#662/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 九章 (1/3) (20/25) あるてみす
★内容
九章 決戦!
しかし、康司の推測は少し楽観的過ぎたらしい。地下牢を出て、まともな服を求
めて客間を探し回ってみたんだけど、ほとんどの部屋には全く何も見当らなかった。
いくつかの部屋には……まあ、あれも服だって言ってしまえば確かに服なんだけ
ど、でも、あたしとしてはちょっと抵抗あるなあ。だって、それって要するに寝間
着なんだもん。間違っても寝間着姿でお城の中をうろつきたいなんて思わないわよ
ね。
でも、裸の上に兵士の上着を羽織っただけの姿よりはマシだろうって康司が言う
から、仕方なく見つけた寝間着を身に着けた。ついでに、ガウンも一緒に見つけた
ので、これを羽織ることも忘れてはいない。
一美はあたしと違って一応短衣を着てはいたんだけど、でも胸の前を破かれてい
たから、こんなのは嫌だって言って、あたしと同様、やはり寝間着に着替えてガウ
ンを羽織った。
そして、着替えの最中にペンダントと冠がなくなってるのに気付いた。それに、
一美のペンダントも見当らない。
そういえば、康司も指輪をしてなかったような気がする。
「健司か誰かに持ってかれたんじゃないのか?」
着替えの後、康司にペンダントと冠がなくなっていることを言うと、康司は平然
として言った。
「でも、どうやって?」
「玉に触れないように注意すれば、ペンダントも冠も俺の指輪も持つことは誰にで
も可能なんだろう? だったら、持っていくのは簡単だろうさ。それよりも、今、
俺達がやらなきゃならないのは、なんで健司が変わっちまったのか、その原因を突
き止めることじゃないのか?」
「健司が変わった原因?」
「博美は、健司があんなことする人間だと思うか?」
「ううん。」
あたしは即座に首を振る。少なくとも、あたしの知ってる健司なら、絶対にあん
な変な真似はしないだろう。それくらい断言できる。
「そうだろう。俺だって、あれが健司だなんて、とても思えない。だいたい、健司
とマジにやり合って、あんなにあっさり決着が付くわけないんだ。と、すると、あ
の変貌ぶりには、何か裏があると思わねえか?」
「そう言われれば、そんな気もするけど……。」
「で、その原因ってやつを突き止めようってわけさ。」
「でも、どうやって……。」
「少なくとも、もう一人、変になった人間がいるのを忘れてないか?」
「え?」
「俺達と一度は出会ってるけど、さっきの所にはいなかったやつがいるだろう。」
一美が少し考え込んだあと、答えた。
「えーっと……あ、マイア姫!」
あ、そうか。忘れてたけど、そういえば、マイア姫も少し変だったわよね
「そうだ。俺、こんなこと言えるほどマイア姫のこと知ってるわけじゃないけどさ、
少なくとも、あんな真似する娘じゃなかったはずだよな。だから、マイア姫を捕ま
えてみれば、何か判るかもしれないだろう?」
「でも、それだったら健司に聞いてみても一緒じゃないの?」
「やだよ、俺。いくら縛ってあったって、二度とあんな手ごわいやつの相手する気
になれないぜ。博美はどうだ? いくら縛られてるからって、あの健司に直接聞い
てみる気になるか?」
あたしは思いきり首を振った。冗談じゃない。あんな変な健司なんか、見たくも
ない。
「少なくともさ、マイア姫なら健司ほどは手ごわくないだろうから、そっちに聞い
てみた方がいいと思うだろう? どうせ健司とつるんでるのは間違いないんだから
さ。うまくすりゃペンダントや冠の行方だって聞くことができるぜ。」
「そうね。」
一美がうなずいた。
「それじゃ、お嬢様方。早速マイア姫を探しに参りましょうかね。」
康司がそう言って部屋を出る。一美とあたしも後に続いた。今度はマイア姫を探
すために、お城の中をさまよう。あまり兵士達に遭遇したくなかったので、最初の
うちは、なるべく誰にも見つからないようにコソコソしていたんだけど、そんなこ
とする必要はなかった。
