AWC CAMPUS> 過去からのファイル 2-2 ■ 榊 ■ (31/75)


        
#823/3137 空中分解2
★タイトル (HHF     )  91/ 3/ 9  10:23  (127)
CAMPUS> 過去からのファイル 2-2  ■ 榊 ■  (31/75)
★内容


こからは見えないところに連れられてしまった。
ゆうは心配そうにお父さんの裾を引っ張った。
お父さんはゆうに気づき、持ち上げ、だっこした。
お父さんの黒い顎髭がゆうの頬にあたった。
「ゆう、心配しなくても大丈夫だ。お前だけは絶対にお父さんが守ってやるよ」
ゆうもお父さんの首に抱きついた。
その時、銃の音が響いた。
しかも、お母さんが消えた方向から。
お父さんの表情が変わった。
「まさか…………」
お父さんは、ゆうを抱えたまま、走りだした。
「おい、こら! 動くな!」
しかし、それぐらいでお父さんが止まるはずがなかった。
脱兎のごとく走りだしたお父さんは、一直線にお母さんの消えた路地に入って行った。
そして、路地を曲がる。
そこで、お父さんは止まった。
ゆうも顔をあげて見た。
そこは、おそらく死刑場だったのだろう。
かなり広い広場いっぱいに、死体が転がっていた。
まだ、新しいのもあれば、腐りきった頭蓋骨も転がっていた。
腐敗臭が広がり、鼻をつんざく。
そのまん中に、崩れかけていたお母さんがいた。
「かすみーーーー!!」
お父さんは大声を出して、お母さんの方に走り寄った。
いくつも死体を蹴り散らし、走りきった。
お母さんはスローモーションでこちらを向き、一瞬笑ったかと思うと、そのまま倒れ
た。
「かすみーー!」
お父さんはお母さんの前で止まり、ゆうを降ろした。
そして、崩れるように足を折った。
「か……す……み……」
お父さんは膝の上で握り拳をつくり、大粒の涙をこぼした。
初めて流した涙だった。
その時、ゆうはただつっ立っているだけだった。
−−− 何も悪いことをしてないお母さんが殺されるはずない!
−−− あんな幸せそうなお母さんが死ぬはずない!
ゆうの頭の中でいろいろなことが駆け巡り、混乱していたのだ。
ただ、お母さんはゆうの目の前で死んだ。
「くそーーー!」
お父さんは立ち上がり、お母さんを殺した二人に走って行った。
「くそーーー! この野郎!」
しかし、お父さんが走りよるより先に二人の銃が火を吹いた。
広場に高い爆発音が響いた。
ゆうが振り向いたとき、倒れかけたお父さんに銃の弾が連発で突き刺さった。
倒れることなく、一歩一歩さがる。
ゆうはその時はっきり見た。
男達の笑っている顔を。
男達は、殺しを楽しんでいたのだ。
銃の音が止まると、その数秒後、お父さんの倒れる音がした。
ゆうは意識を取り戻し、お母さんの上に覆いかぶさる様に倒れているお父さんを見た。
ぴくりとも動かないお父さんを見たゆうは、走り寄ることもできずに膝を折った。
ゆうの目から涙がこぼれた。
お父さんとお母さんの姿がぼやけて見えた。
大声を出して泣きたかった。
全ての物を忘れるぐらい、大声で泣きたかった。
しかし、いくら悲しくても声はでなかった。
何か喉に蓋でもあるかのように出なかった。
それが、また悔しくて涙が出る。
後ろにいた男二人はゆうの方に歩み寄り、すぐ近くに立ち、ゆうに銃を向けた。
その顔はさっきと同じく、笑っていた。
ゆうは顔をあげ、空を見上げた。
−−− 涙なんかでなくてもいい! ただ、みんなに知らせる声を出したい!
涙を止めるように、きつく目を閉じ、歯を食いしばった。
そして、喉に使えているものを取り除くかのように、空気を漏らした。
「ぅっ……ぅっ」
思いが通じたのか、小さい、小さい声が口から洩れた。
男は引金に手をかけた。
その時、ゆうの何かが弾けた。
喉にあったような、心にあったような何かが弾けた。

「うわぁ−−−−−−−−−ん!!!」

声が出た。
その声と同時に、ゆうを中心とした放射線状に、あった物全てが消えていった。
まず、男達が。
そして、草木が。
死体が、家屋が、車が、人が、武器が。
全てが、消えていった。
その様子は、さながら原爆を落とした後の様子を、ゆっくりにして見ているようだっ
た。
その放射線状の波の早さは、時速50km/hぐらいだった。
だか、町を飲み込むのに、一分とかからなかった。
その間、ゆうの声は止まらなかった。
その声はいつしか地と同調し、風と同調した。
地も風も彼女の声に合わせるように揺れた。
風が吹き荒れ、地が揺れた。
放射線状に延びる見えない波は、全ての物を消しさった。
町が消えてもなお、ゆうの声はやまなかった。
何もない慌野に、ゆうの悲しい泣き声だけが響いた。

「こちら、CZ−1。こちら、CZ−1。今のところ、異常なしだ」
「ザザー、……ピッー。了解」
救助及び、調査のため出されたヘリの中の男は、何もない大地を見おろした。
「ひえー、ほんとにねぇーなー。いったい、なに落としたんだ」
横の席の男は双眼鏡をゆっくり動かした。
「うわさじゃー、USAのミサイルらしいが、誰もその姿を見てねぇーつぅしな……
……」
「きわもんだなー」
「…………おい、なにかあるぜ」
「なに! どこだ」
「南西の方向」
男はスティックを回し、進路をかえ、下降しだした。
「ほんとだ、なにかいるぜ…………」
「二人、いや、三人だ」
助手席の男はマイクをひっつかんだ。
「こちら、CZ−1、CZ−1。人を発見。数は3。救助に向かいます」
「……ピッー……了解」

ゆうは、しゃくりあげながらも、なにか音のする空を見上げた。
白い雲と重なっていた黒い点は、やがてヘリと解るぐらいまで近寄ってきた。
空にローラーの軽い、風を切る音が響いた。
やがて、二つの死体の前で泣いているゆうの近くに、砂煙を立ててヘリがゆっくり降
りてきた。
ゆうの殺伐とした心にも、そのローターの音がしみる様に響いた。


 私の夢は、お母さんのようにきれいな声で歌い、お父さんのような写真をとること
なんです。

 いつの日か…………


                                                    FIN






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