AWC CAMPUS> 解説集  その八 -2   ■ 榊 ■ (49


        
#841/3137 空中分解2
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CAMPUS> 解説集  その八 -2   ■ 榊 ■  (49
★内容


   「関係の無い者は、国に帰るがいい……」
   男は、それだけを呟き、また沈黙してしまった。
   御影の頬に、暑さのためではない汗が流れ落ちる。
   「父さん………」
   御影が呟いた一言にも、しかし、相手の気配は揺らぎもしなかった。
   「………国に帰れ。今ならまだ、帰れる」
   彼は父親であることを認めなかった。だが、その空白の中で、彼を無事に帰そ
  うとしている気持ちが伝わってきた。
   御影はあきらめるしかなかった。

   御影は案内された裏口からそっと逃げ出した。
   時期がくれば再び会えるだろうし、彼もいつかは軍人でいられない日がくるだ
  ろう。
   その時………その時がくれば必ず、二人でゆっくりと話す機会があるはずだ。
   そうすれば、きっと………。
   御影は、疲労困憊した体を引きずりながら、霧のかかった頭でそう強く思った。
   きっと………必ず。
   不意に、太陽が出現したかと思うほどの光が、御影の後ろで溢れた。
   御影は振り返った。
   森が燃え尽きるほどの炎。
   苦しみを訴える叫び声。
   空を駆け抜ける轟音。

   「爆撃機−−−−!!」

   村に向かって、走りだす。
   炎が乗り移ることを許さぬほどの早さで森を駆け抜け、村の広場に躍りでた。
   その真ん中に見たものは、銃で撃ち抜かれた彼の姿だった。
   御影は彼を抱きかかえ、天に向かって吠えた。
   父を奪った爆撃機よ、滅びろ!
   火よ、全てを焼き付くすがいい!
   御影の叫びはいつ果てるとも知れなかった。
   ………火の中に一色崩れ落ちるかと思われた御影は、しかし味方の兵によって
  彼と引き裂かれ、ほとんど意識の無いなかヘリへと運び込まれた。


   ヘリのなか、御影は一言も口を開かなかった。………いや、開くこともできな
  かった。
   ただじっと、体まで暑くするようなうっそうとした森を、火を上げ続ける村を、
  見つめ続けるのだった。
   そんな御影に声をかけられる兵士はいない。
   いつしか、御影は自らの意識の中に埋没し、気を失った。


   ヘリはやがて出発した空港に着陸した。
   御影はその地に降り立った。いまだ、戦場の臭いをそのままにとどめながら。
   すると、最初に彼を現地まで送ることを支援してくれたこの地の代表者が、喜
  びの態度を示しながら近寄ってきた。御影の父親は、こちら側にとってガンであ
  り、それが取り除けたことが今世紀最大の収穫だといわんばかりである。
   御影には、そんなことはどうでも良かった。父親の死を喜ぶことには腹がたつ
  が、いまの御影にはそれさえもどうでも良くなっていた。
   だが、一つだけ彼の耳を通り抜けられぬ事実があった。
   「あなたの服に仕込んで置いた通信機のおかげで、あいつを殺ることができま
  したよ。私の部下も何度か役にたったことでしょう?」
   彼は自慢げにそう言った。
   御影は足を止め、振り向いた。
   何度か助けてくれた兵士は、この男の差し金か……………そして、的確に村を
  襲撃できたのは、この俺が利用されたためかっ!
   自分が、国家の野望のための餌になったことに気付いた御影は、傍らの銃を引
  き抜いた。
   やっとのことに御影の変化に気付いた男は、顔を引きつらせた。
   御影は男の頭に銃をあて、引き絞る。
   その体中から発する怒りのために、誰も動くことはできなかった。
   御影のただならぬ気迫に、男の顔から汗が、滝のように流れ落ちる。
   こんな男のためにっ!
   御影は、トリガーを引いたっ!

   ドギューーーンッ!

   銃声が空を切る。
   そして、あたりに静寂が広がる。
   頭の毛を焦がしただけの男は腰を抜かし、その場にへたりこんだ。
   御影は銃を中にしまうと、元のように向き直り、歩きだした。
   二度と振り返ること無く。


   第五章 Home

   全ての客が降り、たった一人になった旅客機の中で、御影は一人たたずんでい
  た。
   御影が抱きかかえ叫んだとき、父はまだ生きていた。
   彼は、自分が確かに彼の父であることを認めた。
   事実が解り、思わず息を止めた御影に、父はさらに「おまえには、まだ母と弟
  がいる」と呟いた。
   俺に母親と弟が………。
   頭が錯乱する中、父は最後の頼みを御影に託す。すなわち、俺を殺してくれと。
   もう、命もそう長くない。できることなら、敵の手にかからずに死にたい。そ
  れが父の最初で最後の願いであった。
   御影は無意識の中、トリガーを引いてしまった………。
   父の顔が、脳裏に焼け付いている。
   そして、それ以上に、あの熱気に満ちた、何故か御影には心地よいほどの森が、
  視界一杯に広がる。
   まるで、そこが生まれ故郷であるかのように………。
   そして、まだ見ぬ母と弟の姿が浮かび上がる。
   御影には、安息の地が必要だった。
   彼の故郷となるのは、母や弟のところなのだろうか、それとも、あの父の眠る
  森なのだろうか………。

   御影は、スチュワーデスに促されて旅客機から降りる。

   そして、そこに見たものは………辺りをうめつくすほどの人、人、人……人の
  山だった。
   そこには、綾がいる、榊がいる、沙羅が、斉藤が、一条が………そして、他に
  も沢山の人が。
   そこで、御影はふと微笑を浮かべ、思った。
   ここが、自分の故郷なのかも知れないと……。
   久しぶりの笑顔が戻った御影は、タラップを駆け降りて行った。
   みんなの元に、飛び込むように………。

                            END

   そして、最後は映画のようにタイトルバックが流れる中、御影が綾に抱きつく
  シーンに続く。
   それを、みんなが取り巻いていく。
   笑顔があり、泣き顔があり、優しく見守る顔がある………。
   そして、御影はふと空を見上げる。
   そこには、母と弟と、そして父の姿が浮かび上がる。
   やがて画面は空の青さが一杯に広がり、………フェードアウト。



   これが、 Campus City IV 「FARTHER」 です。






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