AWC CAMPUS> 過去からのファイル 3-10 ■ 榊 ■ (41/75)


        
#833/3137 空中分解2
★タイトル (HHF     )  91/ 3/ 9  13:33  (154)
CAMPUS> 過去からのファイル 3-10 ■ 榊 ■  (41/75)
★内容


速度は100kmを越え、風はぶつかって来る様に吹いてくる。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
夜の山に、不気味な斉藤の笑い声が響く。

街道をそれた林の中。
菜緒が両の手を顔にあて、泣いて立っている。
その横で、腕組をした榊と美那に見すえられ、小じんまりと斉藤は立っている。
しばらく続くこの状態の中、近くでふくろうが鳴いていた。
「ホ−−−、ホ−−−」

「まあ、しょうがない。作戦に移るぞ」
榊が暗い林の中で座ると、みんなもその場に座った。
それを確認すると、榊は地図を胸から取り出し、みんなの前に広げた。
バイクのライトに照らされ、地図の内容が解るようになる。
「最終目標は、ここの責任者に文字どおり責任を取ってもらう事。おそらくここの部
屋にいるが、行動中の間にこちらに逃げるだろうから、最終的にここにたどり着く道
を取る」
「榊ぃー。質問」
「なんだ」
「なんで、そんなことが解る。どこ移動するかなんて、その場の気持ちだろ」
榊は斉藤の目の前で指を振ってみせる。
「チッ、チツ、チッ。甘い。作戦の心髄は、相手がど行動するか先を読むことにある。
この場合、こちらの方が安全だし、緊急の場合、そこに行くことになっているらしい。
確率は9割以上だ。俺を信用しろ。いいか? それじゃあ、作戦の説明をする」
榊は地図の端を指さし、斉藤の顔を見た。
「斉藤はここから侵入しろ。厚さ5cmのコンクリートの壁だが……。侵入できるだ
ろ? その後、この道を、こう通って、こちらの方に行ってくれ。最終的な場所はさ
っき言ったように、ここ。歩くよりちょっと遅い程度で、3時50分頃着くはずだ。
3時50分という時間を気にして、ペースを考えてくれ」
今度は美那と菜緒の方を向く。
「美那と菜緒は一緒に行動してくれ。侵入場所はここ。斉藤と逆だ。こちらは金網だ
そうだが、問題はないな。そして、侵入経路はこう…………そして、ここにたどり着
く。時間も同じ3時50分。解った?」
美那と菜緒がうなずくのを見て、榊は言葉を続けた。
「STARTは3時35分…………一応、陽動作戦だからおもいっきり暴れてくれ。
そして、俺は敵が陽動作戦と気付かないうちに、手薄になった正面から侵入して、証
拠を盗んで行く。同じ頃、そちらに行けると思うから…………それと、菜緒、美那」
菜緒と美那が地図から目を離し、榊の方を見ると、榊は真剣な顔で言った。
「行くまでの間に、責任者をどうしたいか決めといてくれ。殺したかったら…………
殺してもいいぞ。後の処置は何とかする」
榊の最後の“殺してもいいぞ”の所で、美那は思わず息を飲んだ。
本気だと言うことは声で解る。
「作戦の説明は以上だ。何か質問は?…………。ないな。それじゃあ、各自、配置に
着け」
「りょーかい」「解りました」「行ってきまーす☆」
各自、一言残して、暗黒の森へ走って行った。
残った榊は、みんなが見えなくなるのを確認するとその場に寝ころび、しばらく空の
星を眺めた。
星はいつもと変わらずに輝いている。
榊達が何をやっていようと。
「………いつも、変わらないな………」
榊はしばらく現実を忘れた。


ACT 7

ノクトビジョンになっているスクリーンの右端に、デジタルで現在の時間が表されて
いた。
金網の前に立っている美那と菜緒は、それぞれパワードスーツに身を固めながら、デ
ジタルの時計の数字を見ていた。
分の所が34から35に変わる。
作戦開始−−−
「いくわよ。菜緒」
「うん」
赤の美那は軽くその場に沈み込み、いきよい良くジャンプした。
2mほどジャンプし、てっぺんの網に片手をひょいっと掛け、その金網を台にして、
そのまま又、飛び上がる。
美那は柵を越え、反対側の草地に音もなく降り立つ。
すっくと立ち上がり、菜緒はどうしたか後ろを振り返った。
「おねーちゃん、器用ぉー」
菜緒は腰に手を当て、面倒くさそうに金網を見、軽く息をつく。
やがてゆっくり歩き出すと、金網をがっしりつかんだ。
「まさか………」
美那の頬に汗が流れる。
「よいしょ!」
菜緒は、手に力を込め始めると、金網はいとも簡単に引き裂かれていった。
金網が音をたてて曲がっていき、穴が開いていく。
「何やってのよー」
美那が愚痴のように言うと、菜緒はふくれたように返した。
「だって、陽動作戦なんでしょ? いいじゃない」
「いいけどね……。さあ、いくわよ」
美那が建物に向かって走り出すと、菜緒も追いかけて行った。