だって、誰もいないんだもん。
本当に、いくら大きな物音を立てても、誰も出てこなかった。もう、このお城の
中には誰もいないんじゃないかって思ったくらい。マイア姫もまったく見つからず、
あたし達は探すのに疲れて半ば諦めかけていた。
「あっ!」
一美が突然、何かを思い付いたように声を上げた。
「ねえ、まだ探してないとこがあるじゃない。」
「えっ?」
「ほら、あの教会みたいなとこよ。あたし達が博美に変な術をかけられて遠くへ飛
ばされたのも、あそこだったじゃない。」
「ああ。そう言えばそうだっけ。」
「あれ、あたしがやったんじゃないからね。」
あたしと康司の言葉が重なる。
「判ってる。あのときはもう、あたしに同化してたって言いたいんでしょ? でも、
そんなことどうでもいいの。」
一美は、そう言いながら、既に駆け出していた。
「おい、待てよ。一美!」
康司が慌てて後に続く。あたしも、その後に続いて走り出した。
お城の建物を中庭の方に出て、少し離れたところにある教会のような建物に向か
う。そう言えば、セレナ姫の結婚式の真っ最中に、あたし達が突然姿を見せたのも、
あそこだったっけ。
外は晴れていて、とても明るい。その明るさとは対象的に、教会風の建物の内部
は薄暗かった。
薄暗い廊下を進んで、中の大きな部屋に入る。この部屋はセレナ姫とディモス、
つまり現マース侯の結婚式が行なわれたところ。でも、あのときの華麗さとはうっ
て変わって、あまりにも陰気な感じ。ステンドグラスのような窓から陽が差し込ん
で、決して暗くはないんだけど、あまりにも静かで不気味。あまり長居はしたくな
い雰囲気ね。
「なんか、いやな感じね。」
一美のつぶやく声が異様に響く。一瞬びっくりして、顔を見合わせた。
「出ようか……。」
あたしの言葉に一美は声もなくうなずくと、後ずさりして部屋を出た。
あたしと康司もそれに続く。
「こっちを探してみよう。」
途中にある、あまり目立たない扉に手をかけながら康司が振り向く。一美とあた
しは声も立てずにうなずいた。
康司は扉をそっと開けて、音もなく体を滑り込ませる。一美とあたしも、それに
続く。
中は相変わらず薄暗く、廊下が曲がりくねっているので、ぼんやりしてると壁に
ぶつかってしまいそう。
何度か壁にぶつかりそうになりながら進むと、やがて突き当りに扉が現われる。
その扉を開けて、部屋の中に入る。前にこの部屋に来たときには、あたしは一美
と同化してて、あたしじゃない博美に遭遇しちゃったのよね。
薄暗い部屋の中で、真ん中辺りに階段が見える。これも、前に来たときのまま。
後ろで扉がバタンと閉まる。これも前回と同じ……えっ?
ビクッとして振り向くと、扉の所に誰かがいた。
「ようやく、ここを突き止めたようじゃな。」
いきなり上の方から声がして、階段の下にある燭台に灯がともる。
部屋の中が明るくなり、階段の上には、あの占い師の姿が現われた。そして、そ
の脇に控えていたマイア姫が妖しい笑いを浮かべながら、剣を手にして立ち上がり、
階段を降りて来る。
「じゃが、そなた達が、やがてここにやってくるであろうことは、その男が倒され
た時に判っておったことじゃ。」
占い師は、そう言いながら、あたし達の後ろを指した。振り向くと、そこには健
司の姿。
「ここまで来れたことは誉めてやろう。じゃが、そなた達の命運も、そこまでじゃ
な。我が忠実なる下僕どもが相手をしてくれるそうじゃ。そなた達に、この二人を
倒すことができるかな?」
占い師がサッと手を振る。と、それを待っていたかのように、前からマイア姫が、
後ろから健司が、それぞれ剣を振り上げて襲いかかってきた。
康司は素早く後ろを向いて、健司と剣を合わせる。あたしはマイア姫の剣を真正
面から受け止める。康司もあたしも背中に一美をかばっている。
マイア姫って結構強いみたい。あたしは何度もマイア姫と剣を合わせながら、疲
れが出てきたこともあって、じりじりと後退させられていた。
健司と康司は剣で戦うのが面倒なのか、共に剣を捨てて素手で戦っている。だけ
