#863/3137 空中分解2
★タイトル (HHF ) 91/ 3/12 7:58 (138)
CAMPUS> 解説集 その拾 ■ 榊 ■ (56/75)
★内容
∴ もう一つのお話 ∴
本編の他には、6つからなる外伝があります。書いた時期などは、本編と重
なったりしているはずなのですが、詳しい事はもう覚えていません。ただ、最
初の3編は途中に考えたものであるため、またもや未決(笑)になっています。
その時、その時に感じた、ほんの些細な物語ばかりを集めた、小説にもならな
いようなお話です。
∴ 中条裕美の私生活 ∴
名前がいまいち危ないですが(笑)、ただふとした私生活での出来事、と言
った意味です。深い意味はありません。(笑)
中条裕美は、ぽっと生まれたキャラなのですが、作者の非常に気に入ってい
るキャラの一人です。書記をやっている「岡田由岐」と存在感が似ているので、
混同されがちな彼女ですが、キャムのなかでは少ない「まともなキャラ」なの
です。(笑) 生徒会のメンバー………気付いている方もいるかもしれません
が、会長の榊、副会長の美里、書記の由岐は同じ学校の出身という変わった組
み合わせをしています。これは、会長になった榊が他の高校に入学の決まった
二人を抜擢した結果であるのですが、裕美だけは理事長の推薦によるものなの
です。
さすがに、「やつらに金まで握らせてはやばい……」と感じたのでしょうね
(笑)、お金にはがめつく、処理能力の高い人を選び抜き、監視役もかねて彼
女は会計として入学したわけなのです。それ故、あまり話には参加することの
無い、脇キャラとなってしまいましたが、そこはそれ、気に入っているキャラ
ですので、特別に話を作ってしまったと言うわけなのです。(^_^)
Another Campus City I
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「 中条裕美の私生活 」
by Kyouya Sakaki
学園の南方にそびえ立つ通称「事務館」の一階には、ややひろめの資料室がある。そ
こは、会計をやっている中条裕美のお気に入りの…………と言うよりは、行き着けの
部屋であった。彼女はここへ半分は好きで来ているのだが、しかし、やっていること
と言えば学園の事務処理全般。今日もきょうとて、夜中の十時と言うのにCRTとに
らめっこの最中であった。
外はすっかり暮れ、寒さのためにすっかり澄みきっていた大気の向こうには、大粒の
星がまたたいていた。
この時間と寒さでは、元気な生徒も部屋に閉じ込もっているようで、窓から見える運
動場は街灯の明りを残して、ただ「闇」。まるで、静けさが辺りを包み込んでいるよ
うだった。
キーボードを慣れた手つきでカタカタと叩く音が聞こえる。その音もすぐにやみ、デ
ィスクに書き込むカチィっと言う小さな音が静かな部屋に響くと、初めて裕美はため
息をついた。
可愛らしい顔立ちにかけた丸いメガネを取り、机に置く。
「疲れた…………」
心から出た言葉はため息のおまけ付き。
裕美は立ち上がり、CRTとコンピューターの電源ボタンを人差指で押す。部屋はい
ままであったファンの音もなくなり、完全な静寂に包まれる。裕美はゆっくり机をす
り抜け、窓の一つに歩み寄った。
裕美はこの一時が好きだった。ただ静寂と闇に包まれるその一時。
夜は人を素直にさせると言うが、この一時に立ち会ったときと、温かい布団に入り込
んだ時だけ、裕美はその言葉を思い出す。
何も考えないでいられる時。彼女は、ゆっくりと外を見渡す。
「さむそ…………」
外は張り詰めたような冷たさを見せ、暖房のきいているはずの部屋にいてもなお体の
真が冷えるような気がした。しかしまたその冷たさが、いっそう頭をすっきりさせて
くれる。
「………………あれ、人影が………」
