AWC 無角館殺人事件 (3)   永山


        
#592/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 9/ 6   8:55  (200)
無角館殺人事件 (3)   永山
★内容
「盗難事件?」
 私が大声を出して驚いたのに対し、地天馬は極めて落ち着いた様子で、質問
を始めた。
「今、話題にしていたということは、まだ解決していないんですね、その事件
は?」
「そうです。迎えの船が来るまで三日程あったので、すぐには警察に届けられ
ませんでした。それでも船が来るとすぐに、通報しましたが。」
 答えるのは有一。
「何が盗まれたのかな?」
「宝石。この別荘に保管してあった宝石の一つ、だいたい三百万円見当のが盗
まれたんです。正一郎父さんの持ち物」
 有一は正一郎のことを父親とは認めたくないのか、少し変わった呼称をする。
「結構な値だ。事件当時、この館と言うか、この島にいた人は誰?」
「もちろん僕と深百合はいたし、藤堂さん達……。あ、こんな言い方をするよ
りも、早い言い方があったんだ。今、この島に来ている中から、地天馬さん達
お二人と陣内善次郎おじさんを除いた十人がいました」
 私が野間双児の顔を見たら、うなずいた。
「身体検査みたいなことはしたのかな、やっぱり?」
「はい。船が来るまで待てないということで、十人全員の身体検査並びに部屋
と持ち物の捜索をしました。でも、宝石は出てきませんでした。割と大きな物
なのですが」
「ふうむ」
 地天馬が立ったままで考える格好をすると、野間の、えっと、十和也の方が
からかい気味に
「早速、始まりましたね。見事な推理を聞きたいものですがねえ」
 と言い、タバコを口にした。
「推理、ですか。現場に居合わせた二人三脚の推理作家に解けない謎が、現場
にはいなかった僕に解けるかなあ」
 地天馬はこういう展開が得意だから、言い返す。
「事件としては何の不可思議さもなく、面白くない。単純そのものだ。だが、
犯人は分からない。まあ犯人は、巧妙に隠してある宝石を取りに、今年も島に
やって来たというとこだろう」
「それじゃあ、何の解決にもならないな。せめてどこに隠してあるかくらい、
言い当ててくれなくちゃね」
「そうだな。海に隠すという手があるが、一年もしたら流されてしまう可能性
がある。こんなことは犯人はしまい。隠すとしたらこの館か敷地内だろうな。
そんな単純労働は、警察が充分にやったんでしょう?」
 地天馬は有一に聞いた。地天馬が推理するのを楽しんでいるらしい彼は、元
気よく答える。
「そうです! 警察は家中を捜して行きましたが、見つかりませんでした。残
っているのは地面ぐらいです」
「地面ね。じゃあ、地面に埋めてるんじゃないのかな」
「地面と言っても、広うござんす。地面のどこで?」
 十和也がますますからかい気味に言う。
「それはまだ、何とも言えませんね。もっとよく、この島を見回ってからにし
たい」
「では、なるべく早く見回ってくださいよ。お手並拝見といきたいですから」
 十和也が応じる。地天馬はそれを相手にせず、有一の方を向いた。
「有一君、もしかしたら、家捜しみたいな無粋な真似をすることになるかもし
れないが、どうかな」
「そんな家捜しは、しないですむはずです。警察がさんざんやっていきました
から」
「では、野間さん達は? 万が一の場合、部屋を見せてくれますか」
「僕らはただのお客です。この家の主人の意志に従うまでですね」
 野間比呂見が答えた。十和也の方は、黙ってうなずいている。
「浜村さんは?」
 地天馬が純白の少女に目を向けると、彼女はワープロを持ち出すまでもなく、
首を縦にふった。みんなと同じ、ということだろう。
「それなら、後で見回ってみますか。でもその前に、僕らの事件の話でもしよ
うかな、ワトソン君!」
 ワトソンと呼ばれて、誰のことかと思ったら、私のことだった。
 とにかく、宝石盗難事件は一端放置され、私と地天馬が経験した事件に、話
題は移って行った。

