AWC ブリキ怪人 7       永山


        
#481/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 6/18  20:35  (199)
ブリキ怪人 7       永山
★内容
 秋元老人が熱弁を奮っていた。
 「太川殿殺しのだな、そのなんて言うか・・・。」
 「アリバイ、ですか。」
向坂が横から口を挟む。
 「おう、それじゃ。そのアリが全員にあるのだろうが?」
 「犯行は昼食時だとみられますから、皆さん、一緒にいたというアリバイが
あることになりますね。」
 「では、簡単ではないか。これで犯人が桐場であるのは、はっきりした。ア
リバイとやらがないのは、桐場だけだ。」
秋元老は全員の顔を見渡した。賛同を得るものと確信している。
 太川に死なれて尋常ではなくなっている進道と、その付添いのための秋元昭
代を除き、全員が広間で話し合っているのだが、実際、場の雰囲気は桐場犯人
説に傾いていた。当り前と言えば、当り前である。
 「あの桐場さんが犯人ならば、私達はどうすればいいのでしょう?」
木沢が言った。
 どうすればいいか、それが問題だった。相手は我々の眼前から姿を消してい
るのだ。これは、昔マスコミを賑わせた食品会社脅迫事件と、ある意味で似て
いる。犯人の姿は見えず、我々はいつ殺されるか知れない・・・。しかも今度
の事件の犯人は、「毒入り危険・食べたら死ぬで」等と注意してはくれない。
 「全員で一緒にいることでしょうね。それなら犯人も手を出せない。」
向坂が言った。そろそろ替え玉も限界かと思うのだが。
 「寝るのも?」
野岸が不満をあらわにした。
 「それは考慮しなきゃならんでしょうな。女性は女性だけで寝てもらいます
か。」
 「わしと昭代は離ればなれかいの。」
今度は秋元老人。はっきりとは言っていないが、これはもちろん、「離れたく
ない」の意であろう。
 「・・・しょうがない。寝るときだけは、今まで通り、自分達の部屋で眠る
ことにしましょう。起きて活動している間は、なるべく全員が一緒にいること
にして。」
この向坂の案に、やっと全員から賛成がもらえた。もう夜の闇が迫っていた。

 「こうやっているのも手持ち無沙汰ですな。」
秋元老人が言った。私と向坂は同感同感と、何度か首を降った。
 進道とその付添いの昭代を除いて、女性陣は全員が、食事の準備にかかって
いた。男の我々としては手伝いたかったのだが、いない方がいいのだそうだ。
 「せめて犯人について、考えてみますか。」
向坂が言うと、秋元は怪訝な顔をした。
 「犯人? 桐場に決まったんだろうが。」
 「いえ、メイド殺しの方ですよ。山脇さんや太川さんを殺したのは桐場だと
しても、メイドを殺したのは桐場だとは限らない。彼には、メイドを殺す理由
が希薄ですからね。」
 「言われてみるとそうであった。」
秋元老は心得たようだ。そこに私が付け足す。
 「解かなければいけないのは、他にもあります。問題の桐場が、人形の間で
消失している謎です。」
 「そうだった。さすれば、わしと昭代が体験した、死体出現の謎はどうかな。
あれほどの短い間に死体をあの部屋に搬入するなぞ、どの様な怪力の持ち主と
て、不可能じゃろうて。」
 「何か、気付いた点はありませんか。」
向坂が言った。秋元老人は、遠くを見るような顔つきをして、ゆっくりと口を開いた。
 「そうじゃな、最初にあの部屋に入ったときより、二度目の方が、部屋が広
くなっていたような気がするの。」
 「部屋が広く? どういう事ですか。」
 「文字通りの意味じゃ。何となく、天井が高くなっていたような気がする。」
 「ははあ・・・。」
私と向坂は、共に困惑してしまった。天井の高さが変化しているのだろうか。
 そうこうしている内に、夕食の用意が整った。ここに来て何度目の食事だろ
うか。そうそう、五度目だった。何だかコンスタントに事件が起こるので、や
たらと一日が長く感じられる。
 フランス料理の時はいちいち記録する気も起こったが、もうその気力も失せ
た。ただ、秋元老人が大いに喜ぶ和食だったとだけ、記しておこう。寝込んで
いる進道には、後で木沢が持って行くことになっているらしい。

