#684/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ ) 90/10/19 6:12 ( 77)
「恋文の書き方教えます」2/2 浮雲
★内容
「俺は、こう思う」
突然、三木が改まった口調で言った。
「彼女、さつきちゃんは<隙のない人は嫌い>というタイブかもしんない」
「うむ」
福田が、せい一杯しかめっ面をしながら応じた。
「ん?」
一人、田中だけがおいてけぼりを喰わされた格好である。
三木が続けた。
「<たとえ日本がどんなになっても、世界がいや地球が滅びようとも、僕はあな
たを守って上げます>
ぐらいのこと言えないのか。何がト−フだ!、と言うのは俺ら凡人の考え方だ」
「むっ。違いねえ」
「よく考えてみると、笑われていいのは俺らの方かも知れない」
「うん、俺もそう思う」
妙に二人の息がぴったり合っている。田中は、首をひねるばかりである。
「二、三箇所誤字があったように思うが、それもさつきちゃんにとっては<愛す
べきこと>なのかも知れない」
三木の話し方はだんだんしんみりしたものになっていった。
「他にもいろいろあやしいところがあるが、すべては田中と彼女の問題だ。俺ら
が口をはさむ筋合いなどない」
どうも様子がおかしい。そして、しばしの沈黙。息苦しさに耐えられなくなっ
た田中が口を開こうとした時だった。
「その相手の”さつき”ってのは、どこの誰だい」
福田が眼を細目ながら聞いた。田中の顔がぱっと明るくなった。
「あん、しってるかなあ。ほら、犬飼さつき」
「なにっ、犬飼」
「だめだ、だめだ。あいつだけは止せ」
聞くなり福田と三木は、大げさに手を振った。あまりの剣幕に田中はしばらく
ポケっと口を開いたままであった。
「あの女は、だめだよ」
「ど、どうしてさ。なんだよ、恐い顔して」
「いいかあ、あの女はね、」
「よせ、福田。やめとけ」
何を思ったのか、突然三木が福田に待ったをかけた。
「なんだよ、福田。続けろよ」
「ああ、もういいんだ。悪るかったな」
三木が福田に目配せをしたのを、田中は気づかなかった。
「へっ、なあんだ二人とも焼き餅か。いやだ、いやだ。これだぁ、もてない奴ら
は。なんだい、友達なら応援してくれるのが当り前だろうによ。いいよ、もう」
田中は言いたいだけのことを言うと、手紙を両手で包みこむようにそっと持っ
て立ち上がった。
「どうした」
福田が声をかけたが、田中は返事もせず部屋の方に歩いて行った。肩を落とし
た後ろ姿はいかにも寂しそうに見えた。
「ちょっと薬が効き過ぎたかな」
「ああ、本気だったのかなあ」
「まさか、と思うけんど」
「福田さあん、三木さあん。食事ですよ。あらっ、田中さんは」
皆楽園の女性ヘルパ−が、手をたたきながらリフレッシュル−ムに入ってきた。
「部屋に行ったよ」
福田が顎をしゃくった。
「また、三人で何か悪企みでもたくらんでいたんでしょう。困ったお爺さんたち
ねえ。三人とも80歳に近いんですよ。ここでは先輩なんだから他の方達に優し
くして上げなくちゃね」
「何言ってんだい。こっちが優しくしてもらいたい方だよ」
ほんと三木は達者である。
「はい、はい」
年寄りにはかなわないわね、などと口の中でブツブツ言いながら若いヘルパ−
は、田中を呼びに小走りにかけて行った。その娘のふっくらしたお尻が左右に搖
れるのを福田と三木は眼を細めて見送った。
それから数日後、ホ−ムの裏山で田中が洋服のポケットに宛名の書いてないぶ
厚い封筒を入れたまま首を吊って死んでいるのが発見された。
それを聞いた時、福田と三木はその封筒の中味がなんであるかをすぐに悟った。
「おい、三木よ。あの手紙だけんどよ。警察で調べるんだべな」
「もちろんさ」
「だとすると・・・」
「読んだ奴はなんと思うだろうね」
「ああ、あ・・・」
「ふふふ、」
「あ、あははは」
「くっくっくっく」
二人は、どうしても笑いをこらえることが出来なかった。
おしまい
1990.10.18