AWC CAMPUS> FARTHER (5)  ■ 榊 ■ (53


        
#860/3137 空中分解2
★タイトル (HHF     )  91/ 3/12   7:48  (154)
CAMPUS> FARTHER (5)    ■ 榊 ■  (53
★内容


相手の男も座り込む。
「そういえば、自己紹介がまだでしたな。私はここの陸軍大将をしています、ホー・
ヤントスといいます。よろしく」
「こちらこそ」
御影は軽く礼をした。
「ところで………本当にこの報告書を信じていいのですか?」
「………?」
「いえ、つまりですね。あのファンを本当に一人で倒せるのですか?」
「…………」
「いえ、信頼していないわけではないのですが、われわれは彼一人に何万という人員
が死んでいるわけです。それをたった一人でとは…………」
「殺す………とは言っていない」
「え?」
「連れて帰るのさ」
「はぁ?………………いや、失礼。ちょっと、言わせて頂きたいのですが、いくらな
んでも無理なのでは? いや、確かにアメリカ大統領じきじきのサインの入った書類
は受け取っています。戦争が起こせないための苦肉の策とは言え、一人だけ送って来
るとは………」
御影は、てんで話など聞いていなかった。
話を合わせる為の口実でしかない言葉など、無視するに限る。
御影の視点は向こうの壁にあった。
将軍もそれを見て、気を悪くしてしまったかと勘違いして、急に下手に出てきた。
「いえ、他には策などないのですから。こちらからお願いします。最大限協力しまし
ょう」


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                  :

               < 中略 >

                  :
                  :


第五章 HOME


飛行機が空港に到着し、乗っていた客が全員降りようとも、御影は降りようとはしな
かった。
周りはしんと静まり、コックピット辺りでのスチュワーデスの片付ける音だけが、ま
るで遥か遠くの世界の音のように聞こえていた。
それはまるで、荒々しいまでの演劇が終わった会場に、一人残されているかのようで
もあった。
目を閉じて、まるでその演劇の内容を思い出すかのように、あの妙に肌にあった、そ
して心地よい、鬱蒼としたジャングルのことを思い出していた。
暖かい………まるで母胎にいるような、あの「感覚」………………汗をかくような暑
さまで、暖かいと感じたあのジャングルが、はっきりと頭の中に浮かんでいた。
そして、父……………………。最後に見た、息子に死を請う姿が目をつぶっても……
…いや、目をつぶったからこそ強く、浮かび上がる。

『 撃て 』

父はしっかりと自分の目を見つめ、呟くようにいった言葉だ。
顔から汗が吹き出していたのを憶えている。
『 撃て! それだけがお前にできる、最後の孝行だ! 』
父は叫んだ。それが、「孝行」だと………。
「父さん…………」
撃ってしまった。迫力に負けるように、撃ってしまった。自分の手で………。


御影は、再びしっかりと目をつぶった。
悪夢から逃げるような悲痛な表情を浮かべ、そして、父がいった最後の言葉を思い出
した。

『お前にはまだ、母も弟もいる……』

そのひと言は、父の死を一瞬だが、忘れさせるだけの響きをもっていた。
母、弟…………その言葉を唱える度に、戸惑う。そんなものはいやしないのだと、思
って育ってきたのだから…………。
もう一度、あの父の眠るジャングルの大地が頭に浮かび上がってきた。そして、かわ
るように、まだ見ぬ母と弟のおぼろげな姿が思い浮かぶ。
その二つは、まるではじめは一つの物であったかのように寄り添いあい、一つの想い
として頭のなかで浮かびあっていた。
強く、そして、熱い想い。
胸が焦がれるほどの郷愁を、御影はその二つから感じていた。

そして、呟くのだ。

いったい、どちらが故郷なのだろうかと…………。



「あの……………」

その声が現実のものだと思い出して、御影はゆっくり目をあけた。通路側を振り返っ
てみると、戸惑いの表情を浮かべたスチュワーデスがたっていた。

「もう、飛行機は空港につきましたが………」

霧がかかってしまったような頭に、スチュワーデスのゆったりとした声が流れ込み、
御影はゆっくりと現実世界に戻っていった。
もう一度だけ目を閉じると、スチュワーデスはまた眠ってしまうのかと思って戸惑っ
たが、御影はそのままゆっくりと立ち上がった。
ほっとしたスチュワーデスは笑顔でかるく会釈をすると、元の仕事場へと戻っていっ
てしまった。
御影は上からバッグを取り出すと、後ろに回してかつぎ、ゆっくりと誰もいない通路
を歩きだした。
もう飛行機に客は誰もいなかった。
静かになってしまった通路をゆっくりとすすむ。
視界の下をかすむ外の光景が、小さい窓によってコマ送りのフィルムのようにその角
度を変えていく。翼をこえ、ゆっくりと先頭の出入口につくと、作業をしていたスチ
ュワーデスが気づいたように道を開け、深くおじぎをして送ってくれた。
その顔に、微妙な笑顔を秘めて………。
ちょっと気になったがそのまま進むと、出口付近のスチュワーデスまで同じ表情を浮
かべていた。笑み以上の、もっと親しみのこもった笑顔。
それに、通り過ぎたスチュワーデスが後ろで笑っているではないか……。
御影はわけが解らず、自分を一度だけ見直し、おかしなところがないことを確かめる
と、戸惑いながらもスチュワーデスの間を抜け、出口の前にたった。

涼しい風が御影に吹きかける。

そして、見たものは………………人、人、人………人の山。

ここからビルまで100m。その半分近くの距離が知っている人たちだけで埋め尽く
されていた。そして、ビルのてっぺんから垂れ幕が………。


「 御影、おかえり 」


人の群れの中から誰か一人、飛び出した。
御影に向かって一直線に走ってくるその人は…………綾だった。
長い髪をゆらし、そして、泣いていた。
「御影さぁーん!」
御影は信じられない物を見るような心持ちがした。
「綾……………」
綾に続いて、決壊したダムのように、一人、また一人と走ってくる。
沖が、一条が、沙羅が、斉藤が、槙が、美那が、菜緒が…………。
それに、もう卒業してしまったOBの先輩達が……。
一人、中央の車のてっぺんから手を振る人を見かけた。
御影と同じようながっしりとした体、優しい瞳を持つ男……………榊。
目と目が合うと、「よく帰ってきたな」と彼の瞳が語りかけているような気がした。
視界に、そして頭の中に、イメージが広がる。
そして、胸が熱くなるほどの郷愁−−−−。
スチュワーデスがなぜ笑っていたのかが解り、そして、御影は笑みを浮かべた。
案外、ここが自分の本当の故郷なのかもしれないと思いながら…………。

そして御影は、階段を駆け下りていった。


                               END


タイトルバック

 御影と綾が抱き合う。
 それを、みんなが取り巻いていく。
 人の波にもまれながら、自分よりも大事な綾が腕の中で泣いている。
 体のなかが、熱くなっていく。






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