AWC お題>一枚のカ−ド          浮雲


        
#966/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ     )  91/ 5/21   5:42  ( 83)
お題>一枚のカ−ド          浮雲
★内容
「まあ飲みなさい」
 係長の竹下が、眼を細めながらビ−ル瓶を持ち上げた。
「ええ。でも、私はすぐに顔に出るからまずいですよ」
「なあに、そりゃあ健康な証拠だよ。第一、いくら飲んでも少しも赤くならない
なんて、いったい愛敬がないじゃないか」
「じゃあ、ほんの少しだけ」
「なんだね、こんなものは早くにおぼえて、はやくに卒業することだよ」
「あっ、と」
「まあまあ」
「ええっ−、こんなにですか」
「ぐいっと、ぐいっと」
「・・・ぷっ」
「はっはっは、こりゃあいい」
「ふうっ」
「おいおい、もう顔が赤いじゃないか」
 いつのまに来ていたのか、横から技術主任の宇野がわざとらしく眼を剥いた。
「本当ですか。どうしよう」
 芙美子は、この春に高校を卒業したばかりである。
   −−−−−
「どうらい、ビ−ルの味は」
「にがいだけです」
「へっへっへっ、だれれもはじめはそういうんだよ。とろろがそのうち、うイッ」
「だいじょうぶですか。だいぶ酔っているみたいですよ」
 芙美子は途方に暮れながら、向こう隣の同僚の顔を伺った。宇野はすでに逃げ
てしまっていた。
「係長、もう勘弁してあげなさいよ」
 あなたが悪いのよ、という具合いに芙美子をにらみつけながら相変わらず厚化
粧の関本嬢が助け舟を出した。
「ひっひっひ、せきもろさんにかかっちゃかなわん」
「じゃあ係長、ヤボ用がありますんでわたしはこれで」
 宇野が竹下の耳元ででささやいた。
「おい、君は車じゃなかったか」
 課長の鈴木が手招きしながら聞いた。
「ええ、もう大丈夫すよ。これくらい平気、平気」
「いや、そうじゃなくて。林君を送っていったらどうかと思ってね」
「なるほど。同じ方角だし、いいすよ」
「おいっ、らめ。林くんはこれからぼくと飲みにいくんらから」
 竹下が口をとんがらかしながら、とんでもないという具合いに言った。
「わかったわかった、竹下くん」
「さすが、課長。あんらはエライ」
 鈴木が口とは反対のことを身振りで示したのを、竹下は見ていない。
    −−−−−
「どうしたの林さん。顔色が悪いわよ」
「うう」
「ちょっと横になったら」
「うう」
「気持ち悪いのね。吐きたいんでしょう」
「うう」
 同僚の河村清子が肩を貸してあげようとしたが、芙美子は立ち上がれなかった。
「山下くん、ちょっときて」
「えっ、ぼくですか」
「あなた山岳部でしょ」
 山岳部と酔っぱらいの介抱とどう関係があるのか。
「いま車に乗せちゃまずいじゃないですか」
 宇野である。車の中で吐かれでもしたら、それが本音であることは疑いない。
「そうね。少し横にさせておいた方がいいわね」
 あなたはいつもそうよ、というように河村は顔をしかめた。
「だいたい、あいつが悪いのよ。はじめて飲む娘にあんなに飲まして」
 課長付き書記さん十年目の菊池照子が、あごを突き出しながら口をひん曲げた。
「あら、あなた顔がまっ赤よ。いいのそんなに飲んで。お腹の児に悪いわよ」
「いいのいいの。鍛えてあげてんだから」
    −−−−−
「というわけでそろそろ・・・。ええ、だいぶ盛り上がってきましたし」
 訳の分からないことを言ってみんなを納得させてしまうのも、幹事の腕の見せ
どころである。
「では例によって三本締めで」
「おいっ靴」
「係長、危ないって」
「なにが非常事態宣言だ。ヒクっ。ええ、そうらろ。非情事態と言ってもらいた
いよ。なあ、ウン」
「係長、上着のポケットから何か落ちましたよ。テレカじゃないですか」
「あん、君にやるよ」
 そんなことを言うのは、使いきったテレカだからだろうと思いながらも幹事の
務めだとでもいうように二階堂はそれを拾いあげた。
「あれっ、テレカじゃないや。なになに・・・

 【お酒の健康な飲み方10ケ条】
  第一条
  未成年者、運転者、アルコ−ル依存症者、妊婦は、飲んではいけない。
   −無法者・医学無視の無知・胎児への加害者にならぬために−   」
                   (国立久里浜療養所編ポスタ−より)

                             この項おしまい




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