#631/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 二章 (2/2) ( 5/25) あるてみす
★内容
「なあ、博美はどこ行ったんだ?」
「えっ?」
パニックしてて気付かなかったけど、そういえば博美の姿がないみたい。
胸の前を押えながらベッドから起き上がり、辺りをキョロキョロ見回す。と、扉
の近くに博美の着ていた寝間着が落ちているのが目に入った。けど、当の博美の姿
はない。
「やだ、博美ったら、どこ行ったのかしら……。」
ベッドから降りて胸の前を隠しながら部屋中を探す。バスルームやトイレの中ま
でも。だけど、どこにもいない。
「いったい、何があったんだ?」
「えっ?」
そういえば、今朝、何があったんだろう。
えっと、博美と一緒に起きて、寝間着を脱ごうとして……
「あうっ!」
そこから先を思い出そうとしたとき、突然、頭の中を鈍痛が駆け抜け、あたしは
思わずしゃがみ込んでしまった。
「どうした!」
康司はしゃがみ込んだあたしを抱き起こして、体を支えてくれる。
すぐに痛みは去ったけど、なんとなく頭が重い。
「お前、ちょっと変だぜ。ほんとに大丈夫なのか?」
「うん……ちょっと頭は重いし、今朝のことは思い出せないし……平気なことは平
気なんだけど、でも、あまりマトモじゃないみたい。」
「そうか……。」
「ねえ、博美に何かあったの?」
「ああ。」
そして康司は話してくれた。それによると、今朝、康司達二人が起きる前、そっ
と扉をノックした者がいた。その音に気付いて目を覚まし、扉の方を見ると、博美
が少しだけ扉を開けて顔を出していたそうだ。そして、健司を呼び出すと、一緒に
姿を消してしまったらしい。
康司は、すぐに戻って来るものと思っていたんだけど、いくら待っても戻って来
ないので、あたしの部屋に来てみたんだって。そしたら扉がわずかに開いていて、
中で寝間着姿のあたしが倒れているのが見えたのであわてて飛び込んできたらしい。
しばらく呼んだり頬を叩いたりしてたら、目を覚ましたあたしがパニックを起こ
してベッドに潜り込んだっていうわけね。
「それで、博美と健司が消えて、どれくらいになるの?」
「正確には判らんけど、一時間くらいになるんじゃないかな。」
「そんなの変よ。少なくともあたしの知ってる博美なら、絶対そんなことしない筈
だもん。いざとなると、あたしよりずっと内気なんだから。」
「俺もそう思う。だから変だと思ってきたんだ。」
「いったい、どうしたのかしら……。」
「ちょっと探してみないか。」
「ええ。でも、ちょっと待っててくれない? 着替えちゃうから。」
「判った。」
康司が部屋を出るのと同時に、あたしは寝間着を急いで脱いで、普段着にと用意
されたドレスを着る。前にも何度か着せられたような正式のドレスだと、とても一
人で着られたものじゃないけど、このドレスは略式の簡単なもので、着るのも一人
でも簡単にできる。
「お待たせ。」
顔も洗ってさっぱりした後、少しイライラして待ってた康司に声をかける。
そして、二人でお城の中をうろうろしてみたんだけど、不思議なことにお城の中
には誰の姿も見えなかった。
ちょっと途方に暮れたあと、少し考えて、建物の外に出てみようってことになっ
た。
「ねえ、どっちに行くの?」
「よし、こっちに行ってみよう。」
そしてお城の中庭に向かう。反対側に行くとお城の門だけど、いくら何でもお城
の外に出てるってのは考えにくかったし、誰にも見つからずに門の外に出るなんて
不可能に近い。
「やっぱ広いね……。」
「ああ……。」
中庭へ出たところで、庭中を見渡してみる。でも、人影はない。
「ねえ、あの建物って、昨日、セレナ姫とディモスが結婚式挙げてたとこよね。」
「確か、そうだったと思う。行ってみるか。」
お城の建物からちょっと離れたところにある教会のような建物を目指す。
何段かの石段を登って入口の扉に手をかけると、その扉は何の苦もなく開いてし
まった。中は外の明るさとはうって変わって薄暗く、明りがないとちょっと辛い。
