AWC フロレアルの風(2章−4) 二羽岡 和彦


        
#703/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/11/15  19:49  (117)
      フロレアルの風(2章−4)    二羽岡 和彦
★内容

「ルーン、といったね、君」
  何も答えず、そのまま出ていこうとする少年を、レキシスが呼び止めた。「
君はさっきこの国を出ると言った、が、しかし、国どころかトローヴを抜ける
ことさえままならないのではないかね?」
  トローヴというのは、カレーナ国南部十二の街を囲む石造りの街壁で、その
高さはおよそ三テュール(三・七メートル)。通用門が合計九つあるが、一般
市民は、通商以外でこのトローヴを越えることはほとんど許されていない。許
可なしにこれを越えたものは、悪名高き南部地区条例<ローヴァス・ノルムス>
により、例外なしに斬首刑に処せられるのだ。
  そしてさらに国境には、デュノ・トローヴ(高さ九・五テュール)がまさに
居丈高にそびえ立ち、その通用門はわずかに五つを数えるのみである。
  市民はまさにこのトローヴという檻の中で飼われている、限りなく無力な家
畜なのである。
「それとも」
  と、レキシスは言った、「トローヴを抜けるのに許可を取る必要のない、そ
ういう身分なのかな、君は?」
  この言葉に、皆ははっとなった。
  思ってもみなかったことだ。だが、ありえないことでもなかった−−この少
年が、貴族であるということが。
「違うよ」
  しかし誰かが口を開くより先に、ルーンが言った。「言わせてもらうのなら、
おれがいちばん憎んでいるものは貴族であるといってもいい」
「それを信じろと言うのか」
「無理だね、こいつは嘘を言ってる、それに貴族でないにしてもおれたちのこ
とを貴族に知らせに行くだろうぜ、奴ならよ」
「違うわ!」
 ロミナは叫んだ、「あの人はそんな人じゃない」
「ロミナ、おまえ! そんな奴を信用するんじゃないっ」
  シオは叫び、これをレキシスがなだめる。
  もはや事態の収拾はつかず、険悪な雰囲気が漂った。
「こいつをこのまま外に出すのはまずいぜ」
「ああ。ほうっておく訳にはいくまい」
  誰かがそうささやき合った。
「皆、待ってくれ……」
  と、そのときヴァンが言った。その声は悲痛で、震えていた。
「頼む。聞いてくれ。ルーンはそんな皆が思っているような人間では決してな
い、分かってくれ。それにこんな子供をどうしようというのだ。監禁しておく
のか、それとも殺めようとでもいうのか?  この少年のことは、わしにまかせ
てほしい。もしも何か問題が起こったら、その責任はこのわしがすべて取る。
取り返しのつかないことになろうとも……それはすべて、このヴァントーダイ
スの責任だ、そのときはわしを恨め、墓場からでも、どこからでもな。また、
そのときの覚悟もできている。
 ただ、これだけは分かってほしい、わしはルーンを信じてるし、ルーンにも
何か訳があるのだろう、言いたくないことは聞かない、それでもいいとわしは
思っている。皆もどうか信じてやってくれ……」
  このヴァンの言葉に、皆それぞれ口をつぐみ、反論こそしなかったが、その
思いは複雑だった。
  少年を受け入れるものの、心のどこかにひそむ猜疑心。
  どうしても少年を受け入れる気にはならず、ヴァンに対して抱く不信感。
 そのどちらにしても、あまりいいものでもなかった。
(なぜヴァンはあんな少年を連れてきたんだ……)
  シオは深い溜息をついた。なぜか女神に裏切られたような気がした。
(なぜこんなことになってしまったの……どうして……)
  ロミナの心は悲しみで痛むのだった。それでもルーンの姿を目で追ったが、
すでにもうここにはいなかった。そのことがよりいっそう、少女を悲しくさせ
た。
「もういい……分かった」
  と、シオが言った、「ヴァンがそれほどまで言うのなら、皆、あの少年はヴ
ァンにまかせよう。……これは命令だ。
 ……今日はこれで解散だ。言うことだけは言ったと思う……皆、帰ってもい
い。まだ仕事があるのだろう……解散だ」
  こうして、第二回目の集会は不穏のうちに終わりを告げた。
  まさにそれは、これからの人々の行く末を暗示するかのようでもあった。
 この日ユリウス歴一六七二年草月<プレリアル>一日−−革命勃発の日を迎
えるには、まだ幾月もの月日が必要であった。

                                          (3章−1へ)

      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      はい。(だいぶ)余ったのでコメント<その2>です。
    「(やっと)ここまで来ました。しかしあれは、思えば不幸な事故
   でした。あ、いえ。
    実はここから先、つまり3章以降が、本当のはじまりです。ここ
   から書けばよかったんだけど、そうなれば、ここまでの状況設定を
   くどくど説明しなければならないし、ぼくはずっとまんがのほうを
   やっていたので、そういう状況設定をくどくどと説明するのには、
   すごく抵抗があるのです。1500オームくらい。
    ちなみに、まんが描きにとって、台詞の中に(つまり字を使って)
   状況設定をくどくどならべるのは、とても恥ずかしい行為なんです。
    たとえば、二太郎という名前の目の悪い高校生がいるとします。
   これを端的に説明するとき、ふつうでは制服の絵と眼鏡を描けばそ
   れでいいのですが、『あ、二太郎だ』、『あいつおれと同じ高校な
   んだぜ』、『あいつ目が悪いからな』と、他の人にしゃべらすと、
   はっきり言って馬鹿です。だから、こういうことには気を使います。
   さりげなく説明しなければならないのです。でもその点、文章なら
   さきに描いたとおりです。
    話がそれましたが、えっと、要するに言い訳です。
    ぼくとしては新しいことをするつもりで、ものを書くということ
   をしてみました。言ってしまうと、これがはじめての長編です。い
   きなり無謀なことをしてしまったのかもしれませんが。
     でも、けっこうイイです。まんがにはまんがの、文には文のいい
   ところがあります。(付け加えるならば、アニメにも)
     すでに知っていると思うけど、話が長くなりますが、例えばとて
   も美しい女性がいるとします。(まんがや絵の)作者はその女性を
   美しく描くでしょう。(ちなみに知っていると何かとおもしろいで
   すけど、だいたいにおいてその人の理想の女性を描く傾向がありま
   す。そうでないときもありますが)  しかしそれが読者にとってか
   ならずしも美しい人と思わせるものでないことがあります。ここに
   すこし、ミゾができるわけです。しかし、もし、ここで文(字、言
   葉)にして、絶世の美女、と書くと、読者は自分で美しい女性を(
   勝手に)想像してくれることでしょう。作者はたすかります。しか
   し、一方で、もし、壮大な景色を表すとき、それを(何とかがんば
   って)絵にすると、読者は一目で分かってくれます、感じ取ってく
   れます。しかし、文となると、今度は逐一説明しなければならない
   のです。作者の思っている景色が読者に伝わらないことも多々ある
   でしょう。
     で、何が言いたいかというと、言い訳です。
     いやあ、何のかんので、たいそうなことを言ってしまったが(そ
   うでないと言われるかもしれないが)、だいぶスペースが埋まった
   と思います。え? なに? べつに埋めなくてもいいっていうの?
    じゃ、そういうことで。
    P.S.このコメントに関する感想を聞きたいです。よろしくお
   願いします。レポート用紙5万枚以内にまとめて送ってもらえれば
   さいわいです。では。

                                          和彦




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE