AWC K&A殺人事件       永山


        
#1835/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (JYC     )  89/ 9/22  12:34  (141)
K&A殺人事件       永山
★内容
登場人物
*秋元康助(あきもとこうすけ) *神田保夫(かんだやすお)
*進道ケイ(しんどうけい)   *玉置三枝子(たまきみえこ)
*ハリー長山(はりーながやま)  *吉田刑事(よしだ)
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 「君達、コモンセンスって言う単語、知ってる?」
アメリカ帰りの長山が、その場にいる者全員に聞くように言った。
 「知らないよ。」
秋元が言った。
 「分からないわ。」
進道が言った。
 「知ってる訳ないじゃないの。」
玉置が言った。
 「・・・。」
神田は黙っている。
 「そうかなあ、これ、常識なんだけどねえ。」
 「アメリカでは、常識かも知らなくても、日本では違うわ。」
長山の言葉にムカついたのか、進道が反発した。
 「NO,NO.日本でも常識なんだなあ、これが。分からないなら、辞書を
引いてごらん。それにしても、君達はいったい何を勉強してるの?いくら日本
の英語教育が欠陥だらけだからと言って、この程度の単語も知らないとは・・
・。もっと、フルーツフルな勉強をやり給えよ。何てね!あ、そうだ。フルー
ツフルって言うのは、<実りある>っていう意味だよ。ハハハ・・・。」
そう言いながら、長山はその場をたった。
 ここは、とある喫茶店の中。中学時代に同級生だった長山が親の都合でアメ
リカに行ってから3年後、高2になった今日、帰国した長山の歓迎会をやって
いたのだが、上のような次第になってしまった。秋元ら四人に言わせると、長
山は中学の時から自分が混血であることを自慢気にしており、キザな奴であっ
た。それがアメリカに三年いたせいで(?)一層、拍車がかかった感じと言え
た。多感な時期の彼らにとって、長山の言動は、殺意を抱かせるに充分だった。

 「第一発見者は、どなたですかな?」
 「あ、お、俺です。」
吉田刑事の問に、秋元が詰まりながらも答えた。
 「状況を話してください。」
 「昨日の土曜、俺達のサークルで出している<フォース>の編集会議をやり
に、部室に集まりました。あ、ホントは部とは認めてもらってないから、仮部
室なんですけど・・・。」
 「それはいいから。で?君達の『超常現象研究会』の部屋・この別館4階で、
何があった?」
 「昼飯を食ってなかったから、誰が買い出しに行くか、アミダで決めました。
みんな、ホカホカ弁当にしたんですが、長山だけがハンバーガーでないとダメ
だと言ったんで、二人、買い出しに行くことになりました。それで保夫・・・
神田君と進道さんが行きました。神田君が弁当屋に、進道さんがハンバーガー
ショップに。その間、俺と玉置さんは、部屋を出ていました。」
 「何故?」
 「長山の奴が、原稿を書きたいから一人にしてくれとか言って、俺達を追い
出したんですよ。」
 「俺達、とか言うことは、君達二人は、ずっといっしょにいた訳?」
 「いいえ、別々でした。」
玉置もうなずいた。
 「ふん。続けて。」
 「先に神田君が帰ってきたんだけど、ハンバーガーを待っている長山はうる
さがるだけだろうと思ったから、そのまま外にいて・・・。しばらくしたら、
進道さんが帰ってきたので、部屋に戻ってみると長山が死んでたんです。たま
驍スま、俺が先頭だったから、第一発見者ってのになったんです。」
 「ふむふむ。神田君、君は弁当屋から帰ってきて、すぐに秋元君にあった?」
 「そう。」
 「証明できる人はいる?」
 「いえ。」
 「そうか。じゃ、進道さんは?」
 「もちろん、まっすぐ帰ったわ。でも、証明してくれる人なんて・・・。」
 「困ったなあ。じゃあ、K&Aって血文字を残していたんだけど、何か、心
当たりは?」
 「さあ・・・。」
みんな、首をふる。
g田刑事は余程、こう聞こうかと思った。
 (秋元のイニシャルはK・A。神田の「か」は、KAだ。進道ケイの「ケイ」
のつもりでKと害者が書いて、それに気付いた彼女が&Aを付け足したのかも。
玉置が他の3人に罪をきせるつもりで、書き残したのかも知れない。しかし、
&はどういう意味だろう。秋元と神田の共犯て事か?そうだとしても、いくら
アメリカかぶれの長山と言っても、わざわざ&と書く必要があろうか。「と」
で充分ではないか。わからん。)
 「分かった。もういいよ。」
吉田刑事が言った。

