AWC    老人 2


        
#1836/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (TKH     )  89/ 9/22  14:57  ( 61)
   老人 2
★内容


 爽やかな朝だった。九月も半ばに入り、公園の木々は鮮やかに赤く染まり初めていた。まだ朝も早いせいか、人影も殆ど無く、小鳥達が朝のコーラスを楽しげに奏でている。公園の丁度真ん中あたりを流れる小川のせせらぎは、まるで都会の中にある公園とは思えないほど清らかな美しさで流れていた。
 老人は、そんな早朝の公園を散歩するのが日課になっていた。歳のせいでもう何年も前から杖をつかないと歩くことが出来なかったが、それでも老人はその朝の散歩をかかすことはなかった。噴水のそばに小さなベンチがあり、いつもの様にそこに腰を下ろすと太陽の光が、気持ち良さそうに噴水の湧き出る水と戯れている。
 セオドア・ジョンストン。
 宇宙物理学者、宇宙知識生物探査船パイロット。彼の栄光はこの60年もの長い間、遠宇宙の探査に費やされ、そして終った。
 彼の発見したものと言えば、数々の重要鉱物資源を保有する未知の小惑星や、単純細胞しか生存しない数え切れないほどの未開発な惑星だけだった。
 長い宇宙探査の生活に支払った彼の代償は、決して小さな物ではない。
 アルタ第3惑星では、肺機能を犯され、ヨーグダ連星では、すざましい紫外線の為に目をやられた。不自由な右足は、ベガ第16惑星で怪我した名残りである。地球の平均寿命には、まだまだ余裕有る歳なのだが、その身体は実際に、医者も見放す程に悪かった。
 鳩が数羽、彼の足元にやってくる、彼はポケットから朝食のパンの残りを小さくちぎっては、その鳩達に投げてやる。鳩は、勢い良くその餌にありつく。
 彼には自分の歩んできた人生の中でたった一つだけ、非常に心残りな事があった。それは、人類以外の知的宇宙人と言う存在に、結局一度も、巡り会えなかったことである。
 宇宙に何億という数え切れないほど存在するはずの地球型惑星。しかし、未だに単純細胞以上の高等生物の存在は人類史上、今だかって誰にも確認された事はなかった。
 鳩が突然、なにかにおびえるように飛び立った。ふと、見ると、可愛らしい女の子が立っているではないか。
 栗色の髪をした。そう、歳の頃で言うとまだやっと3、4才という頃だろうか、と
にかく目の大きなとても可愛らしい子だ。
 彼は不思議そうに、彼の事をじっとを見ているその女の子にやさしく笑顔をかえした。 女の子は、ひょいと首をかしげると。
「叔父さん、宇宙人?。」と、聞いた。
「え!。」と思わず答えてしまったが自分がよぼよぼの年寄りであることに気がつくと
「いいや、私は地球だよ。」と、やさしく答える。
すると、その女の子は。
「ごめんなさい、うちのおじいちゃんと同じ臭いがした物だから。」
「おじいちゃんは、もしかしたら、宇宙船のパイロットかい?。」
「ううん、おじいちゃんは、ウノ星人よ、そして、ママは、キウヨ人。」
「え!。」彼は、その子が彼の事をからかっているのだと思った。
女の子は、また、可愛らしく首をかしげると。
「叔父さんは、やっぱり宇宙人よ。だって今、この星に地球人なんていないもの。」
彼は、笑いながら。「年寄りをからかうのは、およし。」と答える。
すると、少女は、しばらく不思議な笑顔で彼の顔を見ていたが。
「叔父さん、きっと宇宙を旅し過ぎて目を悪くしたのね、私が直してあげる。」
そう言うと、少女は彼の目に、そのかわいらしい手を当てると小さな声で何か不思議な
呪文を唱えた。
 手を取った瞬間。何と言う事だ!。
 その子姿はいままで見た事も無いような気味の悪い姿に変わっているではないか。
手には、奇妙な水掻きのようなものがあるし、体は、その巨大な頭部を支えるのがやっ
となぐらいに痩せ細り、ぬめりのある灰緑色をしている。両目は、顔の大半を占めるくらいに大きく、その色は、不透明な黄色に光りながら、今、気味悪く彼の目をじっとのぞき込んでいる。
「あ!。パパだ。」
そう叫ぶ彼女の指差す方向を見る。そこにはとてつも無く大きな青薄色のまるで芋虫のような気持の悪い生き物ががのそのそと彼の方に向かって歩いてきて「お早ようございます。」と、耳障りな声で挨拶をした。

彼は、恐怖の余りに大きな悲鳴を上げながら目を閉じた。


                          1986年3月FREMING




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