AWC CAMPUS> 降霊      (4) ■ 榊 ■ (66/75)


        
#874/3137 空中分解2
★タイトル (HHF     )  91/ 3/13   7:57  (154)
CAMPUS>  降霊      (4)     ■ 榊 ■  (66/75)
★内容


  を放ちながらも、星々は負けじと輝いていた。
   こんな山奥でみる星の数は勿論のことだが数え切れないほど空に満ち、榊はす
  ぐに数を数えるのをあきらめた。
   未杉は榊の横で同じように空を見つめ、何かぶつぶつと呟いていた。
   あとで聞いたところによると、
  「どれだけ知らない星があるのか数えていたんです」
   とのことだった。
   一度見たものは忘れない彼ではあったが、
  「どれだけあった?」
   と榊が聞いてみると意外にも、
  「それこそ星の数ほどありましたよ」
   と未杉は笑って答えたのだった。
   御影は相変わらず無表情で、忙しそうに手を動かし、頭を洗っていた。
   ただ、彼の感情を伝える唯一の場所と言われる「瞳」は、近年希にみるほどの
  澄んだ様子を示していた。彼もそれなりに刺々しくなった意識を和らげることが
  できたようだった。
   水面からたちのぼる湯気が草木の垣根をこえ、風にあおられ消えていく。
   気づいたように耳をすませば、じーーーーーぃ、じーーーーぃと虫の鳴き声が、
  静かに耳に聞こえてきた。
   いい気分で風呂から上がり、榊達は部屋に戻った。
  「いかがでした? お風呂」
   浴衣姿の榊達に、お風呂に入る用意のできた綾が声をかけた
  「もぉ、最高! 久しぶりに風呂に入った気分だよ」
   上機嫌の斉藤がそう答えると、綾は「それは、良かったです」と嬉しそうに微
  笑んでくれた。
  「じゃあ、僕たちも早く行こうよ!」
   髪の短いボーイッシュな由岐がそう言うと、綾は「そうですね」と答えて立ち
  上がり、美里・弥生に声をかけて広い部屋から出て行ってしまった。
   広い部屋を存分につかって御影、未杉、斉藤と散らばっていたが、いつもの日
  課である腕立て伏せをはじめた御影をちらっと見た榊は、
  「ふむ………」
   と呟くと、何かを考えついたのか、寝転がってテレビを見ていた斉藤のもとへ
  歩いていった。
   一言、二言話したかと思うと、斉藤が何やらおかしな笑みを浮かべた。
   すると、すかさず、好奇心旺盛な未杉がよってくる。
  「何の話をしているんですか?」
  「おっ、未杉。お前も手伝えよ」
  「…………ことによりますが」
  「なに、一石二鳥にも三鳥にもなるお話しさ」
   榊は意味ありげな笑い顔を浮かべ、ちらっと御影の方を見た。


   大粒の水が綾の肌を滑り落ちる。なめらかな綾の肢体をゆっくりと撫でながら
  粒は滑り、大理石の床に落ちてはじけた。一粒、また一粒と。
   服を脱いだ綾は、着ていた時とはまた違う意味で、美しかった。
   由岐は小柄でショートカットの似合うボーイッシュな可愛い女の子であり、弥
  生は眉・唇の一つ一つが整っていて端正な顔立ちをした美女であり、美里は人の
  目を引きつけるものを持ったやや彫りの深い顔立ちをした美人である。
   そして綾は、そのどのれとも違ったタイプでありながら、可愛くもあり、端正
  な顔立ちであり、人の目を引きつけるものがあった。
   強いて言うならば、象牙細工でつくられた等身大の女神像のようであり、しか
  も、黒くしなやかな髪を持ち、命の吹き込まれた綺麗な瞳を持っていた。
   そして、何よりも弥生と美里を悔しがらせたのは、綾が着痩せするタイプだと
  言う事実だった。由岐などかはあどけなくも喜んでいたが、他の二人は心中穏や
  かではいられなかった。
   しかし、それにもまして綺麗な黒髪には、美里も羨望の眼差しをおくるしかな
  かった。
   その長い黒髪を丹念に洗う綾のようすを見て、美里はただため息が出るばかり
  だった。
  「いいなぁ、長くて綺麗な髪……」
  「中国さんは、のばさないんですか?」
  「私にはこれが限界ね。これ以上のびないわ」
   美里はまたため息をつくと、綾はくすっと笑った。
  「中国さんにはやっぱりそのぐらいが似合ってますよ。それに、これだけ長くな
  ると、手入れが大変です」
  「切らないの?」
  「切ってもすぐ伸びてきてしまうんです」
  「私と逆ね」
   またため息をついてしまう美里を見て、綾は思わず微笑んでしまった。
   やっと髪をすすいだ頃にはすでに、由岐は脱衣所の方に行ってしまい、湯船の
  中にはそろそろのぼせてきた弥生と美里がいるだけだった。
   綾は、そっと湯船の中に足をいれる。
   その時、にわかに庭の虫が鳴きやみ、代わって人の声がしてきた。
   数人の、しかも男のものらしい。
   綾はそのまま動きを止め、声のする方向を見た。
  「何かしら?」
   何を垣根の向こうで話しているのかはよく聞こえず、不信に思った美里は湯船
  からゆっくりと体を出した。
   痴話喧嘩にも似た言い争いの後、これだけは精確に「せーの」と数人のかけ声
  が聞こえる。
  「なに」
   そろそろ事態が飲み込めてきた美里と弥生が身構えると、二人の間の垣根から
  人が飛び込んでくる。
  「きゃっ!」
   綾は短い悲鳴をあげ、びっくりして立ち上がった。
   弥生はすかさず手近な桶を手にとり、美里は胸を隠しながら平手をかざした。
   飛び込んできた人物の半身だけが、ざばっと湯船からいきおいよく起きあがる。
   白色のTシャツ、鋭さとあどけなさを持った表情 −−−−−−− 御影だ
   その御影が起きあがった目の前には、綾が立っていた。
   御影は最初、目の前にあるものが何なのか解らなかった。
   それが何であるかを理解したとき、呆然として思わずじっと眺めてしまった。
   一糸まとわぬ、綾の全裸を −−−−。
  「せっ、誠一郎さん………」
   美里が平手をみまい、弥生は桶を後頭部にたたきこむ。
   ばこんっ、と風呂場に心地よい音が響くと、御影は脆くも顔から水中に没した。
   難を逃れた由岐は脱衣所からおそるおそるのぞき込む。
   そして、全裸を見られた綾は顔を真っ赤にして、崩れ落ちた御影を見つめ続け
  ていた。


