AWC 「恋文の書き方教えます」1/2    浮雲


        
#683/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ     )  90/10/19   6:10  (189)
「恋文の書き方教えます」1/2    浮雲
★内容

 ある人はベルレ−ヌやハイネ、ボ−ドレ−ル、そしてリルケの詩を引用するか
も知れない。例えば、
「 あなたは未来だ。
  永遠の平野の上の偉大な日の出だ。
                      」(リルケ詩集より)
といった具合いに。
 またある人は次のような散文詩を引用するだろう。
「 ・・・
  夜の闇の中にうごめく
  黒いものたちよ
  わたしの魂をえぐりだし
  同じ暗黒の空の下にいる
  愛する人にそれをとどけてくれ。
                                           」(みちやすお散文詩集より)

 あるいは、半紙にびっしりと狂気じみた言葉をそれも50枚も書き連ねる者が
いるかも知れない。

 きっと、君はそれを速達で出すに違いない。想う人の住んでいるところが速達
配達区域外であっても。

恋文(ラブレタ−)とは、まさしくそういうものである。

「何これ」
 それを読んでいた福田が怒ったように言った。
「ん? だから・・・」
 言われた田中は、見れば分かるだろうと言う顔。
「だから、なんなんだ」
 やはり途中で放り出した三木が、俺もさっぱり分からんと言うように繰り返し
た。
「ラブレタ−」
 田中がポツリと言った。
「はぁ」
 やっぱり。福田と三木は、あきれたと言う具合いに顔を見合わせた。
「何がラブレタ−だ」
「このカンプラチンキ」
 二人の反応に田中は顔を歪めた。
「何もおまえら、そんな言い方しなくたって。友達だからと思ってせっかく見せ
たのに」
「見なきゃ良かったよ」
 福田は、自分の頭をコツンと一つ叩いた。
「これ、誰かに出すのか」
 三木が、いい子だから正直に言うんだよ、という具合いに聞いた。
「あん」
「あん」
 なんてこった。福田と三木はタメ息をついた。
「俺達に見せるくらいだから、これは下書きだべ」
 福田が、気を取り直して聞いた。
「ううん。このまま出す」
 田中は悪びれもせず答えた。

「何考えてんだおまえは」
 福田は、鼻の頭いっぱいにしわを寄せた。
「誰に出すのかは後で聞くとして、こんどは俺らの前で読んでみろや」
「そうかあ、へへへ、照れるなあ」
 どこまでトボケた奴だ。
「<こんにちは>
 ・・・これはいいべ」
「・・・」
「ええと、
 <元気ですか。僕も元気です>
 いいよな、これで」
「ああ」
「次」
「と、
 <風香る五月(さつき)と言いますが、本当に美しいです>
 彼女は゛さつき゛って言うんだ」
「田中よ。いま何月だ」
「10月」
「すっとこどっこい。なんで五月が出てくるんだよ」
「だって、彼女の名前をそれとなく。<美しいです>と言うのをさりげなく」
「何がさりげなく、だ。このトンカチ」
「まあ、そういちいちチャチャを入れるなよ、福田。最後まで聞こう」
 三木が割って入った。
「続けろよ」
「もういいよ。おまえ、なんだか怒ってるみたいだし」
 怒ってるんだよおまえのおめでたぶりに、と福田は大声で叫びたかったのをぐ
っとこらえて顎をしゃくった。
「ええと、
 <僕はきのう、カネヨデパ−トに行きました。四階の食堂でみそラ−メンを食
 べたあと、屋上に上がってみました>」
 福田と三木は、首をうなだれじっと黙ったままである。
「<僕はカネヨデパ−トの屋上から白頭山を見るのが大好きです>
 まだ続けるか」
 二人はうつむいたまま肩で合図を送った。
「<その時、女の人が三人ばかり屋上に上がってきました。三人とも知った顔で
 した。僕は、心象がとまるほどおどろきました。どうしてだかと言うと、その
 中にいつも僕の夢に出て来る人がいたからです>
 ・・・変かあ」
「いいよ」
 何がカネヨデパ−トだ、みそラ−メンだ。福田と三木は、あまりの情けなさに
涙が出そうであった。
「<僕は、思わず夢をみているのかと思いました。ところで、あなたは夢をみま
 すか。僕はあまりみません。あっ、あなたの夢はよくみます。夢って変ですね。
 ええと、変なのは夢であなたのことではありませんから>
 ここは良く書けてるべ」
「どこが」
「んだから、夢にまでみるほど好きだ、って言う気持ちがビンビン伝わるんでね
えが」
「田中。おまえ、本当に彼女が好きか」
「うっ、て照れるなあ」
「もういい。続けろ」
 聞いた俺がバカだった、三木は素直に反省した。
「二人でケチばっかりつけるから、調子くるったよ」
「じゃあ、やめるか」
「いいよ読むよ。じゃあ、いいか。
 <すれ違う時、僕が右手にソフトクリ−ムを持っていたのに気がつきましたか。
  あなたは、左手にマクドナルドのコ−ラを持っていましたね。ところで、こ
  の間の夜、あなたに真っ赤なダリヤをもらった夢をみました。それで、いま
  この手紙を書いている机の上に同じ真っ赤なダリヤを飾ってあります>」
「おい、田中。ハナコトバって知ってるか」
 三木である。
「花子とババアってなんだ」
「じゃないよ。花言葉」
「知んねえ」
「そうだろうなあ。・・・まあいいか」
「なんだよ、気色わるいな」
「いいからつづき」
「ああ、
 <僕は取絵はありません。でも一升けん命さでは誰にも貧けません。そしてい
 ま、僕は一升けん命です。>
 少し気どり過ぎでねえべかな」
「いいよ」
「<いま急に心蔵が苦しくなってきました。病気じゃありません。僕は小さい時
 から病気をしたことがありません。あなたはどうですか。体はじょう部なほう
 ですか。スポ−ツは何かやっていますか。僕はヘタですから野球は見るだけで
 す。ことしは臣人がひとり勝ちでつまらなかったです。あなたは臣人ファンで
 すか。だったら優勝おめでとうございます。>
 ・・・ふう」
「あとどのくらい続くんだ」
 福田が、うつむいたまま聞いた。ここまで読んで放り出したのだ。
「半分ぐらいかな」
「わかった。続けろ」

