠を歯でこじ開けるのだ。
下の前歯でひっかけ、クイッと開け、王冠をペッとはきだす。それから一気に
ラッパのみする。日本酒でこれをやるのだから、ほんとに驚いたものだ。私は
その歯をしげしげ眺めさせてもらったが、実に頑丈そうな歯で、どこにも欠け
そうなところはなかった。とにかく歯だけはたいしたものだった。
彼女は漫画家になりたかったらしいが、先程も書いたように、プロになるに
はちと足りないレベルだったので、やむなく就職した。
某繊維商社にデザイナーとして入った。
本人によると、デザイナーは制服がないのでいいそうだ。一般事務の人は制服
の着用が義務ずけられていて窮屈なんだという。
それはよかったな、と私は言った。
制服は、S、M、Lの三種類しかないはずだ。彼女の172センチの身体に合
う制服はなく、もし制服が必要だったら、そのために入社試験で落とされてい
たかもしれない。
制服のいらない職種だったのは、彼女のために本当に幸運だった。
それにしても、彼女がデザイナーとは、ホントかねと、私はいささか驚いた
ものだ。
KEMEにそんな才能があるのだろうか。会社は何か勘違いしているのではな
いか。彼女の日常を知る私は、いささか疑問をいだかざるえなかった。
服装のセンスといったものに対しては、私は大きなことはいえない。
なにしろいつもメンパンにジャンパーというのが、私の日常であり、それ以上
服について考えたことなぞない。活動的な服であればいい程度の注文があるく
らいで、それ以上のことはどうでもよかった。要するに着れればなんでもいい
という態度だった。
そしてそれは彼女も同じだった。
「服なんて安けりゃなんでもいいのよ」
と彼女は言っていた。
それを実践しているのだろうか、いつもジーンズとペラペラの赤いビニール
のジャンパーを着て、歩き回っていた。
「たまには他の服を着てきたらどうだ。君と知り合って以来、僕はその服以外
お目にかかったことがないぜ。」
と私がいささか皮肉を込めて言うと、彼女がいきおいよく切り返してきた。
「隠すところをちゃんと隠しているんだから、いいじゃない。」
「君のスカート姿が見たいなあ。」
と言ったことがあるが、その答えは、
「そんなもんない」
だった。
冗談かと思っていると、どうも本当らしい。いささかアッケにとられたもの
だった。
どうやら、ジーンズしか持っていないらしい。
(経済的な女だな。)
私は半分感心しながら、そう思った。
しかし、そんな女が服のデザインをしようというのだから、いささか不安に
思ったのも無理ないであろう。
(この会社、危ないのではないか。)
しかし、どうやら私は、いささか会社というものを甘くみすぎていたようだ。
彼女が新人研修をおえて配置されたところは、特売品を専門に作っている部署
だった。
(続く)