#870/3137 空中分解2
★タイトル (HHF ) 91/ 3/12 8:22 (154)
CAMPUS> 降霊 (1) ■ 榊 ■ (63/75)
★内容
前書きにかえて
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さて、短編のはずの、しかも夏にアップするはずだった綺譚、まずは御
一読ください。
とにかく、長編になるとすぐに作者の制御がおよばなくなるため、不満
が残る点が「数多く」あります。とくに、頭の中にあったモノとできあが
ったモノとのギャップには耐え難くすらあるのですが、すでに物書きの宿
命と思ってあきらめています。書き始めた頃から変わらずある感情ですか
らね……………。これは。
「恐い! と言うよりは、頭に焼き付いて忘れられない……」
前回の後書きの言葉をモットーにして書き上げましたこの綺譚は、はっ
きりいって恐くはないはずです。ただ…………、自然、友達、両親………
そんなものなどをなるべく頭に浮かばせるように書いてみました。
蝉の鳴き声、大自然の風を感じていただければ、幸いです。(^_^)
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京夜綺譚 その参
コウレイ
「 降霊 」
Written by 榊京夜
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京都駅から車で一時間ほど走ったところに、綾のふる里はある。
雄大な山々に挟まれる小さな村。
住民はわずか数百人。
素朴で純粋で、昔ならどこでも見かけられたような山村。
そこが、生まれた時から高校一年までの16年のあいだ暮らした、綾のふる里
だった。
その村の中心には広場があり、すぐ側には築80年はたとうかと言う木造の校
舎がある。叩けば壊れそうなこの校舎は、しかし、幾人もの子供達をその中に抱
きかかえ、いまも立派にその役目をはたしている。
綾は、その全校生徒わずか百数十人の学校に、かつて通っていた。
朝早くからここを訪れ、夕にいたるまで学び、そして遊んでいたのである。
だが、その学校から綾の家にいたるまでの道程は、かなり長い。
十分もあれば着いてしまう村の端まで友達と仲良く歩き、そして綾は迎えにき
てくれた家のばあやと二人で、北側の山道をゆっくりと歩いて行かなかればなら
ないのである。
深い森を抜け、崖の横をとおり過ぎ、川を越え、30分も歩いてようやく家に
たどり着くことができる。その道を綾は、10年近くもの間、歩き続けたのだ。
そして、その長い道の果てに、綾の家はある。
日本風の木造建築に、畳張りの三百坪近くもある大きな家。その古さは、学校
に劣らずとも勝らないものであったが、使われている木はいまだに光沢を放ち、
大きく広がる家はまるで一本の樹木であるような錯覚を人に与えるほど生き生き
としていた。
庭はさらに広くひろがり……………そしてその奧には、管理をしている者さえ
その果てを知らぬほど広大な墓地がある。
しかし、その広大さに反して家の中に人気はなく、今も綾を含めた三人だけが
この家に暮らしているだけであり、蝉の声も風鈴の音も、その微かな音が家中に
響きわたることができるほどであった………。
学園で残りの余暇をぶらぶらと過ごしていた榊達がこの家の玄関についたのは、
そんな夏の暮れの、まだ暑い日の正午過ぎのことである。
「 暑い日が続いておりますが、御身体にお変わりはないでしょうか。
もしよろしければ、山奥の私の郷里に涼みにいらっしゃいませんか?
炎城綾 」
電話一本かければすむような用事に、わざわざ古風にも招待状をよこしてくれ
た彼女の好意に甘えて、暇を持て余していた学園の御人達はさっそく電車に乗り
こみ、京都駅から迎えに来てくれた車に乗って、長々と山道を走ってきたところ
であった。
日はまだ南天に輝き、空気はむしっとした湿気をおびながらも、木漏れ日をう
ける樹木の幹では、必死につかまっている蝉がうるさいほどの鳴き声をあげてい
る。
真夏の昼。
外に立っているだけで汗がにじみ出るような暑さに、クーラーの効いた車から
下りた榊は、思わず呟いてしまった。
「暑いな……」
心から出た、正直な感想である。
「でもいい所じゃない? 風も気持ちがいいわ」
榊の監視役でもある副会長の中国美里<ナカグニミサト>は反対のドアから降り、白い
スカートの裾をはためかせながら答えた。確かに、都会にはない涼しい風が、幾
分その暑さを還元してくれていた。
やがて斉藤徹、岡田由岐、御影誠一郎、阿蒙弥生、未杉清隆、そして運転をし
てくれた小林さんは順に乗っていた車から降り、木と磨り硝子で作られた妙に古
めいた玄関をくぐり、一人一人暗く落ちついた土間に足を踏み入れた。
外とは遮断された空間であるかのように土間は涼しく、そして暗かった。
家に一歩足を踏みいれると、あたりをゆっくりと見回し、どこからともなくた
め息がもれた。
歴史を経てきたモノだけが持つ重みと暖かさを、この家から感じるのである。
「上がったところの左手の部屋にはいっていて下さい。今、お茶を持ってきます」
ここまで車を運転してくれたまだ40代前半と言う感じのする小林さんがそう
言うと、
「おじゃまします」
と一言だけいって順に説明された部屋へと向かった。
「かなり古いお屋敷だね…………」
「一部改築したそうだけど、基本的には百年も前からのものらしいですよ」
由岐の呟きに、未杉がいつもの調子で説明してくれた。
なるほど、ミシミシと音をたてる床からも、未杉が言った言葉はまんざら嘘で
はないことが解る。しかし、柱も天井も、かなり古いものではあったがしっかり
と磨かれ、それほど老築化している様子も見えなかった。
障子の扉もしっかりしたもので、先頭の榊が開けたときもほとんどきしむ音が
しなかった。
小林さんの言う「入って左手の部屋」は、とにかく広い部屋だった。
80畳ほどもある部屋には、真ん中に小さな長方形のテーブルと壁際にやや大
型のTVがあるぐらいで、そのほとんどの空間はただ畳が敷かれているだけの、
だだっ広い部屋だった。………おそらくは、一族郎党全てがこの屋敷を訪れたと
しても大丈夫なよう、設計されているのだろう。
反対側の障子はその半分が開けられ、さらに広い庭も見渡せる。まるで大海原
か大草原に出くわしてしまったかのような景色であった。
しばらく立ち止まって、庭、部屋、部屋の奧へと視線を動かすと、そこには先
客がいる事を榊は知った。やや大柄な背中を見せ、その浴衣姿の男性はくつろい
でTVを見ていた。
「……あれ、もしかして理事長?」
見覚えのある背中に対し榊が呟くと、気配を察したのかおもむろに振り向き、
40代後半の少し太った顔を見せてくれた。精悍であり、それでいて人懐っこい
笑顔の似合う顔立ち。大柄な、人に安心感を与えるしっかりとした体格 −−−
−− 確かに彼は榊達の学校の理事長、北村啓治であった。
「おぉ、榊じゃないか。やっとついたか」
「ええ、たった今」
一同は何はともあれ、理事長のところに寄って行った。
「でも、理事長が何故こちらへ」
いちばん近くに座り込んだ榊が理事長にそう聞くと、今度は理事長の方が不思
議そうな顔をした。
「自分の家に帰ってきて、何が悪い……」
意地悪そうにそう言って、理事長は笑った。
確かに、理事長は綾の叔父であるのだからここは自分の家なのかも知れないが、
まだ本宅もあるだろうし、もっといい別荘もあるだろうし、第一………
「仕事の方は大丈夫なんですか? 夏は忙しいと言ってらしたのに」