#648/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 六章 (1/2) (12/25) あるてみす
★内容
六章 フロール卿
思いっきり揺れる馬の背で、あたしはルーラの背中に必死でしがみついていた。
あたし達の方が先を走っていたので、まったく見ることはできなかったけど、た
ぶん康司も同じだったんじゃないかと思う。
やがて、前方に大きな屋敷が見えてきて、ルーラ率いる一団は、その庭先へと走
り込んでいった。
「さ、どうぞ。こちらですわ。」
馬を降りると、まったく疲れを見せないルーラに案内されて、へとへとになりな
がらお屋敷の中に入る。
「まあ、ルーラお嬢様。お帰りなさいませ。」
お屋敷に入ったところで、いきなり、少し年輩の女性に声をかけられた。
「ただいま、シノーラ。ねえ、お父様とお母様は、いらっしゃるかしら? お客様
をお連れしたのだけれど。」
「ええ。奥の間にいらっしゃいますわ。お呼びして参りましょうか?」
「いいえ、あたくしがお呼びするわ。シノーラは、こちらの方々を御案内して差し
上げて。お願いね。」
「はい。では、すぐに。」
ルーラは、そのままどこかへ姿を消した。一方、シノーラと呼ばれた女性は、ル
ーラに一礼をしたあと、隣にいた召使いにてきぱきと命令する。
「ミラ。あなたは広間でおもてなしの用意をして。急いでいるから、皆にも声をか
けて、なるべく早くお願いね。」
「はい。」
隣の召使いは、あたし達に一礼すると、そそくさとその場を立ち去った。
「さ、こちらへどうぞ。」
シノーラの案内で、あたし達は広間に向かった。途中、スクルトはキョロキョロ
しながら、あちらこちらを見回している。
「こちらですわ。どうぞ。」
「うわー、すげえもんだな。」
広間に着いた途端のスクルトの第一声。そして、広間の天井を見上げて、放心し
たように眺めている。
あたしと康司は、案内されるまま席に着いた。スクルトも、それに気が付いて慌
てて追いついて来ると、あたし達の隣に座る。
「もうしばらく、お待ち下さいませ。じきにお館様と奥方様がお見えになると思い
ますわ。」
シノーラは、あたし達に一礼をして姿を消した。
「すげえな。これ、本当に部屋なのか?」
スクルトは座ったまま辺りを見回して独り言。
確かに、すごいって言えばすごいんだけど、あたしも康司もソーラ王のお城とか
プラネット公やマース侯のところで、これ以上に大きな広間を見てきたから、すっ
かり慣れちゃってる。それより、あたしにとっては馬に揺られてきた疲れの方が問
題ね。そういえば、スクルトは全然疲れてないみたいだけど、馬に乗るの、慣れて
るのかしら?
そんなことを考えていたら、やがて、目の前のテーブルの上に最初の御馳走が運
ばれてきた。
「うわー、すげえ……。」
スクルトは目を見張って、その御馳走を見ている。そして、さらに次々と御馳走
が運ばれてきて、テーブルの上にあふれんばかりの御馳走が並んでいった。スクル
トはもはや言葉もない。
「よくぞ、いらしてくれましたな。すっかりお待たせしてしまったようで、申し訳
ない。」
そう言って広間に入ってきた三人を見て、スクルトとあたしは驚いた。
三人のうちの一人はルーラだった。もう一人は少し年輩の男性だった。そこまで
は、まあ、いいとして。
最後の一人は、あたしの見間違いなんかじゃなければ、確かにスクルトのお母さ
んだった。でも、綺麗に着飾っていて、とてもじゃないけど、シモツの村はずれの
家であたし達を見送ってくれた人と同一人物とは思えない。
スクルトも同じ事を思っていたらしく、呆然としたまま、その人を見つめていた。
三人は、ゆっくりとテーブルに着くと、あたし達に一礼をして言った。
「ワシが当家の主ファルル。フロール卿とも呼ばれております。そして、これが家
内のルミア。あと、娘のルーラは既に御存知でしたな。」
「俺は山口康司といいます。こっちは中沢一美で、俺の恋人です。それから、そっ
ちは、えっと、なんて言ったっけ?」
「え? あ、俺か? 俺はスクルトだ。」
康司の後を受けて、我に返ったスクルトは、慌てて答えた。
「スクルトさんとやら。あなた、先程からずっと、わたくしの顔を見つめていらっ
しゃいますね。わたくしの顔に、何か付いていますか?」
いきなりルーラのお母さんに問いただされて、さらに慌てるスクルト。
