#666/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 十章 (2/3) (24/25) あるてみす
★内容
「本当にごめん。博美にあんなことするなんて、俺、本当にどうかしてたよ。今更、
あやまって許してもらおうなんて、虫がよすぎるのは判ってるつもりだけど、でも、
博美に嫌な思いをさせたのが申し訳なくてさ、とにかくあやまりたいんだ。博美に
は絶対に許せないことかもしれないけど、俺、今でも博美のことが好きだし、博美
のこと失いたくない。だから、せめて博美の気が済むまで、ずっとあやまり続ける
つもりだ。」
あたしの肩を掴む健司の手に力がこもり、ぶるぶると震える。あたしは、その場
から全く動けなかった。いろいろな思いが胸の中をこみ上げてくる。
「博美、本当にごめん!」
健司の声が震える。振り返ると、健司の顔には涙が流れていた。
その涙を拭おうともせず、ひたすらあたしにあやまりながら泣き続ける健司。
「ちょっと、やだ。泣かないで。」
あたしは、それだけの言葉を口にするのがやっとだった。そして、気が付くと健
司に飛びついて、首にかじりついていた。
「本当にごめん!」
健司は同じ言葉を繰り返しながら、あたしを抱き締めると、ひたすら泣き続ける。
「ごめん。本当にごめんよ。」
それ以外の言葉を忘れたかのように、ただ、ひたすらあやまり続ける健司。
あたしもたまらなくなって、健司の耳元でわーわー泣いた。
ポン。
軽く肩を叩かれる。
健司が、そろそろ広間に戻ろうと言ってるのだ。
あたしは健司の顔を見上げてコクンとうなずく。
泣き止んでからずっと、健司とは一言も言葉を交わしていない。でも、それは健
司と喋りたくないっていうことじゃなくて、本当に言葉が必要なかったのだ。
泣いてた時に気持ちを共有することができたみたいで、今、何を考えているのか
が互いに判ってしまう。
健司の気持ちも優しく伝わってきて、嬉しくて幸せで不思議な気持ちだった。
さっき、二人とも泣きはらした目をハンカチで拭いて、しばらく気持ちを落ち着
けると、部屋に戻ってお化粧を直し、健司の目元の涙の跡も目立たないようにした。
そして、今、二人で広間に戻る。
広間に戻ると、既にソーラ王の姿もなく、すっかり酔ってしまって大声で話す人
や陽気に騒ぐ人などがいて、結構騒がしくなっていた。
「あらー、遅かったじゃない。どこ行ってたのー?」
康司と一美は席に着いていたけど、互いに寄りかかったり肩を抱いたりして、結
構酔っぱらってるみたい。
「ちょっとお化粧直ししてたの。あのあと大泣きしちゃったから。」
「ふうん。それにしては、ちょっと時間が掛かり過ぎてるんじゃなーい?」
一美は、そう言うと、酔った目で健司とあたしを交互に見る。
まったく、何を勘ぐってるのやら。
あたしは一美の視線を無視して席に着くと、グラスにお酒を注ぐ。そして、健司
と視線を合わせ、軽くグラスをぶつける。
そのあと、健司はそれを一気に飲み干した。でも、あたしはそんなことできない
から、少しづつ飲む。
しばらくすると、ホワッと良い気分になってきた。健司と一緒にいられる幸せに
お酒も手伝って少し酔ったみたい。
やがて、どちらからということもなく、健司と二人で広間の中央付近に出る。
バックにはまだ素敵な音楽が流れていて、ちょっとムードがある。そして、ダン
スしている人達もまだ何人か。
あたしは健司に肩を抱かれて、静かに踊り始めた。ステップとか手の動きとかい
うダンスの基本は全然知らないけど、今はそんなこと関係ない。
ゆらゆらと漂いながら、そのムードに酔いしれるあたし。
「ちょっとぉ。だいぶいいムードになってるじゃない。」
耳元に、こそっとささやく声がした。
いつの間にか一美と康司も来ていて、あたし達の隣で踊っていたらしい。
振り向くあたしの目の前で、一美が軽くウィンクをしていた。
「ま、うまく、おやんなさい。」
一美は、そう言ってあたし達から離れていくと、そっと広間を抜け出していった。
再び、ゆらゆらと漂いながら踊るあたしと健司。
時々、ディモスとセレナ姫のカップルが踊っているのとか、なぜかスクルトとマ
イア姫が一緒に踊っているのとかが目に入ってきたけど、そんなの全然関係なかっ
た。今はただ健司と二人でいられることの嬉しさだけが、あたしを包み込んでいる。
夢うつつのような感じで、いつの間にかあたしと健司は広間を抜け出していた。
そして、軽やかな足どりで部屋に戻る。
健司も一緒に部屋に入ってきて、扉を閉めた途端に、熱〜いキスをしてくれた。
頬が火照り、健司の息づかいが耳元に聞こえる。
これは夢かしら?