それでも何とか目を慣らして中に入る。
まっすぐに進むと、昨日、セレナ姫が結婚式をしてた部屋があった。高いところ
にあるステンドグラスのような窓からの明りが部屋の中を明るく照らしている。
それにしても静かね。あたし達の足音以外、何の音もしないの。
部屋の中をひとしきり見回したあと、あたし達は来た廊下を戻りかけた。
「あれ? そこにもドアがあるんだな。」
「あら、本当。」
さっきは気付かなかったけど、廊下の途中に小さな扉がある。
康司が扉に手を触れると、まだ押してもいないのに音もなく開いた。
康司はあわてて手を引いたあと、一度あたしの方を見て、そっと中に入った。
あたしも康司のすぐあとに続いて中に入る。と、そこは部屋でも何でもなく、た
だ廊下が続いているだけだった。
康司はもう一度あたしの方を見ると、肩をすくめた。そして、あたしと手をつな
いで、その廊下を奥に進む。
何度か折れ曲がる薄暗い廊下を進んでいくと、やがて突き当りに扉が見えた。
また康司と顔を見合わせて、その扉を開ける。と、中は少し広い部屋だった。
部屋の中は薄暗く、奥の方はよく判らない。だけど、どうやら部屋の中央に階段
状のものがあるみたい。
と、後ろでバタンと音がして、扉が閉じた。思わずビクッとする。
そして、扉が閉じると同時に部屋の中に灯がともった。どうやら階段の下に燭台
があって、それに火が入ったらしい。
「そなた達は何の用があって、ここに来たのですか?」
突然、階段の上の方から声がした。
再びビクッとして見ると、階段の上は平になっていて、そこに豪華な作りの椅子
が置いてあり、いつの間に現われたのか、そこに人が座っていた。
「あ、あの……。」
あわてふためく康司とあたし。そして、それに追い打ちをかけるかのように、
「余計なことは言わずに、我が問いに、答えるのです。そなた達は誰の許しを得て、
ここに来たのですか?」
言葉の上では丁寧だけど、問いつめるような感じの有無を言わさぬ強い口調。
瞬間、凍り付いたように動けなくなったけど、その声の主が誰なのか判って、あ
たしはほっとして声の主に話しかけた。
「やだ、博美ったら、そんなとこで何してるのよ。」
声の調子や着ているものは博美らしくなかったけど、でも一緒に生まれ育ったあ
たしには、すぐに判ったの。ところが、
「どうやら、そなた達は許されざる者どもらしい。即刻ここから立ち去るがよい!」
「やだ、博美ったら、いったいどうしたのよ。」
あたしがいつもの調子で聞くと、博美は椅子から立ち上がって階段を降りてきた。
何やら尋常ならざる雰囲気を感じて、康司とあたしは思わず後ずさりした。
階段を降りた博美はサッと手を上げ、あたし達の方に向けて指を伸ばした。
「我が言葉に素直に従わぬ者どもには罰を与える。たっぷりと悔いるがよい!」
そして、今度は両手を広げると、その手を、あたし達に向けて突き出した。
その瞬間、目の前を白い光が走り、弾き飛ばされた。
「きゃあ!」
あたしは思わず悲鳴を上げた。そして、次に気付いた時には、博美の姿も部屋の
中の階段もなく、康司と二人、ただ辺りが白いだけの不思議な場所にいた。よく見
ると、白い中に斑のようなものが飛んで行ってるみたい。
「ねえ、どうなってるの? これ。」
目の前を過ぎて行く斑模様達。その流れは一定の方向に向かっていて、どこかに
流れて行くような感じがする。
と、いきなり空間全体がガクンと揺れた。そして、康司が離れていく。
「ちょ、ちょっと、やだ、康司ったら……。」
あたしはあわてて康司の腕を掴む。康司もあたしの腕を掴む。お互いに引っ張り
合うんだけど、どういう訳か二人を引き離そうとする力の方が強い。
「や、やだあ! いやあ!」
二人とも互いに腕を掴んでいたのに、やがて、それが手首になり、そして指先だ
けになる。
さらに引っ張られる力が強くなり……とうとう、指先と指先が離れてしまった。
「いやーっ!」
指先が離れた瞬間、康司の姿はかき消すように見えなくなり、あたしは一人ぼっ
ちになってしまった。そして……。
ガツン!
急に強いショックを受けて、あたしは気を失った。
−−− 二章終わり