  「なっさけない。たかが裸ぐらいで」
   ライトを持って夜道を歩く榊が、そう呟いた。
   風呂に入った後で、全員でお墓を一周しようと決めていたのに、御影が鼻血を
  出して気絶、綾が看病のために居残ってしまい、結局6人で行くことになってし
  まったのだ。
   榊と結託して御影を風呂場に放り込み、あまつさえ、御影の方に注意がよって
  いる間にしっかりと中の様子を見ていた斉藤と未杉が、その言葉にうんうんとう
  なずいた。
   二人は思わぬ収穫に満足気であり、さらに未杉などは出てきた鼻血をおさえる
  ためにティッシュを鼻につめて歩かねばならないほどで、二人に反省の色など見
  えるはずもなかった。
  「あ、あんた達ねぇ……」
   無理矢理つれてきて解った大の幽霊嫌いの美里が、弥生の腕にしっかりとつか
  みながらどうにか反抗しようと試みたが、けっきょく榊達には「ぬかに釘」でし
  かなく、もはや弥生さえも怒る気が失せていた。
   美里がそのように極度に恐がっている一方、由岐はと言えば、榊の服をしっか
  りとつかみすぐ横にいはしたがさほど恐がっている様子もなく、弥生にいたって
  は「少しは恐がれ!」と言いたくなる様子であったので、男どもはもっぱら美里
  いじめに走った。
   何しろ、「鬼の副会長」、「榊の唯一の天敵」と呼ばれ、恐れられている美里
  が、木がざわっと揺れるたびに悲鳴を上がるのだから、笑いが止まらない。
  「かっ、帰ったら憶えてらっしゃいよ!」
   精一杯の美里の声もどこか空へと吸い込まれていくようにして消え、かわって
  墓場に響くのは榊達の明るい笑い声だった。


   その頃、御影はと言えば、あの広い部屋に先に布団を敷いてもらい、その布団
  にくるまるようにして寝ていた。
   そして、綾はそのすぐ横に正座して座り込み、手に団扇を持ってゆっくりと扇
  ぎ、御影に風を送っていた。
   外はもう暗く、虫の音も夜のものに変わって、静かな鳴き声をあげている。
   風もいくぶん涼しく、障子の隙間からときおり吹きかけてきていた。
  「ん…………」
   一瞬だけ苦しそうに瞼を動かす。
   綾は団扇を揺らす手を止め、御影を見つめた。
   苦しそうにふるえていた瞼はやがて、ゆっくりと開かれた。
  「……………」
   いまだ頭がはっきりしないらしく、焦点のあわない瞳を綾に向ける。
   そこには、のぞき込むように見つめる綾の瞳があった。
  「誠一郎さん、大丈夫ですか」
   御影はしばらくじっとその綾の瞳を見つめていたが、しばらくすると事態を理
  解したらしく、急に綾に背を向けるようにして寝転がった。幾分、その顔と耳を
  赤くして……。
   綾の方も、先ほどの事件を思い出したらしく、いまさらのように頬を赤く染め
  た。
   そして、二人は黙り込んでしまう。
   その代わりに聞こえてくるのはただ、風鈴の音だけであった……。

   孤児だった御影に、母の記憶はない。
   せいぜい憶えているとしても、孤児院から綾の叔父に引き取られた頃からで、






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