ど、康司の方はいい加減に疲れてきたらしいのに、健司は一向に疲れた様子を見せ
ない。さっきの勝負が嘘のように康司が圧されている。……なんて、マイア姫の相
手に精一杯のあたしに、そんなとこまで判るわけがない。実はこれ、全部一美が話
してくれたこと。
やがて、健司に圧されつつも身構えていたらしい康司の背中に、同様にマイア姫
に圧されて後退していたあたしがぶつかる。これ以上後退したら、背中から健司の
餌食になってしまうだろうし、康司も同様にマイア姫の剣の餌食になってしまう。
もう、後には引けない。
「なあ。これ以上、こいつらとやり合ってても、らちがあかねえ。それよりさ、こ
の二人を下僕とか言い切った、あの占い師をやっつけた方がいいんじゃねえか?」
「だけど、この二人をなんとかしないと、どうにもならないじゃない。」
康司と小声で話し合う。
「いや、なんとかなるかもしれん。」
そう言うと、康司は健司に向かって素早い攻撃……をするかのように見せかけて、
急に反転すると、あたし達の脇をすり抜けてマイア姫に襲いかかった。マイア姫は
あたしとの戦いの真っ最中だったから、康司の急な攻撃には何も対処できず、あっ
さりとお腹を殴られて気絶した。
「今だ!」
康司のかけ声で、健司が襲いかかってくるのを後目に、三人で一気に階段を駆け
上がり、占い師のところに向かった。
占い師も、さすがにこんな行動は予想していなかったらしく、驚いていたようだ
った。でも、慌てることもなく、両手を前で組むと、何やら呪文のようなものを唱
え、そして、その両手を一瞬にして突き出す。
「きゃあ!」
強烈な力が前から加わってきて、あたしと一美は康司の下敷になり、階段の下ま
で転げ落ちてしまった。康司は階段の途中で苦しそうに膝を付いたあと、すぐに立
ち上がって階段を駆け上がった。
バキッ!
康司の拳が占い師に炸裂。占い師の体がもんどりうって階段を転げ落ちてくる。
「わっ!」
あたしと一美は慌てて落ちてきた占い師の体を避けた。
と、急に後ろから抱きすくめられる。しまったと思う間もあらばこそ、健司の腕
があたしの首に巻き付いて、強く締め上げられる。
「ぐぐっ……。」
頭が破裂しそうな感じになる。必死で健司の腕を引っ張ったけど、所詮は女の力
よね。健司の力の前では話にもならない。
「わあっ!」
すうっと意識が遠くなりかけたところを、一美の歓声で引き戻された。
見ると、一美が占い師のそばで何かを拾っている。
どうやら、占い師の服の下には、いろんなものが隠してあったみたいで、転げ落
ちたときのショックで、それらがこぼれたらしい。
一美は、その中のいくつかを確認しながら拾い上げると、嬉しそうにあたしの方
を向く。
「博美!」
一美の表情が驚きに変わり、一度息を呑んだあと、あたしの首を締めていた健司
の腕を慌てて掴んで力を込めた。
バシッ!
一美の手から白い光がほとばしり出て、健司を跳ね飛ばす。
「ケホッ、ケホッ!」
「博美、大丈夫?」
床にへたり込んで咳込むあたしの背中を、一美が優しくさすってくれる。そして、
「はい、これ。」
「えっ?」
目の前にぶら下げられたペンダントを見て、あたしは一瞬呆然としたあと、それ
を受け取って首から下げ、冠も受け取って頭に載せる。
「康司!」
一美が叫んで、指輪を投げる。康司はそれを片手で受け止めると、手にした指輪
と一美の顔を交互に見つめ、その指輪を指にはめた。
「ハーッ。」
康司は息を大きく吐くと、体に力を蓄えながら体勢を整えた。それと同時に康司
の全身がサッと白い光で満ちた。
あたしはペンダントを握りしめながら全身に軽く力を込める。と、目の前が白い
光で覆われる。
「つつ……。わしとしたことが、油断したわい。」
占い師が首を振って起き上がる。それを見た康司は階段の上から飛び降りて、占
い師に飛びかかろうとする。その途端、占い師の体がスッと移動した。
「無駄じゃよ。そんな程度のことでは、このワシは倒せん。さっきは油断してやら
れたが、今度はそうはいかんよ。」
−−− 続く