 長山の死因は、腹部の刺し傷。凶器のナイフは、現場に落ちていた。ナイフ
は魔術用の物で、飾りとして部屋においてあったらしい。他に後頭部に鈍器で
殴られた跡があり、これは、やはり現場にあった何もいけていなかった花瓶に
よるものと推測される。共に、指紋はきれいに拭き取られていた。部屋には神
田が買ってきた弁当からこぼれたのか、何かの煮汁が床にしみを作っていた。
 さらに調べが進み、重大なことが明らかになった。玉置にはアリバイがあっ
たのだ。玉置に思いを寄せている「女子」が二人、当日の昼に玉置が校庭の隅
の方でたたずんでいるのを「見つめていた」と言うのだ。玉置は犯人ではない。
では、誰が?
 「・・・という訳なんです。頼みますよ、何かいい知恵を。」
 「吉田警部。『頭の体操』って本を全巻、読んでごらんなさい。自ずと犯人
は分かりますよ。状況にもぴったりと来る。」
吉田刑事に質問されたその探偵が答えた。
 「全巻?そんな暇、ないんですよ。犯人が逃げるかも知れないじゃないです
か!」
 「大丈夫。まず、逃げないですよ。」
 「そうでしょうか・・‘゜」
g田刑事は、納得のいかない様子であった。それでも、「頭の体操」を全巻買
い込み、一気に読み上げた。確かに、犯人は分かった・・・。

 「どう考えても、君しかありえないんだ。」
吉田刑事のその言葉に、相手は驚いたようだ。刑事が続ける。
 「我々は初めに、共犯の可能性を考えた。だが、どの組合せを考えても、共
犯をするメリットがないんだよ。つまり、アリバイの証人としての、共犯の役
目を果たした人が見当たらない。これは、単独犯だ。それで、害者が残した血
文字だがね、あれは明かに一筆書きで書かれたことが分かった。つまり、進道
ケイさんではない。彼女が犯人だとしたら、害者はK&Aと書き残す訳ないし、
彼女が&Aを付け足したのもありえない。」
相手は黙っている。
 「では、秋元君か?違うだろう。これもK&Aと書き残す理由が見つからな
い。K・Aで充分なはずだ。つまり、犯人は君となるんだが・・・。」
 「ちょっと待ってください。僕が犯人だと言う証拠は?」
相手−−神田が問い返した。
 「君が弁当を買いに行ったんだったね。何を買った?」
 「秋元がハンバーグ弁当、進道さんと玉置さんはからあげ弁当。僕は・・・、
そうそう、別に決めていなくて、その日、新メニューになったと言う中華どん
を買いました。」
 「それとだ。君は事件発生後、秋元君達と一緒に部屋に入ったとき、弁当は
どうしていた?」
 「そうですね、慌てていたので、放り出してしまったんでした。」
 「つまり、部屋の中には持ち込んでいないと?」
 「そうです。」
 「結構。では、聞くがね、部屋の中には、煮汁のような物がこぼれていたん
だ。分析の結果、中華料理の汁と分かった。君が行ったという弁当屋にあるメ
ニューの内、この汁を含んでいるものは、中華どんだけなんだよ。」
 「それは・・・。もっと前に買ってきて、こぼしたとも考えられるじゃない
ですか。」
 「言っただろう。中華どんは事件当日にできた新メニューだって。君の言う
ことは、ありえないんだ。」
こう指摘され、神田は少し、青ざめた表情を見せたが、すぐに戻った。
 「ハハハ・・・。やっぱり、ばれちゃったか。衝動的にやってうまく行くと
は、思ってませんでしたが。思ったより、早かったなあ。」
 「君がやったんだね?」
 「そうです。あいつ、いつも人を見下したような態度をとりやがって、気に
くわなかった。僕、これでもかなり、プライドは高いんですよ。ところで刑事
さん。あいつは何で、K&A等と書き残したんです?」
驕@「今となっては、推測でしか言えないが、多分、こうだよ。K&Aをちゃん
驍ニスペルで書くと、KandA。つまり、KA(か)N(ん)DA(だ)にな
るんだ。」
 「・・・フッ、あいつらしいや。刑事さん、コモンセンスっていう単語の意
味、知ってます?常識ですよ。」

 コモンセンス<COMMONSENSE>−−−「常識」と言う意味である。

驕|終−




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