そのあと、健司は当然のように浴室へ入って行った。あたしも、特に不思議とは
思わずに、それを見送る。
酔いのせいで、ふわーっとした気分のままベッドにたどり着くと、うつ伏せに倒
れ込む。
「ふう。」
大きくため息をついて、しばらくそのままでいた。
やがて、健司が浴室から出てくる。
あたしは入れ替わりに浴室へ入ると、脱衣室でドレスを脱いでペンダントと冠を
外し、シャワーを浴びた。
念入りに全身を洗い流し、特に胸から腰にかけて、丹念に手入れをする。
このあと何が起きるのか、なんとなく判っていた。そして、あたしはそれを別に
嫌だとも思っていない。ただ、それがお酒のせいなのかどうかは判らないけど。
髪を洗って汗を洗い流し、全身が温もるまでシャワーを浴びると、脱衣室で体を
拭いた。
良い香りのする香料を少し髪に付けて、その髪を真っ直ぐにとかす。
しっとりと湿っているくらいにまで髪を乾かすと、大きめのタオルを体に巻き付
けて浴室を出る。
健司は、あたしの出るのを待っていたらしく、浴室を出た途端、いきなり抱き締
められた。そして再び熱いキス。
「とってもいい香りだね。」
唇を離した後、健司はあたしの髪に触れると、その香りを嗅ぎながらささやいた。
「あたしの好きな香りなの。」
「とてもいい香りだ。俺も好きだよ。」
あたしは健司の肩に額を触れて、軽くもたれかかった。
健司はあたしの髪を撫でながら、ダンスの続きのような軽い足どりで、あたしを
エスコートしてくれる。
しばらくして、健司に抱き上げられ、そのままベッドに横たえられたあたしの体
に、既にタオルは巻かれていなかった。そして……。
温かいものに包まれたまま、あたしは夢の世界から引き戻された。
目覚めると、あたしは健司の腕を枕にしていたのだった。
「おはよ。よく眠れたかい?」
健司はとっくに目を覚ましていて、あたしが目覚めてすぐに声をかけてくる。
「おはよ。」
あたしは、そう言いながら大きく欠伸をしかけて、ふと気付いた。
そういえば、一糸まとわぬ姿のままだったんだ。
そして同時に夕べの出来事を思い出し、全身がカーッと熱くなった。
「どうしたの? まだ痛むのかい?」
健司が優しく声をかけてくれる。でも、あたしはそれどころではなかった。
健司に触れられたときの感じが胸や腰にまだ残っている。そして、初めて健司と
一つになれた時の感覚も、しっかりと残っていた。
たぶん、あたしは顔まで真っ赤になっていたと思う。あまりにも恥ずかしくて、
顔を上げることができない。
健司は、あたしの顔を上向かせると、目覚めのキスをしてくれた。そして、その
まま、再び抱き締められる。
「愛してるよ。」
耳元でささやく健司。そして、夕べのように、健司の手があたしの胸を包み込ん
だとき、不意に部屋が歪んで揺れた。
「えっ?」
健司も動きを止めて辺りを見回す。
部屋の中のすべてが歪み、ねじ曲げられ、反転して、すでに部屋の景色ではなく
なっていた。
あたしの寝ている場所も、もはやベッドの形をしておらず、何やら訳の判らない
模様が辺り一面で踊っている。
踊る模様を見ていると、だんだん眠くなり、やがて、意識も少しづつ薄れていく。
意識を失う寸前、最後にあたしが見たのは、あたしの胸の上に倒れ込む健司の姿
だった。
「ん……。」
あたしは頬に冷たいものが当たるのを感じて目を覚ました。
白くて冷たいものがあたしの下に広がっている。
これは……雪だわ。
それにしても、体が重い。と、思ったら……やだ、なんで?