 話が終わった頃、午後五時に近かった。私と地天馬は、外を回ってみること
にした。かなり涼しく、歩きよい。私は井戸跡を真っ先に見ようと言った。島
を歩き回るにあたって、最も危険なのはここではないか。井戸跡に落ちてはか
なわない。安全を確かめておきたかったのだ。
「きれいに埋めてあるね」
 地天馬がそっけなく言った。井戸跡と言っても、ほとんど分からない。当然
滑車等は取り外されているし、井戸自体も石垣の枠が残っているだけで、その
中は赤土で満たされている。
「これなら大丈夫だな」
 私は安心した。落ちる心配はなさそうである。でも、土は軟らかいようだ。
私はそのことを口にした。
「しかし、他の所と比べて土は軟らかそうだけど、どうかな」
「何だい。底なし沼みたいに、足を取られると、ゆっくりと、だが確実に人を
飲み込むってか?」
「そこまでは言ってない。建物に近いから、大丈夫だろう」
 井戸跡は無角館と蔵の間にある。
「無角館に近いということは、人に気付かれやすいってことだから、もしも落
ちても、叫べば大丈夫だろう」
「割と心配症だな、君は」」
 地天馬は嘲るような言い方をした。井戸はここで終わり、次は蔵に行ってみ
た。すぐ隣である。
「ただの汚い古い蔵だね、こりゃ」
 私は率直に言った。外壁はハゲチョロケである。鍵がかかって中には入れな
いのだが、この分では、内側も想像がつく。
 ところが、
「いや、なかなか面白いよ」
 と、地天馬はまるで反対のことを言う。
「どこが? だいたい、面白いとか面白くないというレベルじゃなく、きれい
か汚いかという問題だと思うが」
「構造がね。例えば、あの一番上の窓を見てみたまえ」
 私は上を向いた。無角館に向いた方の壁である。蔵の三角屋根の頂上の真下
くらいに、窓がある。ガラスは入っていない。地天馬に言われ、反対側の壁の
窓も見たが、こちらもガラスはなかった。
「ガラスのない窓のどこが面白いんだ?」
「そんな言い方をするからには、ガラスのある窓なら面白いのかね、君は」
 地天馬は皮肉っぽく言い返してきた。そして展望塔に向かって歩き出す。
 展望塔は、蔵のすぐ近くにあり、登ってみると、なかなかいい眺めであった。
頂上にはちゃんと手すりがあって、別に危険なことはない。
@と、地天馬が私の肩を叩くので、振り向いてみると、彼は黙って蔵の方を指
さした。
「何だ? ああ……」
 蔵のガラスのない窓を通して、無角館が見える。ちょうどあれは、浜村深百
合の部屋だ。もちろん、すりガラスが入っているのと距離が遠いのとで、室内
は見えない。
「面白いって言った意味が分かったかい?」
「これだけのことか。君も意外といやらしいんだな。覗けなくて残念だったね」
「……何のことだ?」
 地天馬は首を傾げた上に肩をすくめてみせた。私には、その態度はとぼけて
いるように見えた。
 次は水車が見える所まで降りて行った。敷地内にあるのだが、これだけは一
段低い場所にある。考えてみれば当り前で、水の流れを考えると低地にある方
がいいに決まっている。
「よく回っているな。これで雨でも降れば、かなりのもんだろうなあ」
「もうすぐ雨が降るよ」
「どうして分かるんだ、地天馬?」
「天気予報で言っていた」
「なんだ」
「僕は雨が好きだ。雨、特に雷雨は犯罪が起こるのにふさわしい雰囲気を作り
上げてくれるからね」
「犯罪が起きて欲しいみたいな言い方だ」
「違う。飽くまで雰囲気を好むだけで、事件を欲したりはしないさ。同時に、
この島の雰囲気も好きだね。道具立てが最高だよ。洋館、水車、風車、蔵、井
ロ戸。どれも探偵小説には欠かせない幻想味の素だ」
 地天馬が歩き出した。どうやら風車に向かうようで、私も後に続く。
「それなら、君はここにいる人達も好きなんじゃないか。いかにも探偵小説っ
ぽい人が揃っている。双子、車椅子……」
「そこから先は言わないことだ。小説の中だけならともかく、実際に会うとな
るとね……」
 風車は回っていなかった。風はあるのだが、向きが違っている。正面から風
が来ても回るかどうか怪しい、それほど古びた物である。
 そろそろ夕食の時間だと告げられていた時刻が迫っていたので、風車から離
れようとすると、人影が近付いてきた。影が叫ぶ。
「そこにいるのは誰だ?」
 どうやら男である。
「才野君に招かれてきた名探偵とその助手です」
 地天馬は勝手なことを言う。相手の方は、ゆっくりとこちらの目の前まで歩
いてきた。
「名探偵? ああ、地天馬とか言う。聞いてますよ、兄からね」
「と言うあなたは、陣内善次郎氏で?」
「そうだけど、氏とはまた大げさな。ま、よろしく。最初に言っておくが、俺
は犯人じゃないよ」
 冗談のつもりか、善次郎はおどけた口調で言った。これをまた地天馬が、悪
ふざけをして受ける。
「そいつはいい! 信用しましょう。さて、そろそろ無角館に戻るとしますか。
空腹は最大の敵であり、最大の味方です」
 そうして彼は、元気よく歩き出した。
「は? はあ・・・」
 さすがの善次郎も面食らったように、後から着いて行く。まだ時間はあった
が、急ぐにこしたことはない。