 「やけに隣の部屋が騒がしいぜ。」
私は率直に言った。
 夕食後、全員が一緒にいるのが望ましいのだが、やはり自分達の部屋でくつ
ろぎたいという意見が出、我々に強制する権利もないので認めることになった。
ただし、二人一組になって、必ずどこかの部屋に収まっている事だけは守って
もらうよう、言い添えた。
 連れに死なれて、一人部屋の形になっている人もいるので、改めて部屋割が
おこなわれた。下はその結果である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
桐場邸 部屋配置図2
 ・−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−・
  | 秋元   | 「私」  | 白島  | 空室  | 木沢    |物
  | 夫妻   |チテンマ・向坂| 野岸    |     | 進道   
  ・ −−−−− −−−−− −−−−− −−−−− −−−−−−・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 寝込んでいる進道の付添いが、秋元昭代から木沢に交代となり、静かな部屋
を、ということで図のようになった。白島と野岸の組合せが、少し不自然では
あるが、調理場で意気投合していたようで、割と簡単に決まった。
  私がうるさいと言ったのは、秋元夫妻の部屋である。昼間、ほとんど一人だ
った秋元老が、ずっと奥さんに側にいてもらえるようになって、はしゃいでい
るように感じる。
 「まあ、いいじゃない。あの様子なら、桐場も老人を狙えまい。」
向坂はあいかわらずだ。
 「・・・今では、桐場が犯人だと明らかな状態になっているからいいような
ものの、ちょっと前は、誰が犯人か疑い合っている状況だったんだ。そんな時
に替え玉の事が知れてみろ、犯人扱いは間違いないぜ。」
 「過ぎた事は気にしない、気にしない。」
 「一休さんか、おまえは。」
私は軽口を叩いた。冗談を言えるとは、緊張感がなくなった証拠だろうか。そ
れはいい事なのだろうか、今の場合。いや、犯人が桐場だと分かっても、殺人
を起こされ続けていては、何の意味もないのだ。やはり、ここは気を引き締め
なくては。
 「どうした? 急にマジな顔になって。」
向坂がそう言ったとき、誰かが部屋のドアをノックした。慌てて「探偵役」と
「聞き役・ワトソン役」のふりをする。
 「開いていますよ! ・・・おや、白島さん。それに野岸さんも。」
私はドアの方を振り向いてみた。そこには白島と野岸が立っていた。
 「推理の方はお進みでしょうか?」
白島が例によって、お嬢さん言葉で聞いてきた。
 「ま、確認といった程度ですがね。それで、あなた方は我々に、何かご用で
すかな?」
向坂は格好つけてしゃべったが、相手の女性二人の口から出てきたのは、実に
生活臭さのにじみ出た言葉であった。
 「お風呂、沸かしに行こうかと思って。」
すっかり元気になったように見える野岸が言った。
 そう言えば、初日は慌ただしくて、風呂に入らないですましたのだった。
 続いて白島。
 「地天馬さんから、ご許可を頂かないといけないと思いましたので。」
 「そうでしたか。そこまで信頼してくださるとは、嬉しいですな。どうぞ、
沸かしてください。いえ、どうか、沸かしてください。ただし、お二人で。」
 「どうも・・・。」
何かおしゃべりをしながら、二人は足早に去って行った。それとは対照的に、
向坂はため息をつく。
 「やれやれ。冷汗かいた。何事かと思っちまったよ。」
 「えらく話があっていたようだな、あの二人。」
 「うん、はた目から見ると、正反対の女に見えるけどね。意外だ。」
 「お互いに持ち合わせていない部分を、魅力的に感じているのかもしれない
な。」
 「なるほど、あるある。さあ、かいた冷汗を流すか。」
 「冷汗なんか、かかなくても、今夜はずいぶん蒸し暑いぜ。窓を開けておい
て、この暑さだもの。」
私は手の平をうちわのように動かしながら、舌を出してみせた。
 「扇風機もないなんて、かなわないなー。あるのはうちわだけ。ああ、沸か
していると思うと、無性に入りたくなってきた。」
 「そうだなあ。」
 等とくだらない話で時間を潰していたら、風呂が湧いたと連絡があった。誰
かが一人っきりになる事のないよう、風呂に入る順番も決めなければならない。
木沢によると、「進道さんは、とてもお風呂に入れそうにありません。」とい
うことだったので、それも考えにいれて、次のようになった。
(私・向坂・秋元老人) (木沢・白島) (秋元昭代・野岸)
 木沢が入っている間は、進道の付添いに秋元昭代がつき、昭代が入っている
ときは、木沢がつく。湯船が一つなので、一応、男女別にしたが、思うに、秋
元老人は昭代と一緒に入りたいのではないだろうか。まあ、それはいい。

