AWC 大型リレー小説>第壱拾壱話 「カイロン島奇談」  天津飯


        
#1777/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC     )  89/ 8/18  13:13  ( 90)
大型リレー小説>第壱拾壱話  「カイロン島奇談」  天津飯
★内容
 そのころ、新松戸から神戸に向かおうとして新松戸のとなりの馬橋についた一
人の男がいた。
喜三郎だった 彼は主人公として これ以上影の薄い扱いに我慢できず
松戸から出て来たのだった
馬橋を過ぎると 神戸に着いた やはり新幹線は速い
喜三郎は神戸港中突堤からカイロン島へ渡るフェリーに乗り込んだ
彼の目的はカイロン島の八墓村に行き謎の金属『モノリス』を手に入れることだった
それくらいの事をしなければ主人公としての面子が立たない
しかしカイロン島周辺には時空の嵐が渦巻いているという・・・
さらに恐ろしいことはグー星人の催眠術がバリヤーのように取り巻いていることだった

フェリーがカイロン島に近付くにつれて
名状しがたい霊気がソクソクと迫り喜三郎はサクサクと梨を食べた
ふと気がつくと喜三郎の乗ったフェーリはいつのまにか一艘の渡し舟に変わっていた
年老いた一人の船頭がギッチラコ、ギッチラコと櫓を漕いでいる
「鳴呼 巨大水曜日的 大波 襲来也!」
突然船頭が大声を上げて背後を指さした
喜三郎が振り向くと山のような大波がすぐそばに迫っていた
アッというまに喜三郎の乗った伝馬舟は
木の葉のように大波に呑み込まれバラバラに打ち砕かれた
喜三郎は辛うじて舟の破片につかまって波間に浮いていたが
今度は大渦が現れ喜三郎を海中に引きずり込んだ
かくして喜三郎は海の藻屑となり死んだ

「お客さん お客さん 着きましたよ・・・」
呼ぶ声がして喜三郎は目覚めた
見ると喜三郎の乗ったフェリーがカイロン島の岸壁に着いた所だった
どうやら悪い夢を見ていたようだ

桟橋を急ぐ喜三郎を呼び止める者が居た
「きっ、喜三郎!、喜三郎じゃないか!」
振り返ると そこに五歳の時に生き別れた母が居た
「おっ、お母さん!」
「喜三郎!お前の帰りを母はこの岸壁でどれほど待ちつづけたことか・・・
 港の名前は洲本なのに何故もっと早く帰ってこなかったのじゃ・・・」
「おっ、お母さん!逢いたかった・・・」
後は言葉にならず喜三郎は母の体をきつくきつく抱き締めると よよと哭き崩れた

「お客さん お客さん 早く桟橋を降りてください・・・」
ふと気付くと喜三郎は船に吊り下げられた緩衝用の古タイヤに抱きついていたのだった
しっ、しまった早くもグー星人の催眠術にかかってしまったらしい

港を出ると既に日はトップリと暮れていたが
喜三郎は八墓村へ夜道を急ぐ決心をした
草履の紐をきつく締め直していると
どこからともなく女のすすり泣く声が聞こえてきた
闇に目を凝らして声のする方を窺うと
夜目にも白いうなじが目に入った
道端の松の根方に一人のろうたけた女がつっ伏している
「これ お女中 いかがいたした」
喜三郎は女に近付くと声を掛けた
「きっ、急に持病のシャクが・・・」
女は苦しそうにそう答えた
「なに シャクとな それはいかん この薬をしんぜよう」
喜三郎は印篭から薬を取り出した
「かたじけのうございます」
「なんのなんの ささっ 口を開けなされ拙者が薬を呑ませてしんぜよう」
「いや!恥しい」
「それ そのように恥しがっておってどうするのじゃ」
「口を開けなされ拙者が口移しで呑ませてしんぜよう」
「あれ!いけませぬ!お武家さま そのような御無体な・・・」

「ニイサン ニイサン うちのポチに抱きついてどーするんじゃ」
我に返ってみると喜三郎は松ノ木の下につながれた犬に抱きついていたのだった
おお!しまった しまった またグー星人の催眠術にかかってしまったわい

この調子では八墓村につくまでに何度だまされるかもわからん
しかたがない出発は明日の朝にするか それより腹が減った
おお 丁度うまい具合いに あそこに屋台が見える
喜三郎は手児奈焼き餅と書かれた屋台のノレンをくぐった
「親父 手児奈焼き餅を2人前くれ」
「1人前で十分ですよ・・・」
なにげなく喜三郎が焼き餅を焼く親父の手元を見ると
なななっ、なんと これぞ まさしく あのモノリスではないか
はやる気持ちを抑えて喜三郎は なにげない風をよそおって尋ねた
「親父 いま なんどきだい?」
「へい」
親父が背後の時計を振り向いた時 喜三郎は素早くモノリスを懐に隠した


「おお!モノリスじゃ!ついにモノリスを手に入れたぞ!」
「やったぞ!見てくれ!俺はやっぱり主人公だ!さすがだ!」

右手にお好み焼きのコテを高くかかげた喜三郎が
驚喜しながら走っていくのを村人が見たのが彼の最後の姿だった



                       つづく
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