AWC お題>「一枚のカード」 らいと・ひる


        
#954/3137 空中分解2
★タイトル (NKG     )  91/ 5/11   0: 2  (110)
お題>「一枚のカード」 らいと・ひる
★内容
 本屋にいくとかならず探してしまう本が二つある。
 一つは新刊の文庫、そしてもう一つが「月刊公募ガイド」。
 新刊の文庫は、あれば買ってしまうが、「公募ガイド」はせいぜい手にとって
パラパラとめくるだけ。いつも買うのをためらってしまう。
 あたしはただのOL。物書きは好きだけど、それはただの趣味……ただの遊びよ。
 あたしは自分に才能がないのを知っている。だから、出来上がったモノも誰にも
見せていない。だって、それほど恥知らずじゃないもの。
 その日は、会社帰りに近くの書店へと足を運ばせる。
 そして、本屋の中に入ると、きまって足は文芸雑誌コーナーへと向いてしまう。
でもって、必ずといっていいほど「公募ガイド」を手にとってしまう。
 しばらく表紙を見つめていた。今月号の中身は昨日読んでしまったのだ。
 買おうか買うまいか、と悩んでいる頭の中に「どうせ………」という言葉が浮か
んでくる。
 そうよ、無駄よね………だめだもんね。そう思って、その雑誌を元の場所へ
戻して、さあ帰ろうかと振り向いた瞬間。
「あっれー、陽子じゃない。」
 あたしの目の前にいたのは、高校の時の親友の夏美だった。

「へぇー、夏美、車買ったんだ。」
 夏美はポンポンとボンネットを叩きながらにっこりと笑う。
「知り合いからね、安くゆずってもらったんだ。さあ、乗って乗って……」
 車の中は、レースのシートカバーに、ピンクのフットシート、おまけに後部座席
にはかわいらしいぬいぐるみがわんさかと………そしておきまりのルームミラーに
かかった交通安全のお守り……………夏美らしいというのか………………。
 あたしは少しだけあきれていた。でも、昔からこういう子だったのよね。
「しかし、まあ………」
「………あきれた?でもね、後ろのぬいぐるみは買ったんじゃないのよ。会社の関
係でもらったのよ。………いいじゃない二十は過ぎてても三十前なんだから………
……あたしね。今、ぬいぐるみのデザインの仕事をしてるの。」
「前の仕事は?」
「つまんないから辞めちゃった。好きでもない仕事を一日中やっているなんて、あ
たしには耐えられなかったのよ。………まあ、前の方が給料は良かったけどね。」
「そういえば、夏美って昔から美術関係が好きだったもんね。」
「そういうこと………あ、そうだ陽子。ユーミンの新しいアルバムの入ったテープ
が、あたしのバッグの中にあるから出してくれない?」
  夏美は左手で、後ろのシートを指す。
 あたしは、ぬいぐるみ中に埋もれている夏美のバッグを捜し当てると、その中に
入っているテープ類をいったん全部出そうとした。
「あれっ?」
 テープに引っかかって何かカードのような物が一枚、ひらひらと足元へ落ちていく。
 それは、よくファーストフードのおまけで付いてくる、表面に銀色の加工がしてあ
るインスタントくじのようなものだった。『ラッキー3』という白抜きの文字が印象
的だ。
「何これー?」
 思わずあたしは夏美に問いかける。
「あっ、そんなとこに一枚残ってたんだ。陽子、その銀色の部分削ってみて。」
 そのカードをよく見ると、表面に『全国自治くじ』と書いてある。
「これって宝くじなの?」
 あたしは、十円玉を取り出すと夏美に言われた通り銀色の部分を削る。すると、下
から数字が出てくる。三文字ずつ二段になっていて、右から『5・2・7』下の段へ
いって『7・2・7』。
 信号待ちの所で、夏美がひょいとあたしの持つカードを見ると、けらけら笑いだす。
「うふふふふ………当たりね。」
「うそ?」
「7が三つあるでしょ?」
 そうか、7が三つもあるんだからかなりの額なのかしら?そう一瞬でも思ったあた
しがバカだった。
「七等のひゃっくえーん!」
「……………」
 あたしはしばらく、あきれて声が出なかった。
「くだらないと思ってるんでしょ?宝くじなんて。」
 あたしの心情を悟って夏美が話しかける。七等というのにもがっくりときたが、そ
もそもあたしは宝くじなど好みじゃないの。だって、バカみたいだもんね。
「………今の宝くじって、そんなのもあるんだ。陽子って、昔からそういうのも好き
だったのよね。」
 なにせ夏美は高校の時すでに、宝くじのキャリアが七年とか言ってたもんね。その
わりには当たったって噂は聞いた事ないけど。
「陽子って合理主義だからね。こんな無駄なものは好みじゃないのはわかるわ。……
………だけどね、こういう事知ってる?」
「何?」
「確率ゼロと一億分の一。同じように感じるけど、本当は雲泥の差があるのよ。数学
でも『0』と『1/∞』は近似値であっても『=』でつながらないでしょ。」
 数学の話はやめてって……頭が混乱してくる。
 そんなあたしに気づいたのか、夏美はくすっと笑い出す。
「…うふっ、そういえば陽子って数学アレルギーだっけ………そうね、わかりやすく
言ってあげるわ。いくらくだらない宝くじだって、買わなきゃ当たらない………そう
でしょ。」
「……………」
 そういえば夏美って、けっこう人の事に鋭いんだっけ、久しぶりに会ったもんだか
ら思い出す事が多いな。
「この『意味』わかるよね?」
 夏美は、その返事を確認するかのように言葉を投げかける。
 そんな事はわかっている。無駄だと自分で思っていても、それは本当に思い過ごし
でしかない場合もある。でも…やっぱり自分の事は自分が一番わかるはず。才能がな
いのを再確認するのはやっぱりいや。
「………陽子もためらうタイプよね。もう一つだけ、おもしろい話をしてあげる。こ
れも宝くじに関した話なんだけどね………『高額時効当選金』って知ってる?せっか
く買った当たるかもしれない宝くじなのに、いつのまにか忘れてそれを調べようとし
ないの。もったいない話よね。『自分』で買って『自分』でしまいこんでおいて期待
もせず忘れちゃう。もったいない話よね………当たってるかもしれないのに。」
 夏美の言いたい事はだいたいわかる。あたしが、なんでも何でもすぐにあきらめて
しまう事を夏美は高校の時の親友だからよく知ってる。
「夏美、さっきから何がいいたいの?」
「………あたしの口から言わせる気?まあ、あえてヒントを言えば宝くじと誰かさん
の心の中の大切なモノに共通することね。」

 あれから2、3日夏美の言葉が頭のすみに引っかかって、寝不足気味。
 結局、夏美の言いたかったのはあたしに対する『良い意味での警告』。
 自分に才能があるかないかは、個人ではわからないのよね。
 「買わなきゃ当たらない。」確かにそうよね。
 今さら納得するのもおかしいけど………やっぱりきっかけが必要よね。
 自分の未来なんて全然わからないんだもの、少しぐらい期待しても悪くはないわね。

 次の日の会社帰り、あたしはまた本屋へと足を運ばせる。
 もう迷わない………だって、あたしの未来だもの。


                ― for your future −






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