AWC 「Fantastic Battler#2」/By Tink


        
#479/3137 空中分解2
★タイトル (DRH     )  90/ 6/17   8:57  (139)
「Fantastic Battler#2」/By Tink
★内容

 人通りの多い道を時計を気にしながらできる限りの急ぎ足で歩いていた。
 部屋であまりにもゆっくりしすぎた為に約束の時間少しに遅れそうなのだ。
 休日の街は人であふれかえっている。
 なかなか前に進めないのをもどかしく思いながらもあたしは足を急がせる。
 やっと、あたしが待ち合わせの店に駆け込んだ時には時間を15分オーバーして
いた。
「遅い〜!」
 美阿と由紀があたしの姿を認めると、声を揃えてそう言った。
「ご、ごめんねえ」
 あたしはぜいぜいと息を整えながら二人を拝むように手をあわせると美阿たちの向
かいの席に座った。
「16分の遅刻よ、まったく!」
 美阿は氷の半分溶けたアイスティーをストローでかき回しながらぶちぶちと言う。
 でも、本気で怒って無いことは口元が笑っているので、わかる。
「ごめん!、ちょっと家でのんびりしすぎちゃって」
「さーやらしいわねぇ」
 半分呆れた声で由紀がつぶやいた。
「まったく‥‥」
 しばらくすると、ピンクのエプロンをしたウエイトレスさんがオーダーを取にきた。
 そのエプロンが洒落た店の雰囲気にマッチしている。
「失礼します」
 まず、メニューを手渡すと、テーブルの上にコトンとウォーターグラスとおしぼり
を置いた。
 あたしは、メニューにざっと目を通した。
「えっと、アイス・ティー・オーレ」
「はい、アイス・ティー・オーレで御座いますね?」
 ウエイトレスさんはオーダーを繰り返すと素早く立ち去っていった。
 かなり忙しそうで、ある。
「でもさあ、さーやってば結構機敏そうにみえるんだけどなあ、結構ボンヤリタイプ
なのね」
「うーん、良く言われるなあ」
「まあ、人は見かけによらいしさぁ」
「んー‥‥、そおねえ」
 そんなことをしているうちにジュースが、来た。
 あたしはストローの袋を破くと、グラスにストローを立てる。
 そして軽くかき混ぜるとミルクとティーのシロップが混ざりあい、微妙な色を醸し
出している。
 軽くストローを吸うと、甘苦い味が口の中に広がった。
「ん、おいし」
「ここの飲み物って結構、美味しいんだよネ」
 美阿が同意するように言った。
「でも、ちょっと高いけどねぇ」
「仕方ないわよ、それは」
「雰囲気代よ雰囲気代」
「ん‥‥、あ、そういえば今日、変な夢みちゃった」
 あたしはふいに今朝の夢を思い出して言った。
「どんな、夢?」
「えーと、夢のなかで気がついたらね、闇のなかにいたの、それでさあ、怖くて叫ぶ
んだけど、声が何かに吸収されるみたいに消えてしまうの」
「ふうん、それで?」
「それで闇の中のなにかに飲み込まれそうになるのよ、それからはほとんど覚えてな
いけど‥‥、思い出しただけでもゾッとするわ」
「トラウマとか、あるの?」
「ん?、トラウマ」
「ほらぁ、暗所恐怖症とかよぉ、ねぇ?」
「ない‥‥と、思うけど」
「きっと疲れてるのよ、ストレスかなんかたまっちゃってるんじゃない?」
「だからさぁ、今日はパーッと遊んじゃって、ストレス解消しちゃいましょ!」
「うん‥‥、それがいいわね、うん」
 あたしは自分にそう言い聞かす。
「んじゃ、そろそろ行こう」
 美阿は伝票を持つと、先にレジの方へといってしまう。
 それを追うようにあたしと由紀が後に続いた。

          ★

 初夏の心地よい風があたしの頬をすりぬけてゆく。
 空は青く澄み渡り、とても気持ちが良かった。
 街は活気に満ち溢れている。
 眉の下で揃えた髪を軽くかきあげると、ゆっくりと辺りを見渡す。
 色々な人達がそれぞれの胸に、それぞれの夢を描きながら、それぞれの道を進ん
で行く。
 そんな感じが好きだった。
 いつも夢を追いかけていたい「「。
 あたしは、お店のショーケースの中味を通り過ぎさまにガラス越しに覗きながら、
皆の歩く早さにあわせて歩いていた。
 贅沢を言えば。
 これで、彼氏でもいたら最高なんだけどナ‥‥。
 なんて、考えるんだけど。
 一介の女子校生にそんなチャンスなんか訪れてくれる訳が無い。
 もっとも。
 それ以前に、チャンス自体を作ろうとしないだけなのかもしれないけど。
 今は今のままで十分「「。
 そういう考えが、あたしにはあった。
 だって。
 今のままでも、十分幸せなんだから。
 そんなことを考えていると、あたしのすぐ横をなにかの影が通り抜けたような気
がした。
「今何かが通り過ぎなかった?」
 あたしは一瞬立ち止まり、美阿たちの方に振り返る。
 すると、立ち眩みでも起こしたのか、一瞬頭がクラっとした。
 目の前が黄色に染まる。
 倒れそうになるのを必死にこらえる。
 しかし、絶えられなくなり、しゃがみこんでしまう。
 なんとか持ち直し、美阿たちの方向を見上げる。
 しかし、そこには美阿も由紀もいなかった。
「え‥‥?」
 一瞬、また美阿が、あたしを脅かす為に隠れているのかと思って、辺りを見渡すが、どうやら違うようである
 違和感「「。
 街の様子が変なのである。
 あたしは少し考えてみる。
 静けさ?
 そう、やけに静かなのである。
 さっきまで、あれだけにぎやかだった街は、まるで魔夜中のように静まりかえっ
ている。
 あまりもの静けさに耳が痛い。
 急に、言い表わしようの無い恐怖心がこみ上げてくる。
 何が起こったのか、わからなかった。
 美阿たちはどこへ行ったのだろうか?
 街にいたの人たちは?
 なにもわからないまま。
 何もできないまま。
 ただ、あたしはその場所に立ちすくんでいた。
 ふいに、街が溶け始める「「。
 まるで、まだ乾いていない水彩画の上に、水をぶちまけたように「「。
 線はにじみ、色は混ざりあい、雑音のように音が頭のなかを響きわたる。
 そして、上下感覚が無くなった。
 あたしは、突然の出来事に驚き、そして目をつぶり、耳を手で覆い、そしてしゃ
がみ込む。
 しかし目をつぶっても「「。
 濁った色は目に飛び込んできて。
 耳を手で覆っても「「。
 雑音のような音は耳に入ってくる。
 色と音の乱舞。
 それは狂気の世界。
 その、街だった色と音があたしに襲いかかって来る。
 頭のなかをまるでひっかき回したように思考がぐるぐると回り出す。
 発狂しそうだった。
 いや、もしかしたら、あたしは既に発狂しているのかもしれない。
 考えがまとまらないまま、そんなことが一体どれくらい続いたのだろうか?
 一瞬だったのかもしれないし。
 また何時間のようにも感じられる。
 なにかに引っ張られるような感じがした次の瞬間、どこからともなく、あたしを
呼ぶ声が聞こえてきた。
 そして、ゆっくりと意識が遠退いていくのを感じていた。

                                 (つづく)




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