 食事は、一階のホールのような部屋でとるらしい。私達は一端、部屋に戻り、
身仕度をしてから一階に行った。そこには大きな丸テーブルがあり、その上に
は料理が執事の藤堂と家政婦の森本優子によって列べられつつある。その周り
には、椅子が八つ列べられているが、まだ誰も座っていない。八つということ
は、陣内正一郎に善次郎、中島美々、才野有一、浜村深百合、野間十和也と比
髦C見、秘書の太田黒・・・。あれ?
驕u地天馬、僕達の椅子がないぜ」
「落ち着きたまえ。想像するに、陣内正一郎は、自分の部屋で食事をするんだ
ろう。秘書の話を憶えているだろう? 部屋に閉じ込もりがちだって」
「ああ。そうだとしても、あと一人は? 太田黒さんが抜けるのかな?」
「いや、あそこを見たまえ。椅子一つ分、間が空いているだろう」
 地天馬が指さした所は、確かにそうだった。
「あれがどうしたの?」
「あそこに才野君が座るんだ。彼は車椅子だから」
「そうか」
驕@そうこうしている内に、徐々に人が集まってきた。才野有一は地天馬が考え
た通り、空いていた場所に収まった。その彼を押してきたのは、浜村深百合で、
彼女は才野の左隣に着いた。野間の二人は、どちらが誰だかは分からないが、
才野の右隣に順に座って行く。となると、我々ゲストはかたまって座るものだ
として、野間の右隣に私と地天馬かな? いやいやゲストは才野有一が希望し
たものだから、彼を囲む形かもしれない。この場合、私か地天馬が浜村の隣と
なる訳か。
「こちらへどうぞ」
 私が考えを巡らせていると、家政婦の森本優子が言ってきた。この人とはこ
れが初対面だが、地味ながらなかなかの顔立ちで、年齢も若く見える。
 と、私が描写のことを考えている間に、地天馬が浜村深百合の隣に座り、何
か手話で話している。惜しいことをしたな。それよりも、地天馬は彼女に気が
あるのではなかろうか? さっきの窓のことといい、今の素早さといい……。
高校時代から彼を見てきている私であるが、どちらかというと地天馬は女嫌い
のように見えた。それがこの態度である。
「お集まりですな」
 聞きようによっては無礼さを含んだ声が、場に響いた。陣内善次郎だ。さっ
き、風車近くであったときは、暗くてはっきりとは見えなかったのだが、今、
こうしてじっくり見ると、兄の正一郎とは全く似ていない。
 それは別段、どうと言う程ではないのだが、気になるのはその服装である。
真っ赤なシャツを着ているのだ。どういうつもりか知らぬが、食事時に着るも
のではない。これが女性のドレスなら赤もまたいいのだが、男には似合わない。
「お待たせしました」
 急にきれいな声がした。声の方向を見ると、中島美々と太田黒。
 太田黒はブレザーを引っかけた身なり。仮面は無論、外していない。口の部
分が、普段着けている物よりも大きく開いているようだ。
 声の主たる中島は、こういう食事の席にしては、かなり派手に着飾っている。
彼女が言った。
「さあ、にぎやかにいただきましょう。どうぞ、召し上がってください」

−以下4−




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