「あ、いや、あまりにも、俺のお袋に似てるから……。」
「まあ、わたくしがですか? それは是非一度お会いしてみたいものですわ。あな
たのお母様というのは、どのようなお方なのかしら?」
「どのような方……って言われる程のものじゃないけど、とにかく、あんたにそっ
くりなんだ。名前はラミアっていうんだけどさ。」
「えっ? ラ、ラミアですって!」
ルーラのお母さんは突然、目を見開いて息を呑むと、驚いたように椅子から立ち
上がった。そのはずみで椅子がガタンと音を立てて後ろへ倒れたけど、そんなこと
気にならなかったみたい。
フロール卿も呆然としてスクルトの顔を見ている。
一方、ルーラと康司は訳が判らず、ポカンとしていた。もちろん、あたしにも訳
は判らない。
「ああ、そうだけど。」
スクルトは、ルーラのお母さんの豹変ぶりに唖然としていたようだった。
「あなた、お父様は? もしや、フェミルっていう名前ではありませんか?」
「ああ、そうらしい。もっとも、俺が物心付く前に死んじまったってお袋は言って
たけど。でも、なんで俺の親父の名前、知ってんの?」
それを聞いたルーラのお母さんは、今にも泣きそうな表情になってフロール卿の
方を見ながら、喉を詰まらせながら何やら期待のこもったような声をかける。
「あなた……。」
「うむ。」
フロール卿も重々しくうなずくと、スクルトの方を見据えた。
「スクルトとやら。そなたの家は、どこにあるのかな?」
「俺の家かい? シモツ村ってとこの村はずれにあるんだけど。」
「うむ。シモツ村とはな……。」
フロール卿は、そこで腕組みをして考え込んだ。
「それで、そなたの家というのは、どのようなところなのかな?」
「きったねえあばら屋だよ。ただ、風車があるから、粉を引いたり練ったりしてさ、
いろんなものが作れるんだ。」
「行けば、すぐに判るかな?」
「多分、判ると思うよ。村で風車があるのはうちだけだから。でも、なんでそんな
こと聞くんだ?」
「うむ。いろいろと事情があってな。詳しい事は話すと長くなるので省略するが、
恐らく、そなたの父上というのは、このワシの実の弟なのだ。そして、そなたの母
上は、このルミアの従姉妹なのだよ。」
「なんだって?」
今度は、スクルトが驚く番だった。
「まだ、このルーラが生まれる前のことだったが、ジュンという街にランベル卿と
いう方がいらっしゃったのだよ。ある日、ランベル卿の屋敷内で謀反が起こってな。
ランベル卿と、その奥方のマリカ様が死亡。ランベル卿の一人娘のラミアと、ラミ
アの婿としてランベル家に入っておった我が弟フェミルが行方不明になったのじゃ。
話によるとは二人とも運良く助かったらしいのだが、我々がずいぶんと手を尽くし
て探しても、結局二人を見つけることができなくてな。長い間、ずっと行方知れず
になっておるのだよ。」
「そ、それで?」
「いくら親戚付き合いをしている貴族同士でも、一旦、何か事が起これば、普通は
他人同様に知らぬふりをしてしまうのが常なのだ。二人とも、そのことが判ってお
ったのだろうな。ワシの方としては、そ知らぬふりをするつもりなど、毛頭なかっ
たのだが……。」
フロール卿は悲しげに首を振ると、再びスクルトの顔を見つめて言った。
「そなたが本当に我がフロール家の親戚に当たる者なのかどうか確かめなくてはな
らん。そこで、そなたの母上に会ってみようと思うのだ。そなたの母上は普段、ど
ちらにいらっしゃるのかな?」
「大抵は家にいると思うけど、でも、ここからだと歩いて三日かかるよ。」
「うむ。だが、ワシは馬を飛ばすつもりなのでな。歩いて三日かかる道のりでも馬
なら一日あれば充分に行って帰って来られるだろう。では、ワシはこれから急いで
出かけなくてはいかん。ルミア、後を頼むぞ。」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ。」
フロール卿は、そのまま急いで広間から出て行った。
「……つまり、スクルトは、あたくしの従兄弟ってことなのかしら?」
しばらくして、静まり返った部屋の雰囲気を破ってルーラの声が響いた。
「それを確かめるために、あなたのお父様は旅立たれたのですよ。恐らく、お帰り
になるのは明日の昼から夕刻頃になるでしょう。」
ルーラのお母さんは、ルーラに言い聞かせる。そして、おもむろに、あたし達の