斉藤は箱にしまっていた試験管の束を取り出し、取り出し易いようにしまっていた。
一通り済むと大体時間になっていた。
斉藤は時計を見、35分になっている事を確認すると、ふところから試験管を一本取
り出した。
灰色の液体が、重そうに揺れる。
斉藤は楽しげに試験管のコルクの蓋を抜くと、試験管を右手に持った。
そして、ゆっくりコンクリートの壁に向かって行く。
1mぐらい前で立ち止まる。
そして、試験管の中身をコンクリートにぶっかけた。
灰色の液体は横一線に広がり、壁に一の文字を書く。
途端にその部分だけ赤くなったと思うと、その赤い線は段々下に動き始めた。
そして、その赤い線の通った後には何も残らず、中の草地が望めた。
徐々にその穴は大きくなり、赤い線は地上に着くと、途端にその色を無くし、どこか
に消えてしまった。
そしてそこに、人が通れるほどの穴がぽかりと出来上がった。
斉藤はそれを眺めながら一言。
「もっと、濃度を強くした方がいいな…………この程度の物で3秒もかかるんじゃな
……」

「ここね、侵入場所は」
美那が4階の建物の壁をこんこん叩きながら言うと、スクリーンにさっき見た地図が
映し出され、そこで正しいことを告げた。
「よし」
美那はこんこんやっていた手を振り被り、コンクリートの壁をぶっ叩く。
「はっ!」
気合いの声と共に、美那の拳がコンクリートの壁にのめり込む。
ぶっ叩いた所を中心に、コンクリートの壁には放射線状にひびが延びていった。
菜緒はそのひびを伝って行って見た。
菜緒の視線はどんどん上がっいき、とうとうてっぺんにたどり着いた。
それと同時に壁は崩れ落ち、ひびの入っていた4階までの全ての壁が崩れ落ちた。
土砂が崩れるような音と共に、コンクリートのかけらが落ちてくる。
一際大きい音をたて、全てのかけらが地上に落ちた。
その土所の中、平然と立っている美那と菜緒は壁のない建物を眺めた。
それぞれの階から光りが洩れ、中の様子がはっきり見える。
菜緒はじっと美那の方を見た。
美那はその菜緒の視線を逃れるように視線を移し、頭を掻いた。
「ちょっと、強かったわね」

「南館と北館の一階でそれぞれ侵入者発見。警備員はただちに集まって下さい」
うるさい程のベルとけたましい足音の中、女性のインカムが入った。
慌ただしく人が行きかうなか、人の波をかき割って警備員が走って行く。
西館の第四階。
大きなフロアの一室。
ドア一枚を通して、中は静かだった。
中からは、外の足音がいやに遠くに聞こえる。
その騒ぎに初めて気が付いたように、白衣を着た男は顔を上げた。
しばらく、顔を上げたままドアの外の音を聞いていた。
そして、ねずみの入ったガラスケースを右手で叩くと、叫んだ。
「安田!」
すると、部屋の隅の天井にあったテレビが何かを映し出した。
警備員らしき、体の大きな男がテレビに現れた。
軽く一礼すると、安田という男が話だした。
「すいません。社長。侵入者です」
社長と呼ばれた男の眉が微かに上がる。
「誰だ?」
「斉藤です」
「何!? なぜ奴が………」
「解りません。それと、二つの武装した−−たぶん人だと思います−−が同時に侵入
しています」
「? 二つ? ……映像をこちらに送れんか?」
「いまやってみます」
テレビの男はそう言うと、何か下を向き、手を動かしだした。
すると、画面は変わり、煙の立ちこめる南館の一角を映し出した。
撤退しながら、軽銃で威嚇している警備員が見えるが、すぐに逃げ、しばらく煙だけ
が画面に映る。
数秒後、赤のパワードスーツに身をまとめた美那が映る。
美那は左手で壁を砕き、そのかけらを拾うと、ぴんと弾いた。






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