AWC 『闇の迷宮』 −19−           Fon.


        
#1797/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ     )  89/ 8/28  23:16  (100)
『闇の迷宮』 −19−           Fon.
★内容
                             by 尉崎 翻
 空はどこまでも高い青空が一面に拡がっている。
 360度、雲一つなく快晴そのもののお天気だ。
 道を行く人々の顔も明るく足も軽快である。
 むろんその例に外れる人も多少はいた。
 そう、たとえば...
「まだ怒ってるの、ティスタ?」
 鞍上からのレナの言葉にティスタはブーッと仏頂面でそっぽを向いた。
「よくもまぁ、そんなに怒りが持続出来るものねぇ。いい加減にしないと身体に
 悪いわよ」
 呆れ声でレナがどことなくつぶやく。
「出番があんまりなかったんで、むくれてんだろ? なぁ、ティスちゃん」
 ダグが歩きながらティスタの肩へ腕をかける。
 ティスタはギロッとダグを見てから、ダグの手の甲をおもいっきりつねりあげ
た。
 ダグの悲鳴をよそにレナの方へ向きなおる。
「だれもそんなことで怒ってやしないわよっ!」
「あら、そう?」
「レナ、あたしの言いたいのはねぇ...」
 グッと両手の拳をかたく握る。
「テレポートの呪問を知っていたなら! なんで最初っからそれを使って脱出し
 なかったのよっ!!」
「だって使いたくなかったのよ」
「あのねーっ! 生きるか死ぬかの瀬戸際でそんなことっ!」
「あの呪問使うと、お肌のつやが悪くなるのよ」
「...」
 ティスタは頭をかかえた。
 ケスクとやらの魔術師を倒したためか、迷宮のあの一帯が急激に崩れ始めた。
 その時レナがなにやら長ったらしい呪問を唱えると目の前がまっ白となり再び
視力が戻るとミガルリンの街中に瞬間移動していたといういきさつである。
 で、そのときのティスタの服装ってのが、薄布を一枚羽織っただけという格好
だったからたまらない。
 見物人が増えるわ増えるわ。
 警備隊まで来るというおおさわぎとなったのであった。
 結局、ティスタの服と装備一式を買い揃えたり道具の修理をしたりしたら手持
ちの金が次の街へいける程度の額になってしまったのである。
 しかし、あんな事があったこともあり、再び『闇の迷宮』へと入る気はしない。
 (ティスタが特に反対した)
「まったく裸同然で街中にほっぽりだされるわ、石化されるわ、変な魔術師に操
 られるわ、さんざんな街よ!」
 と、独り言をいうとハタと気付いた。
「ちょいとダグ!」
「いててっ! こらっ、耳を引っ張るなっ!」
「あなた確か、あたしに薬を飲ませて目ざめさせたって言ったわよね?」
「そうだけど?それが?」
 ティスタがジッとダグを見つめてから、襟首を掴み鼻先が数cmまで顔を寄せ
た。
「気絶してるあたしにどうやって薬を飲ませたわけ?」
「うん、いい質問だ」
 ダグがうなずく。
「それはだなー、まず俺が薬を口に含み唇と唇をこうゆうふうに...」
 顔と顔が鼻先数cmまで近付いてるのである。
 ダグはその数cmの距離を一気に縮めた。
             ( チュッ☆ )
「と、いうようにしてだな...
 あわわっ!  こらーっ!  剣を振りかざすんじゃないっ!」
「逃げるなぁ! 殺すーーーーっ!!」
 迷宮での手に入れた唯一の剣をティスタはサヤから抜いて逃げるダグを追いか
け始めた。
「まったくあの二人はいつもどうしようもないな」
 リクトがため息まじりでつぶやく。
「そうねぇ。でも、どこの誰だか判らない人間を、救出しちゃた人よりははるか
 にましじゃないの?」
 レナの皮肉な声が鞍上からした。
 レナの前にうつろな瞳をした一人の少女が鞍に座っている。
 服装は鎧はつけておらず普通の服をつけている。
 汚れきった鎧ではまずいと思ったレナの考えからである。
「ま、まぁレナ。救出したものは仕方ないだろ?
 ほっぽり出すってわけにもいくまいし...
 それに身元もだいたい占ってもらったんだし、なんとかなるさ」
「なんとかねぇ...」
 レナの前の少女はまるで抜け殻のように遠い空を見つめているようだった。
 レナは振り返り後にしたミガルリンの街をながめた。
 高い城壁のなかに大きなる城がそびえたっている。
 法と混沌がまじりあう街ミガルリン。
 ケスクはあそこでひたすら生き続けなにを見ようとしていたのだろうか?
 ケスクはけっして『闇の迷宮』のマスターではなかった。
 その一角を我が物としていただけである。
            『 闇 の 迷 宮 』
 遥かなる昔から存在し幾多もの冒険者を包み込んで来た魔の迷宮。
 いまだその存在は全てが謎に包まれ、
 そしてこれからも多くの者を闇に包んでいくであろう。
 レナは前へ身体を向き直した。
 再び自分はあの迷宮へ行く事があるだろうか。
 あの迷宮には悲しみの思い出が多すぎる。
 レナは空を見上げた。
 レナの心を清くするかのごとく空は何処までも晴れ渡っていた。


            『 闇 の 迷 宮 』
           ( Darkness Labyrinth )


         PROJECT of R.N.S.
            Scenario #1


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                         by Fon.Izaki




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