AWC 小学校殺人事件−流次郎対探偵部 [1] 永


        
#1789/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (JYC     )  89/ 8/25  13:43  (199)
      小学校殺人事件−流次郎対探偵部  [1]    永
★内容
    小学校殺人事件−流次郎対探偵部            平野  年男

「文庫本殺人事件」を読んだ方は知っておられるだろうが、一応説明すると、
神風来坊という男の人は、広田小学校の教師である。大学では、特に理科関係
が得意だったらしい。この広田小学校には何故か、探偵クラブという部がある。
この部、設立当初は推理小説やパズルなどの研究会だったのだが、ある時、六
年五組の変わり者の佐山稔が、靴がなくなったと言い出し、見つからないでい
たところ、同じ組で探偵クラブ部長の中谷正行と副部長の石原順子の二人が見
事、解決した(結局、先生からの同情を受けたかった佐山の狂言だった。)の
で、それ以後事件が起きる度に(こういう部のある学校では、不思議と事件が
起こるのである。)、解決に乗り出し、今までの事件をすべて解決に成功して
いる。神風は、六年五組の担任である。探偵クラブの顧問には、谷口政人とい
う国語の教師が就いている。探偵クラブの部員は部長の中谷、副部長の石原の
他に、四人いるのだが、おいおい紹介していくので、まずは事件の方を。

  「神風先生、たっ、大変です。教室に谷口先生が倒れていますっ!血を出し
て・・・。」
とその日の日番の加納昌彦が、六年五組担任、神風来坊に叫んだ。神風は、
  「職員室で、大きな声を出さないでくれよ。落ち着いてもう一回、話して見
ろ。」
と、訳がわからないといった顔で、加納を見た。加納は少しどもりながら、言
った。
  「えーと、うんとね、と、とにかく来てください!」
加納に連れられて、六年五組の教室に行ってみると、加納の言った通り、谷口
政人が教卓の近くの床に苦痛で顔を歪めたまま、倒れて動かなくなっていた。
神風はさすがに驚いた様子で、
  「大変だ、110番!」
と叫んだ。それを聞きつけたある児童が、冷静に赤電話に向かい、110番を
した。探偵クラブ部員の田中哲人である。やや、くぼんだ目、ガリガリの手足、
これで眼鏡を掛けていたら、秀才タイプの典型である。それを見ていたやたら
体の大きな、同じく探偵クラブ部員の山本茂が、その巨体をゆっくりと動かし、
田中に言った。
  「不謹慎かも知れんが、これで勝負が出来るな。」
  「ああ、流次郎とね。」
田中が続けた。二人は神風先生に、警察へ連絡したことを告げ、ただの物体と
化してしまった顧問の谷口政人に目をやった。国語の教師らしく、語彙の豊富
なそのしゃべり方が懐かしく思い出される。ただ、やはり小学生なので、悲し
さよりも死体に対する気持ち悪さが先に立つ。谷口が、顧問としては余り熱心
ではなかったせいもあろうか。意外にも探偵クラブの二人よりも、加納の方が
平静を保っているように見える。校長にこの件を伝えたところ、事実を確認し
た上で、職員会議が開かれ、学校を休みとする事と新聞などへの発表を少し、
後らせてもらうことが決められた。  警視庁からは、吉田刑事が来た。面識の
ある神風を見ると、吉田刑事は一言二言彼と言葉を交わした。それが済むと、
早速死因を調べさせた。検視官によると死因は、出血多量で、凶器は現場に落
ちていた彫刻刀であり、それに書いてあった名前から、佐山の物と判った。死
亡推定時刻は大体、死後十四ないし十六時間と言うことであった。それだけ聞
くと吉田刑事は、事情聴取を始めた。神風と加納に対してである。
  「被害者は誰です?」
  「谷口政人という、国語の教師です。探偵クラブ・・・。」
神風が言い続けようとするのを、吉田刑事は制して、
  「第一発見者は、この子ですか。」
と加納を見て言った。神風がうなづくと、吉田刑事は加納に聞いた。
  「発見時の状況を、話してくれないかな。」
 「はい。僕、日番なので、今朝早く来たんです。午前七時五十分頃でした。
職員室に行って、六年五組の教室の鍵を取って、この教室にきて前の入口を開
けると、谷口先生が倒れていたんです。血が見えたので慌てて、神風先生に知
らせに行ったんです。」
それを聞いて吉田刑事は、現場である教室の全ての窓と、後ろの入口の鍵がか
かっているのを確かめると、再び聞いた。
  「加納君、君が鍵を開けたとき、確かに鍵はかかっていたんだね。」
  「はい、確かにしまっていました。開けるときにカチャッと音がしました。」
  「そうかい。また密室殺人か。」
と、吉田刑事が呟くように、言った。改めて鍵に目をやる。教室の前方の鍵は、
よくあるコの字形の差込み錠。後方の鍵は、ねじ込み式で、こちらの方は、内
側からしかかからない。窓の鍵は、これもよくある三日月錠である。窓には隙
間が無いので、糸を使うことはできない。密室の謎は後回しにして、吉田刑事
は事情聴取を続けた。
  「死後、十四ないし十六時間で、発見されたのが午前八時だから、昨日の午
後四時から六時の間に犯行があった訳ですな。職員室にはその頃、ここの教室
の鍵はあったのでしょうか?」
  「そうですね、あ、ありましたよ。昨日の日番の香川英里という子が、午後
三時三十分頃でしたか、返しに来たのを覚えています。」と、神風が六年五組
の担任として答えた。
  「ふむ、じゃ、加納君はもう帰ってもいいよ。」
と吉田刑事に言われて、加納は教室を出た。学校が休みとなったのに、野次馬
根性で残っている児童が色々聞いてくる。すでに学校に来ていた中谷や石原、
それに田中や山本の四人も話を聞こうとしたが、他の児童がいるので後にする
ことにした。
  「ところで神風さん、谷口先生を恨んでいたような人はいますか。」
吉田刑事が質問した。神風が答える。
  「そうですね。いなかったと思いますよ」
 「それでは、関係のあった人は?」
  「ああ、それなら相川友子という、社会科の先生でバスケ部の顧問の人が、
相手として噂になっていました。そういえば、相川先生の元恋人で、野球部顧
問で体育教師の海道人助という若い先生が、恨みを持っていたかも知れません。
ただその人は、昨日、昼から出張に行っていたので、いませんでしたよ。」
 「そうですか。アリバイを調べたいのですが、生徒にはあなたからそれとな
く、聞いといてくれませんか。」
  「いいです。」
  「どうも。ところで、谷口先生はどこの組の担任ですかな。」
  「いえ、どこも受け持っていませんが。」
 「それなら犯人は、どうして、六年五組の教室で殺人をしたのだと思います
か。」
  「さあ、わかりません。」
  「それならもう一つ、野球部は顧問なしで、部活をしていたのですか。」
  「さあ、それもちょっと・・・。聞いときます。」
  「頼みます。」
こうして、事情聴取は終わった。

  「・・・と言うのが、事件のあらましです。引き受けてください。お願いし
ます。」
と、流次郎に事件の依頼に来た神風来坊が言って、頭を下げた。何でも、探偵
クラブの部員達の前で、流次郎が『文庫本殺人事件』を見事に解決してみせた
事を話してしまい、それ以来、ぜひ勝負をとせがまれ続けていた、と言うこと
だった。流が、
  「もちろん、引き受けましょう。その子達もそれほどせがんでいることだし、
仕方がない。」
と言うと神風は、ほっとした顔つきになり、
 「ありがとうございます。報酬は後ほど。それから、探偵クラブの残りの部
員二人の名前は、三浦恵美と中口美加と言います。」
と言った。その後、早速、広田小学校に出向き、探偵クラブ部室に行ってみた。
割と大きな部屋で、吉田刑事も来ていた。それを見て、流が言った。
  「おや、吉田刑事、探偵クラブに事件の依頼ですか。」
  「とんでもない。今度の事件の被害者は、この子達の顧問ですよ。本来なら
事情聴取など、小学生相手に、あまりしたくはないが、探偵クラブと言うのを
聞いて、ちょっとは、やる気になったんですよ。」
  「ふーん。ま、神風さん、部員を紹介してください。」
流がこう言うと、神風は一人ずつ、探偵クラブ部員を紹介し始めた。そして流
は、自分の自己紹介をすると、一人一人と握手をした。田中の手の細さには、
少し驚いたようだった。また、山本は手品が得意らしく、流と握手をしたとき
に、腕時計をすり取ってしまった。部長の中谷は仲々の男前で、眉毛が濃く、
目はやさしい感じがする。統率力に人一倍、長けているらしい。副部長の石原
は、髪をポニーテールにしており、これまた仲々の美人だ。気が強く、誰も考
えないようなことを思い付き、トリックを見破るのが得意だそうだ。三浦はぽ
ちゃっとした体型で、目の大きな幼い、と言っても小学生だから当り前だが、
そんな感じのする子だ。部の情報屋らしい。中口も三浦と同様、情報屋である
が、それよりもカンがものすごく冴えているらしい。知的な感じで、大人っぽ
い所もあり、なおかつボーイッシュでもある。でも性格は、他の二人の女子と
比べると、一番、女の子っぽいようだ。さて、教師に目を移すと、相川という
先生はまだ若く、おかっぱ頭の、二十五才ぐらいのように見える。バストが大
きく、あれでバスケが出来るのだろうか、と思えた。
 「もしも、僕たちが流さんより早く、犯人を見つけたら、探偵クラブの顧問
になってくれませんか。谷口先生が亡くなったので。」
と中谷が半分真顔、半分冗談という表情で言ったので、流は苦笑いをしながら
言った。
 「僕は教育学部を出てないからねえ。無理じゃないかな。気持ちとしてはな
ってみたいけどね。」
その隣では吉田刑事が、
  「そうはいくかい。」
という風な顔つきで、むすっとしていた。ここで余談だが、小学校で各々の教
科に専門の教師がいるのはおかしい、と思われる方もおられるだろうが、ここ、
広田小学校は私立で、小学校を上がれば、中、高、とエレベーター方式に行け
る進学校なのである。そのため、一部教科には、専門の教師がいるのだ。
  「さて、勝負開始となる前に、お互いにハンデがないよう、情報をくれませ
んか、吉田刑事。ハンデ有りで勝っても、あなたもうれしくないでしょう。」
と流が言うと、吉田刑事が答えた。
  「別に自分は、勝負がどうとかなんて、眼中にありません。前にお世話にな
った事もあるので、必要とあらば、情報は提供します。えー、犯行時に学校に
いた関係者は、ここにおられる神風先生と相川先生、校長、教頭。生徒の方で
は野球部員とバスケ部員がいまして、そのうち関係がありそうに思えたのは、
六年五組の児童の、佐山稔、渡辺健二両野球部員、バスケ部の不知火彰と十川
良子の四人、さらに当日の日番である香川英理と、第一発見者で翌日の日番で
もあった加納昌彦もいました。このうち、校長と教頭は校長室で話をしていた
ので、アリバイがあります。相川先生と不知火、十川の両児童はバスケ部の活
動を体育館でしていたとのことで、これもアリバイがあります。神風先生は職
員室にいたということですが、証人はいません。野球部の二人は顧問が出張中
で、自主トレーニングをしていたようですが、この部は人数が多すぎて、逆の
意味で証人がいません。香川と加納はそれぞれ図書室にいたと言っていますが、
これも証人はいません。なお、探偵クラブの人たちは部活がなく、家にいたと
いうことです。動機の方では、これといった物は有りませんが、失礼ながら、
相川先生は谷口先生の恋人だったそうです。また野球部の佐山はかなりの問題
児らしく、先生方からマークされていて、そのことで逆に先生を恨んでいたか
も知れません。それと、香川の言うには、午後三時二十五分頃に鍵を掛けたと
きには、教室には何の異常もなかったと言っています。」
 「どうも一度にたくさんの事を、ご苦労様です。さてみんな、勝負開始とす
るかな。」
と流は言って、探偵部のみんなにウィンクをした。

  「これからどうするんだい。」
と俺が流に聞くと、流が言った。
  「差し当たって、加納君、香川さん、佐山君、渡辺君、不知火君、十川さん、
相川先生から事情を聞いてみるさ。中谷君達は、もう、やっているだろうから
ね。」
  「それは、君と子供達との間にあるハンデではないのかい?それに、子供の
名前に『君』とか『さん』はやめてくれ。気味が悪い。」
  「子供は、君・さんを付けてもらわないと、怒る子もいるんだよ。特に、小
学生は。それからハンデ、正確には、ハンディの事だが、この場合、子供が調
べるのが難しいことがハンディだと言える。大人と子供で大人が不利なのは、
ハンディとは言わないだろう?」
  「そんなもんかね。ところで流、現場には佐山・・・君の彫刻刀が落ちてい
たんだろう?どうして警察は、彼を拘束して、取り調べないんだ。」
  「それはこうだと思う。凶器からは恐らく、指紋が出なかった。又、密室の
謎が解けていないし、相手が小学生だと言うこともあって、踏み切れないんじ
ゃないのかな。」
  「なるほど。」
流が前記の人物から聞き出したことは、以下の通りだ。加納君からは、鍵の事
とアリバイを聞き、香川さんからも同じ事を聞いた。相川先生からは恋愛の事
とアリバイを聞き出した。不知火君と十川さんからは、相川先生のアリバイを
確かめた。佐山君からは何も聞けなかった。ここまでは、新しい事は何も聞き
出すことはできなかった。最後の一人、野球部の渡辺君から事情を聞こうとし
たのだが、どうしたことか、つかまえることが出来なかった。流と俺は、探偵
クラブの中谷君達と会い、このことを話した。
  「おかしいですね。捜してみましょう。」
こうして、その日の夕方までみんなで捜しまわったが、見つからなかった。そ
してようやく石原さんの突飛な思い付きと、中口さんのカンによって、見つけ
ることができた。職員室の中にある個室の一つに、渡辺君はいた。
ただし、死体として・・・。

−続く−




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