なんで健司が、あたしの上に乗ってるの?
健司は、あたしの胸の辺りに顔を埋めて、気持ち良さそうにスースーと寝息を立
てていた。
「うう……。」
やがて、健司のうめき声。そして、頭を振って目を覚まし、辺りを見回す。
「あれ? ここは……うわっ! ごめん!」
ようやく、今の状態に気付いてくれたらしい。慌ててあたしの上から降りてくれ
た。あたしも、やっと起き上がることができる。
だけど、なんでこんなとこで倒れてたんだろう。霧が濃くなったのでコースの脇
に寄って一時的に休んだとこまでは憶えてるんだけど、その後、なぜ、こんなふう
になったのか判らない。
辺りは一面真っ白で、全く何も見えない。でも、足元にストックと板がゴチャゴ
チャになって散らばってるのだけは判る。
「ねえ。なんで、あたし達、こんなとこで寝てたの?」
あたしは、思ったことを素直に聞いてみた。
「さあ……。」
健司も首をひねってる。
「そう言えば、康司と一美はどうしたんだ?」
言われてみれば、あたし達二人だけなんて、変な話よね。確か、一緒に滑ってた
筈なんだから。
「うっ……ううっ……。あ、あれ?」
その疑問に答えるかのように、すぐそばで康司の声がする。
声のする方に行ってみると……それは、本当にすぐそばだった。霧が濃くて判ら
なかったんだけど、本当に2mと離れていなかった。
そこには康司が仰向けになっていて、その上に折り重なるようにして一美が倒れ
ている。一美の顔が康司の首の辺りにあるために、康司は困惑しているみたい。
「康司。お前ら、何やってたんだ?」
健司がからかう。康司は焦って答えた。
「バ、バカ。何もしてねえよ……。」
一美も起こさないといけないわね。本当はそのままにしておいた方が康司として
は嬉しいのかもしれないけど。
「一美! 一美、起きてよ。」
あたしは一美を揺り起こした。
「ん……。え? やだあ!」
一美は微かにうめいて、パッと目を覚まし、すぐに、目の前に康司の顔があるこ
とに気付くと、慌てて飛び起きて康司から離れた。康司も、ようやく起き上がる。
「ねえ。何がどうなったの?」
一美も状況が掴めないらしい。
「さあ……。」
あたしは肩をすくめながら答えた。
辺りは白一色で、音もなく、なんとなく寒い感じ。
と、急に風が吹き始めた。
「さ、寒ーい。」
震えながら一美と抱き合う。と、そこへ追い打ちをかけるように、さらに風が吹
く。体が芯から冷えて、寒さがだんだん我慢できなくなってくる。あたしは一美と
抱き合いながらガタガタと震えた。しかし、その風で霧が少しづつ薄くなってきた。
しばらく冷たい風が吹き続け、その寒さに震えている間に、霧がどんどん飛ばさ
れて、みるみるうちに視界が晴れ渡ってきた。
目の前はもうゲレンデの合流点。その向こうに頂上リフトの乗り場が見える。
「視界も良くなってきたみたいだし、そろそろ滑っても大丈夫だな。」
「ねえ。ちょっと、どっかで休まない? あたし、寒くて我慢できない。」
「あたしも。」
一美の意見に、あたしも即座に同意してしまった。
健司がはつらつとしているのに水を差すようで悪いんだけど、もう寒くて寒くて。
「なあ、健司。こりゃ、どっかで休憩した方がいいんじゃねえか?」
「どれ? ありゃ、本当に冷えてるな。じゃ、そうするか。」
康司が一美の顔色を見ながら、寒さで白くなった頬に手を当てて言うと、健司も、
あたしの顔をのぞき込んで、両手で包み込んでくれた。
「それじゃ、あそこにするか。ほら、第一クワッドから降りて迂回コースに行くと
さ、途中に茶店があっただろ。」
「ああ、あそこか? そうだな。」
康司が立ち上がって板を履き始める。
「博美、寒いだろうけどさ、もう少し我慢しろな。このまま、まっすぐ降りるとさ、
途中にしゃれた店があるんだ。ちょっと下の方だけど、そこでお茶にするからさ。」
「うん。」
−−− 続く