 風呂に入っている間も、無事に終わった。老体を見せつけられたのには参っ
たが、何とか耐えられた。その描写をするには忍びないので、ここには記さな
いが・・・。
 そのまま眠ることになった。しっかりと鍵をかけ、必ず二人一組になるよう
にと、繰り返して言ったので、うるさがられたほどであった。が、このくらい
言っておかないと、安心できないのだ。なお、部屋割は先と同じである。

 三日目となっても、まだ身体が慣れていないのか、目覚めるのはいつもより
かなり遅い。
 「・・・おはよう。」
 「・・・おはよう。」
まだはっきりしない頭を降りながら、情けない声で挨拶をかわす。向坂はとも
かく、あかの他人には見せたくない姿だ。
 「地天馬さん!」
誰かが向坂に、背中から声をかけてきた。私も同時に振り返って見てみると、
白島の姿。
 「これはこれは、白島さん。おはようございます。」
 「あの、挨拶どころではありませんわ。様子がおかしいのです。」
白島は髪を乱して、叫ぶように言う。こんなお嬢さんが、何事であろう。
 「何かあったのですか?」
 「木沢さんに様子を聞こうと思って、部屋に行ってみたのですが、何の返事
もないままなのです。」
 「あの早起きの木沢さんが・・・。看病疲れではありませんか? まだ眠っ
ているんでしょう。」
 「そうかと思いましたのですが、どうもおかしいのです。何度見に行っても
返事がないし、大きな音をたててノックをしても、一向に応答がありませんの
よ。ドアを開けようとしたら、鍵がかかっていましたし・・・。」
 「そいつはおかしいな。」
私が横あいから言った。向坂も不思議そうにしている。そして言った。
 「分かりました。行ってみましょう。」
木沢と進道がいるはずの部屋は、誰もいないかのようにしんとしていた。眠っ
ているのとは、雰囲気が違う。
 「木沢さん! お疲れでしょうが、起きてくれませんか?」
ノックをしながら、向坂が大声で呼びかけてみるが、室内からは何の反応もな
い。私もやってみたが、同じであった。
 「一度外に出て、庭から見てみましょうか。すりガラスだけど、少しなら見
えるかもしれない。」
 「ええ。」
向坂の提案に沿って、外から見てみた。昨夜は雨が降ったらしく、土が湿って
いる。そう言えば、私達の部屋の天井に裂け目があったが、よく雨漏りしない
ですんだものだ。木造の部分が多いのに、である。
 さて、問題の室内だが、すりガラス越しではあるが、誰かの影が見える。
 「やっぱり、何かあったようだ。ぶち破る必要があるな。いいですか?」
特別な理由はないが、中の木沢の関係者ということで、白島に確認をとる。承
諾を得たので、ガラスを手近にあった石で割ってみた。
 「木沢さん・・・。!」
覗き込んだ白島が、背中で悲鳴を上げた。無言の悲鳴。
 「どうかしましたか。」
フラっと後ろに倒れてきた白島を支え、私は聞いた。が、気を失ってしまった
のか、反応がない。向坂は割れた隙間から、部屋の中を見ている。
 「どうしたんだ?」
今度は向坂に聞く私。何だというのだ?
 「・・・木沢さんが死んでいる。見てみろ。」
私は白島さんを向坂に任せ、中を見た。そこには、胸板を矢で貫かれた和服の
女性がいた。座った格好のまま死んでいる。木沢だった。
 おかしいな。私と向坂は首をひねった。室内には弓がなかった。密室状態の
ように見えるこの部屋に、犯人はどうやって矢を打ち込んだのか。それ以上に
不思議な事に、進道の姿が見あたらなかった。どこへ・・・?

−以下8−




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE