#633/3137 空中分解2
★タイトル (AZA ) 90/ 9/17 10:19 (167)
闇の者 (1) 永山
★内容
それは日本という国のどこかにある屋敷でした。古くから続いていた名家が
所有していた物らしいのですが、次々に不吉なことが起こるので、何十年か前
に手放してしまったようなのです。
その後も、金儲けを考える人や怖い物見たさの道楽者が購入しては手放して
いきました。実際に不吉なことが起これば、誰でも手放したくなるようです。
現在では、格安で売りに出されているにも関わらず、買い手がつかないまま、
ほったらかしにされています。売り手が言うことには、「一度住んでみて、気
ノ入ったらどうぞ」ということで、前もって持ち主に連絡しさえすれば、一週
間ほど勝手に住んでいいとなっています。
そうなると、物好きな人がいるもので、訪れる人が一年に一度はあります。
それでも誰も買い手はつきません。
さて、ある年、持ち主の人に連れられ、何人かの人が来て清掃をやっていき
ました。誰かを迎える準備です。どうやら超常現象好きの方の集まりが来るよ
うです。
後になって知ったのですが、その会の人達の名前は、江守・寺山・峰岸・関
・浦上・大杉と言いました。この六人の名を、忘れはしないでしょう。それほ
どこの年、この屋敷で起こった事件は奇妙極まるものだったのです。
@六人は長い間歩いたためか、かなり疲れた様子でした。屋敷にたどり着くな
り、二階にある割当られた部屋に荷物を放ると、一階の食堂にへたり込んでし
まったのです。みんな、ぼんやりとしゃべっています。
「宝ぁ?」
関がとんきょうな声をあげました。話をしていた江守は、あきれ声になって、
「そんなに驚かなくてもいいでしょう。人を驚かすのが商売のあなたが」
と言います。
「そりゃ、私は手品師ですよ。二流のね。しかし、こいつはそれとは驚きの質
が違いますよ。宝なんて、アナクロもいいとこですな」
「早く、続きを言ってよ、会長さん」
黒髪の美しい女性、寺山がじれったさそうに言いました。
「ですからね、この前、浦上さんと一緒に下見に来たんです。ああ、それと持
ち主の人とも一緒だったけど。そのときに聞かされたのが、宝の話です。ねえ
浦上さん?」
「はい。予約に行ったときからうさんくさい奴だと思ってましたけど、この屋
敷の持ち主は、ほんと、不気味ですよ。何だか、宝とか人形とか開かずの部屋
とか、気味の悪いことばかり言ってました」
眼鏡をずり上げながら、浦上は答えました。彼がこの屋敷に住んでみること
を提案し、その手配もしたのです。
「どんな宝なんですかな」
さして興味なさそうに聞いたのは、大杉という老人です。純日本男児といっ
た風で、剣道だか柔道だかの師範をやっているそうです。
「そこまでは言いませんでした。ただ、この屋敷の呪いは、その宝を隠した者
の怨念のせいだと言ってましたね」
「私は幽霊を見たことがあるから、怨念というものも信じるがね。何故、屋敷
に住む者まで狙われなならんのだ」
老人は血気盛んです。彼自身は、戦争中にたくさん人を殺したせいで、幽霊
を見ると言います。
「知りませんよ。持ち主に聞いてください。ま、こんな話をしたのも、できれ
ば宝探しみたいなことをやってみたいなという腹づもりがあったからでして」
大きな身体を揺すって笑う江守会長でありました。
「それもいいと思いますけど、私は気功について、皆さんの理解を深めていた
だきたいと思っているのですが」
峰岸という冴えない感じの女性が口を開きました。彼女は何年か前の交通事
故で、夫婦ともども大変な重傷を負ったのですが、夫は死に、妻たる彼女は助
かったのです。そのリハビリにおいて、彼女は気功術の世話になり、それ以来、
気功に狂っているのです。
「どうもねえ。峰岸さんの気功話は、観念論に過ぎますからねえ」
浦上が苦笑いをしています。大学生の若者にとって、中年の女性が子供っぽ
いことに熱心なのが、おかしいのでしょう。
「信じないと言うのですか?」
「そうじゃなくてね。僕だって、気功がある程度認められつつあるのは知って
いますよ。でも、インチキくさい実験があるでしょう。あの薬を瓶から抜き取
るってやつ。あれをやめない限り、僕は完全には認めないということです」
「インチキとはな……」
怒鳴りかけた峰岸を、江守が止めます。
「ま、ま。落ち着いてください。折角、日常を離れてこんな所へ来たのです。
好きなことを語るのはいいですが、喧嘩しても始まりません。お互い、意見し
あうだけにしましょう。でも、その前に、決めることがあります」
江守が言い出したのは、食事や風呂のことでした。
この屋敷には電気は来ていますが、水は井戸からくみ出し、ガスはプロパン
です。コンロがあって調理できますし、冷蔵庫があるので、それなりの物を保
存できもします。ただし、風呂はいわゆる五右衛門風呂です。
あらゆる水くみ係は江守と浦上、風呂係は関、薪割係は大杉となり、調理は
女性二人の受持ちと決まりました。
「では、早速ですが、寺山さんに峰岸さん、昼食の準備に取り掛かってくださ
い。水くみは男でやりますんで」
と言うことで、時刻は午前十一時頃でありました。
「これは深いな」
熔 井戸をのぞき込みながら、関が言いました。風呂の仕事がないので、こちら
に手伝いに来ているのです。
滑車をがらがらさせながら、浦上は笑っています。
「落ちないようにって、うるさいほどに言われましたよ、持ち主にね」
確かに、手すりも何もなく、ただ穴が開いていて上に滑車があるだけで、危
険かもしれません。
「ちょうど、あの部屋の窓の真下になるんですな」
大杉老人は屋敷の二階を指さしました。誰も使っていない部屋のはずです。
ざーっと水を桶に入れ、いっぱいになったところで江守が運んで行きます。
関の方は風呂釜をいっぱいにしようと、せっせと往復しています。
そうこうしていますと、お昼ができたようです。
「あらゆる星神、ことに太陽神に感謝をいたします。この恵みを……」
他の者がいただきますで済ましていますのに、寺山だけはこのような奇妙な
言葉を長々と吐き、やっと食べ始めました。
「寺山さんの凝りようも凄いね」
浦上が箸を口に運びながら、困ったように笑います。
「本当だよ。ウチ、喫茶店やっていて、彼女が時々来るんだけれど、そこでも
お客さんに占いを始めちゃうもんな。参るよ」
江守も苦笑しました。それに反発してか、寺山が言います。
「あら、私の星占いは、よく当たるでしょう? 興味を持って以来、独自に研
究してきたものなのよ」
「当たるのは認めますがねえ、いきなりお客さんにされちゃあ、気味悪がって
帰ってしまう人もいるんですから」
食事の輪に笑いが起こりました。事実、江守は店に寺山が来ることを好まし
く思っていたのですから、そして誰もがそのことを知っていたのですから、当
然であります。
「さて、そろそろ皆さん、食べ終ったようですね。昼からの予定ですが、何か
特にありますか?」
誰もが会長の言葉に対し、顔を見合わせます。予定といっても、どこも行く
所はなし、超常現象談議に華を咲かせるだけのものと思っていたのです。
「ないですか? それなら提案なんですが、宝探しを兼ねてこの屋敷の探検と
言えば大げさですが、そんなものをやってみませんか」
「面白いですな。乗りましょう」
大杉老人が、意外にも真っ先に賛成しました。
「いっそのこと、先に屋敷内を見回ってですね。みんなで競争をすればどうか
な」
浦上の新たなる案に、皆の目が集まります。
「競争と言いますと?」
「ええ。皆さん、それぞれに得意とするものがありましょう? それを活かし
て宝の在処を当てるのですよ。寺山さんなら占い、峰岸さんなら気功術、大杉
さんは霊感てなところで」
「それは面白いですが、私なんか、何にもありません」
「関さんには、手品師としての経験があるでしょう。隠すとしたらどこが一番
理論的かってね」
「ははあ。難しそうですなあ」
関は頭を掻きました。でも、それなりの自信はありそうです。
「江守さんと私は一度、下見をしているので、それをハンディとさせてもらい
ましょう。いいですか、江守さん?」
「いや、結構ですね。ぜひ、そうしましょう。一番早く見つけた人が勝ちです
な。宝は誰の物になるのでしょうか?」
「持ち主の話では、見つけてくれた方には、礼は尽くすということでしたが」
「いいですわ。早くしましょう」
峰岸は腕を奮わんとばかり、立ち上がっています。
「それじゃあ、とりあえず一かたまりになって、見回ってみますか」
江守も立ち上がりました。
さて、屋敷中を見回ってみました。一階には食堂、トイレ、そして形ばかり
の台所があるばかりでした。
いえ、本当はもう一つ大きな部屋があるようなのですが、どうした訳か、扉
が開かないのです。鍵です。
「ここの鍵は、どうしたんですか?」
寺山が聞きますと、江守が答えます。
「前にあなたにも話したんじゃなかったかな。浦上さんが鍵を持ち主から受け
骼謔閨Aそれをさらに私が預かっていたんですがね。どういう訳か、なくなって
しまったんですよ」
「ああ、あの話。そうでしたの」
「となると、この部屋の中は見れないということですね。庭から見たところ、
窓さえなかったようですから」
考えるようにして、関が言います。
「そうですがね。気にすることじゃありませんよ。最初に見たとき、真っ白な
壁だけがある何もない部屋でしたから。宝を隠す余地はありません」
浦上が説明をしました。考えてみれば、こんな部屋は持ち主自身が徹底的に
探しているでしょうから、除外して差し支えないでしょう。
それから二階にです。ちなみに食堂の上だけは、天井が吹抜けとなっていま
して、周りをバルコニーが囲っています。バルコニーを廊下にした形で、各人
の部屋があり、どこも同じ仕組みになってます。畳敷で小さな卓に小さな押入
があるだけです。
他にめぼしい物といえば、昼前に大杉が指摘した、誰も使用していない部屋
です。今度は鍵はかかっていませんでした。
きーっと扉を開くと、部屋の中が見えました。何と、その部屋は色々な民芸
品らしき物が置いてあるのでした。人形、壷、銅像、何やら知れぬ置物等など。
中でも人形が目を引きました。高さが一メートルはある、少女の西洋人形な
のですが、その目の妖しい輝きは魅入られてしまいそうです。その人形自体は、
ガラスケースの中にあり、直接触れる訳にはまいりません。
「人形にピエロに壷と奇妙な物がありますなあ。さあ、これで一応、全部の部
屋を見回ったことになります。あとは風呂がありますが、ご自由にどうぞ。屋
敷の周囲も同様です」
江守会長はそう言いましたが、そろそろ夕食時であります。すぐにその仕度
にかからねばなりません。それに風呂もです。
−CONTIN.