#943/3137 空中分解2
★タイトル (UYD ) 91/ 4/27 14:54 ( 97)
お題>『若き日の約束』 KEKE
★内容
「なかなか面白いんじゃない、これ」
と彼女が言った。
初夏の北海道である。礼文島のユースホステルの一室で彼女と私は
向い合っていた。ふたりの間にはこういう所によくある『思いでノ
ート』があった。
さきほど私はこのノートになにごとか書き込んだのであるが、そ
れをさっと奪って読んだ後の彼女の感想が冒頭の発言である。
「そうかな…」
私はかなり疑わしそうに答えたはずだ。
「うまいとは思わないけど、面白くはある、ってとこね」
彼女はその長い髪をかきあげた。そのしぐさがきまっていた。
…美人は何をしてもきれいだな。……
彼女は由美という。髪をカーリーヘアにした長身の美女である。ま
ったくユースホステルなどに泊まっているのがおかしいような豪華
絢爛たる女だった。
「将来は作家になるわけね」
と彼女はいった。
私は思わずどきまぎしてしまった。そんなこと考えたこともない、
とはいえなかった。たしかに頭のどこかにはそんな考えがあったこ
とは事実だった。でも直ちにどうこうということはなかった。当り
前だ。今の実力では人に読ませる文章が書けるはずがないことはよ
く分かっていた。
「30才になったら本を書きたいと思っている」
「あと4年か。あと4年であなたの本が読めるわけか」
「そんなにうまくいかないよ」
なぜだかそんな気がした。私は昔から運のよくないほうだった。
「そんなこと言わないで、頑張って直木賞取ってよ」
私は思わず苦笑してしまった。
彼女とはその後1年ほどつき合ったが、私のほうにごたごたがあ
ったこともあって別れた。
先日上京したおり、用事が済んだあと彼女のマンションに電話を
かけてみた。もしかして引っ越しているのではないかと思ったが、
彼女はまだそこにいた。
逢いたいというと、彼女はマンションに来るようにと言った。私は
期待に胸をはずませて、花を買い、いそいそと彼女のマンションを
訪れた。
ドアを開けてくれた彼女の顔はあいかわらず奇麗だった。最後に電
話してから3年ほどたっている。彼女ももう30才を越したはずだ
が、ちっとも老けた感じがしない。いやますますその美しさに研き
がかかって、一種壮絶な美貌になっている。
私は思わずつばを飲み込んだ。
「何年ぶりかしら」
由美はえんぜんと微笑んだ。
「随分ひさしぶりだ。もう5年くらいたったかな」
「何の連絡もしないんだから、死んだのかと思ったわ」
由美は皮肉っぽくそうつぶやいた。
「いろいろあったんだよ」
「どんないろいろよ。いきなり連絡も何もしなくなるようなことし
て」
「そういうなよ。本当に大変だったんだから」
「だから、その大変の中身は何なの」
「今日はそんな話をするために来たんじゃない」
「へーえっ、じゃあ何するために来たの」
「何っておまえ……」
私は思わず詰まってしまった。
いくらなんでもお前を抱くために来たというのは露骨すぎる気がし
た。
由美はそんな私を鋭い眼つきで睨んでいたが、いきなり服を脱ぎだ
した。すべて脱ぎ終って全裸のその姿を私にさらすと、胸をとんと
んと叩いた。
「これが欲しいんでしょ。いいわよ、来なさいよ。」
私は躊躇していた。確かに彼女を抱きたいのだが、こんな形は嫌だ
った。もう少し甘いムードを期待していたのだ。
だが彼女はそんな私の魂胆を見抜いたようにさらに激しい言葉を続
けた。
「かっこつけるんじゃないわよ。要するに抱きたいくせして」
彼女は私の手を取ると、自分のほうに引っ張った。私はあっけなく
彼女の上に倒れ込んだ。
終った後、抱き合ったまま由美の髪をいじっていた。彼女が突然
言った。
「あのときの約束覚えている?」
「あのときの約束?」
「はじめて逢ったときのことよ」
ユースホステルの1室で由美と話し合った時のことを思い出した。
そうだ、あのとき30才になったら本を書くといったんだっけ。そ
れが今36才になろうというのにまともな短編ひとつ書いたことは
ない。私は心が動揺した。
「いろいろのことがあって本を書くどころじゃなかったんだよ。本
当だ。それにあの頃は自分に才能があると思ってた。今思えばお笑
いだけどね。」
私はこれだけを一気に吐き出すようにいうと苦い顔をした。ついに
本を書けなかったことは、私のなかで傷となって残っている。
だが由美はきょとんとした顔をしていった。
「そうじゃないの。あなたとの初めての時よ。あのときあなたはあ
っというまにいっちゃって、これはホーケーのせいだとしきりに弁
解していたじゃない。今度逢うときは手術するから大丈夫だ、なん
ていったくせに全然約束を守らなかったわ。そして今もほら…」
由美は私のチンチンを引っ張った。
「立派に皮をかぶっている」
「そしてさ、あっという間なのも相変わらずね」
由美は皮肉っぽい口調でそういった。
私はだんだん顔が赤くなっていった。
ちゃんちゃん。