真っ暗な運動場のふちにある街灯の明りにちらっと人らしき影がうつる。思わず裕美
は、せっかくあたまった部屋のこともかえりみず、いそいで窓をあけた。
「さっ、さむい……」
思わず呟いてしまった言葉の息は、真っ白な蒸気となった。外は零下のようだ。
「誰……? 誰かそこにいるの………?」
ふわっと白い蒸気が口からもれる。
「…………………」
しばらくは静かであったが、すぐにタッタッと軽い走るような音が聞こえ、しばらく
すると部屋からもれる明りのもとに一人の女の子の姿が浮き上がってきた。
「うわっ………、やっぱり、中条さんだ………。まだお仕事なんですか?」
ショートカットに澄んだ綺麗な瞳。闇に吸い込まれそうな濃い青の服を着て女の子は
たたずんでいた。
名前は確か………そう、工藤舞奈。800と1500の女子高校レコードを持ってい
る陸上部副部長。とにかく、走ることだけならこの学園でも女子一番と言われている
女の子。
裕美はその姿を見て、ほっと安心したように、ふぅっと白い息をはいた。
「もう、終わったの。部屋に戻ろうかなぁ…って思っていたところ」
「大変ですね! 私、頭悪いから尊敬しちゃう。毎日、お疲れさまです!」
どちらかと言えば悲愴感はなく、言ってしまえば生き生きと言われ、裕美は思わず吹
き出してしまった。
そういえば、しばらく忘れかけていたのだ。この感じを。この元気を……。
「ありがとう…………。ねえ、ところでいま練習中なの?」
「はい。あとは自分の部屋までの直線コースだけですけど」
そういって微笑んだ彼女の顔は、むしろ部屋の暖房などかよりずっと心を暖めてくれ
た。裕美も思わず、微笑み返す。
「そう、ならちょっと待っててくれない? 私も帰るところだから」
「はい!」
元気よく返事をしてもらって、裕美は微笑みながら急いで窓を閉めはじめた。
「中条さんと一緒に走れるなんて…………思っても見なかった!」
あとから続いた言葉に、裕美は思わず窓を閉める手を止めた。
「走るの?」
「えっ? 一緒に走ってくれないんですか?」
何も疑問を感じていなかったかのような問いかけに、おもわず裕美は空を見上げ、し
ばらく思案した。
そして、顔をもとに戻すと舞奈にOkサインを出した。
舞奈の返答は、温かい笑顔だった。
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そして、二人は帰途を走っていくわけなのですが、この舞奈のかえり道というのが
すごく、垣根を飛び越えるは、塀の上を走るは、道無き道を駆け抜けるはで裕美はも
う大騒ぎ。追って行くだけで精いっぱいの裕美に、舞奈は「ねえ、風が気持ちいいで
しょ?」とたずねる。「え?」と聞き返したとき、裕美はちょうど柵を踏み台にして
ゴミ箱を飛び越えるところだった。その時、ふっと通り抜けていった風の心地よさに、
思わず我を忘れてしまった裕美は着地に失敗してしまう。舞奈が急いで駆け寄ってき
たが、裕美は冷たい大地に寝転がりながら、滅多にみせることのない笑顔を浮かべて
いるのだった。
裕美は会計的な処理能力が優れているが、別に運動音痴というわけではない。誰に
でもあったように、裕美も昔は野原を駆け回って遊んでいたクチであり、ゴミ箱を飛
び越えたときにその頃の気持ちを思い出し、我知らず微笑んでしまったのである。
数日後、運動会のリレーがあり、生徒会チームの一番手として裕美は走ることとな
った。コンピューターの前に座っている彼女しか知らない美里が心配をして声をかけ
ると、裕美は笑ってこう答えた。
「大丈夫、私、走るのは得意なんです」
白線の位置につく。前方の明るさにふと目をつぶると、脳裏に広い草原が浮かび上
げる。広い、広い草原。一緒にかけっこをした友達。駆け抜ける風………。
そして、
よーーいっ、ドン!
第一話はこんな感じになるはずでした。