方に向き直って言った。
「お急ぎのところ申し訳ありませんが、明日は、こちらでお過ごし頂けますか?」
「俺、本当に、こんなすげえ家と親戚なのかなあ。ちょっと信じられねえよ。」
あたし達がここに一日余計に滞在することが決まった後、ささやかな歓迎の宴と
いうのが広間で開かれた。そこで、あたしと隣合って座ったスクルトは、こんなこ
とを言ってため息をついた。
確かに、今まで貧しい生活をしてたのが、突然、こんなにすごい御馳走を並べる
ことができるような家と親戚だなんて言われたら、そりゃ、面食らうでしょうし、
世が世なら貴族の息子として何一つ不自由の無い暮らしができたのかもしれないな
んて考えると、ますます困惑するでしょうね。
でも、そんなスクルトの戸惑いなどお構い無しに宴は優雅に繰り広げられていく。
「ヒトミさんとやら。先程、娘からうかがったのですけれど、あなた、不思議な力
をお持ちだとか。もし、よろしかったら、あたくしにも見せて頂けません?」
「あの、ごめんなさい、駄目なんです。ルーラさんにもお話したんですが、この力
はあたしに危険が迫ったりしないと出せなくて、見せろといわれて見せられるもの
ではないんです。」
「そう。それは残念ですわ。では、せめて、それが、どのようなお力なのか、お聞
かせ願えませんこと?」
「ええ、それだけなら……。」
そして、あたしは、ソーラ王のお城で悪魔を倒した時のことを話し始めた。途中
からは康司の話も加り、あたしはドレス(あたし、今はドレスを着てる)の胸元か
らペンダントを出して、康司の指輪も見せながら、二人で身振り手振りを加えて。
一通り話し終わると、ルーラのお母さんは深くため息をついて言った。
「そうでしたの。では、あなた方が巷で噂のティアの女神様というわけですのね。
ところで、今のお話では、ヒトミさんの他にヒロミさんという方がいらっしゃると
いうことになるんですけれど、その方は今、どちらに?」
「ええ、実は……。」
そこで、今、ソーラ王のお城で起こっているらしいことを話した。そして、あた
し達が旅をする羽目になった理由とか、博美の様子がおかしいので、それを調べに
お城に戻る途中であることなども付け加えて。
「まあ、そうでしたの。では、スクルトと出会ったのも本当に偶然のことだったの
ですね。あたくし達にとっては、とてもありがたい偶然ですけれど。それで、その
とき、コウジさんはどちらに?」
「この辺にはあまり詳しくないから、よく判らないんですが、なんでもジュンとか
いう街のはずれに飛ばされたらしいんです。それで、一美のことを探しながらソー
ラ王のところまで戻るつもりで、人に道を聞きながら、この街にたどり着いたんで
すが、そこで警備兵の連中に捕まってしまって……後はさっき一美が話した通りで
すね。」
「まあ、ジュンに? それで、街はどのような様子でした?」
ルーラのお母さんは勢い込んでたずねる。
「どんな様子って言われると……とにかく、ひどく寂れてましたね。俺が、今どこ
にいるのか判らなくて、人に聞こうと思っても、その人影がほとんど見当らないん
だから。あれで本当に街って呼べるんですかねえ?」
「そうですわね。昔は活気があって、充分に街と呼ばれるだけのことはあったので
すわ。今はもう村と呼ぶことさえできないほどひどい寂れ方ですけれど。」
ルーラのお母さんは、再びため息。そして、
「ジュンというのは先ほども申しましたように、元々ランベル卿という方の治める
街でしたのよ。もっとも、家臣の謀反に遭って亡くなられてしまいましたけどね。
その後、謀反の首謀者はブラッド卿と名乗って何喰わぬ顔でランベル卿の後を引き
継いで街を治めようとしたのですけれど、人望がなかったせいか、やはり謀反に遭
いましてね。今では誰も治める者のない廃虚のような状態なのですわ。」
そう言いながら、小さなハンカチで目頭を押さえる。
「先程お話しました通り、おそらくスクルトはランベル卿の孫でわたくしの甥だと
思うのですけど、ブラッド卿さえいなければ、スクルトもラミアも苦労などせずに
済んだのです。それを……。」
そして、ハンカチに顔を埋めたまま、しばらく声も立てずに泣いていた。
しばらくして、泣きはらした顔を上げると、
「みっともないところをお見せしてしまいましたわね。話を元に戻しましょう。」
一度、深呼吸をして、再び話し始めた。
−−− 続く