「くくく、こっからがいいんだよ」
「そうだろうよ」
「へへへ、読むよ。
 <どうして急に苦しくなったかというと、あなたのことを思ったからです。自
 分の気持ちをうまく書けなくて、それで心蔵がいたみ出したのです>
 へへへっ」
 こういう場合、どうしたらいいんだろう。正解は、黙って聞くしかない、であ
る。
「それからっ」
 三木が語気を荒げた。
「ふふふっ。
 <僕は口べたな上に、文字を書くのもにが手です。だから必ずつまらない事を
  書いてしまいます。うまく書こうとするといっそうつまらない、くだらない
  文になるのです。でもそれは、気持ちとまったく反対のことです。いま、少
  し上がっています。きん長しているのです。そんな時は、手のひらに相手の
  名前を書いてそれを飲み込んでしまうと良い、と聞きました>
 いひひひ、どうだ」
「けっ、手のひら嘗める前に、ツラでもなめな」
「さつきちゃんも気持ち悪いってよ」
 どうしても福田と三木は素直に聞いてやれないようである。田中はそんなこと
にはおかまいなしにへらへらした顔をいっそう崩した。
「<それで、あなたの名前を右手の人差指で左手の手のひらにさ・つ・き、と書
  いてみました。その時、どんなにくすぐったかったかを言い表すことが出来
  ないのがくやしいくらいです。僕は、僕は・・・>」
「なめたのか!」
 福田がびっくりする様な大声を上げた。三木も目を剥き「う−う−っ」と喉を
鳴らしている。驚いたのは田中である。二人の異様な迫力に思わず半身をのけぞ
らせた。
「ああ、いや・・・」
「続けろ」
「早く」
「<僕は、足の裏よりも手のひらの方がくすぐったいです。わきの下はあまり感
  じません。あなたはどうですか>」
「ドジ」
 そう言いながらも、福田と三木は何かほっとした思いであった。
「<もし人間が四つんばいで歩くようになったら、僕は手ぶくろでもしないと歩
  けないと思います。冬ならいいけど、夏はやっぱりはずかしいです。でも、
  あなただけは、そんな僕をみても笑わないと信じていいですか。夏と言えば
  あなたはあんまり色が白いので、天気の良い熱い日など僕は心配で心配でた
  まりませんでした。でも、あなたがそんなに色白なのは、人一倍心が清らか
  だからだと思います>
 どうだあ」
「むっ」
「<白いと言えば、あなたは絹ごしト−フと綿ごしのどちらが好きですか。僕は
  どちらも好きです。スキヤキに、湯ド−フに、そしてヒヤヤッコときたらバ
  ッチグ−ですね>」
「ちょっと待て。なんでこんなところに豆腐が出てくるんだよ」
 福田である。
「だから、ト−フは白い」
「白いは氷」
「氷は滑る」
「滑るはオヤジのハゲ頭」
 とんでもない脱線である。
                                                                 つづく




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