#751/3137 空中分解2
★タイトル (NZB ) 91/ 1/31 16:21 ( 51)
空手猫物語 (最終章の1) 流
★内容
青年は古本屋でバイトをしていた。そこである一冊の
本を手に取った、大薮春彦著「汚れた英雄」
「よごれたひでお」・・か?ページをめくってまちが
いに気がついた、よごれたえいゆう・・・おもしろそう
だな、文庫で全4冊、バイトしながら一気に読み切って
しまった青年の心には眠っていた野獣の血が蘇りかけた。
バイトを定時に終え、青年は50CCバイクにまたが
り、キーを入れ、セルを回した。キュルルル・・スコン、エンスト
か?いやガソリンタンクを見るとリザーブのままで走っ
ていたことに気付く、
「ふっ、俺としたことが」青年は夜空を見上げた。
アノコォードコニイルノヤラー・・ホシゾラノツヅクゥ・・イツキヒロシガアルイテル
そこには見えるはずのない死兆星が見えた。「とうとう
来たか」ジャンパーの内ポケットからキャメルを一本、
取りだし、口にくわえた。シュポ!ジッポーの炎が闇
にほのかに輝いた。
青年はバイクを置いたまま裏通りに向かった。
千船町通りを東に抜け・・四国八十八ヶ所の札所である
石手寺へ・・どれくらい歩いたろうか?やがて、一人の
お遍路さんとすれ違った。年老いた老婆である。
石手寺の参道を左に折れるとそこは、野良猫たちの
たまり場だ。ここは捨て猫の多いところでもある。露店
の人々が世話をしているので、気安く捨てるのだろう。
青年はその猫たちの中でもひときわ高い所に座っている
隻眼の老猫の前で立ち止まってつぶやいた。
「老師、お別れを告げに来ました。もう、いりこの差し
入れもこれで最期になるかもしれません。」
隻眼の猫は軽くしっぽを振り、いりこを母猫たちに分け
与えた。
「言うな、わしがお前の小さい時に、空手道入門書を口に
くわえて運んだのを覚えておろう?その時にお前の運命は、
決まってしもうたのじゃ・・」
「そうだったのですか・・、私の父は空手などする人では
なかったから・・なぜ、あの本が本棚にあったのか不思議
でした。」
「あのとき、本を手に取らなければ・・こんな修羅の道を
進まなくても良かったのじゃ・・しかし、お前は手に取った
わしのこの隻眼に狂いはなかったのじゃ」
「命を粗末にするでないぞ、流!」
流と呼ばれた青年は歩きだした、鬼の棲む修羅の中へと・・・