AWC バラバラ死体に樒を添えて・・・・・・・・・・・・・天津飯


        
#1574/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC     )  89/ 5/27   1:38  ( 96)
バラバラ死体に樒を添えて・・・・・・・・・・・・・天津飯
★内容
月の無い真っ暗闇の晩に こうして この崖を覗き込むと
この斜面は本当に底無しに地獄に続いているようだ
あんなに愛し合ってたのに 良美 許しておくれ
お前の躯が・・・頭と胴と腕と脚がそれぞれ入った この6つの黒いビニール袋を
こんな暗い地獄の底に放り出そうとするこの俺を

俺もすぐに地獄に行くさ 似た者同志の人殺し 俺達は所詮天国には行けなかったのさ
そうだろう 俺のお袋を殺したのは 良美 お前だろう
お前しかいないのさ  たった一人の俺のお袋を殺したのは
聾唖者だった俺のお袋  苦労のしどうしだったお袋
俺が十才の年に極道者の親父が急にポックリ逝った後
九州の片田舎で散髪屋をしながら女手一つで俺を育ててくれたのさ
親父が死んだことは まあ お袋にとっては その方が良かったのかもしれない
大酒呑みでグウタラで三度の飯よりバクチが好きで
お袋が稼いだ金を暴力を振るって取り上げては賭場に入り浸り・・・

あの頃の俺達の生活ときたら「一杯のかけそば」どころじゃなかったぜ
そんな親父がポックリ逝ったときには正直言って子供心にもホットしたものさ
思えば親父が死んだのも ちょうど今頃の樒の実がはぜる頃だったっけ

そんな苦労の中で俺を育ててくれたお袋を いくら嫁姑の折り合いが悪いからといって
たった一人の俺のお袋を 殺してしまったお前を俺は許す訳にはいかないのさ 良美
俺も最初は お袋は持病の高血圧でポックリ逝ってしまったとばかり思っていたよ
お袋が使ってたワープロに残されたLOGを見るまでは
お前は嫌がっていたけど聾唖者だったお袋はワープロを使ってパソコン通信するのが
老後の唯一の楽しみだったのさ
年に似合わないシジミちゃんとかヒラメちゃんとかいうハンドルを使って
OLTをやりまくるのには そりゃあ俺も閉口していたさ
確かにNTTやトウソウシンの名で通帳から落とされる金は
俺達の家計には苦しかったさ
それでも 老い先短い年寄りの楽しみじゃないか
聾唖者として寂しく過ごしてきた者が初めて見つけた饒舌な世界だったんだよ
そのくらいは大目に見てやらなくっちゃ 良美  そうだろ
お前だってお袋に教えてもらったIDで結構楽しそうにOLTやってたじゃないか
そのうちOLTで知り合った  近くのコンビニエンス・ストアの店長に
メールでいろんな物を注文するようになったけど
お袋が死んだ前の日に熟した実のついた樒を注文したのは お袋ではなく
良美 お前だったんだね LOGを見て気ずいたのさ
しきびを漢字で樒と打ってあったけど
お前は知らなかっただろうけど
富*通のワープロにはしきびを漢字に変換すると
金縛りにあうという恐ろしいバグがあったのだよ
知ってる人しか知らないけど有名なバグなんだよ
でもメールの注文書はちゃんと樒と漢字に変換されていたよ
試しにやってみたんだよ良美
うちのワープロはしきびではやっぱり金縛りにあってハングしてしまったんだよ
でも しきみだとチャント漢字に変換されたよ
あの注文書のメールを打ったのは しきびをしきみと呼ぶ良美お前だったんだね
我家で樒をしきみと呼ぶのは
北海道から出てきて東京で永く暮らしていたお前だけなんだよ

それから俺が おかしいと思ったのはお袋の葬式の時さ
仏前に供えられた樒の実がはぜて中の種が俺の目の前の畳の上に
ポトリと落ちた時さ  なにげなくボンヤリとその種を見ていて俺は気ずいたのさ
その実がお袋が永い間 胃薬に煎じて飲んでいた漢方薬の
大茴香の実にソックリだってことに
俺だって樒の実が猛毒だってことぐらいは知っていたさ
しきみは悪実だってこと 悪しき実がしきみになったんだよ
それほど樒の実には猛毒が有るんだね
樒の毒に当たると まず痙攀を起こし 血圧が上がり
やがて呼吸困難に陥って死んでしまうんだよ
アルカロイドの毒は大抵呼吸中枢を侵すから怖いのさ
そういえば北海道育ちのお前が教えてくれたじゃないか
アイヌが狩猟に使った鳥兜の毒は大きな熊を十秒足らずで倒せるって
ヨーロッパでは古代から中世まで この美しい紫色の花を咲かせる
鳥兜の毒が近親者や政略上の毒殺に使われて この毒で殺された継子の数知れず
とうとう 鳥兜の毒は『継母の毒』と呼ばれたってことを

憶えているだろ お袋が死んだ晩のことを
お袋は俺達が気ずいたときには手遅れだった
四肢を硬直させて既に呼吸困難に陥っていた
俺が医者を呼ぼうとした時にお袋はこと切れた

そういえば極道者の親父も
賭場で急に痙攀を起こして死んだって隣の源さんが言ってたよ
それをお袋に言うとお袋はひどく嫌な顔をしたっけ

さようなら良美 君の躯が入った この6つの黒いビニール袋に
樒の一枝を添えるのは私の本当の心ずくしなんだよ
古代 人が死ぬと土葬にして土饅頭にした
その晩には臭いを嗅ぎつけた狼が必ずやってきた
狼の群れは土饅頭を掘り返して死肉をむさぼった
樒の実や葉に毒が有るのを知っていた古代の人々は
狼よけに土饅頭の回りに樒の枝を挿したのさ
それが いまだに お墓に樒を供える習慣として残っているんだよ
だから俺も お前の死体を嗅ぎつけて お前の死肉を漁りに来る
色々なチミモウリョウ共から お前を守る為に樒を捧げるのさ

まあ良美 あの世では なんとか お袋と折り合ってうまくやってくれよ
すぐ俺も行くから それまでの辛抱さ
そうそう 樒の花言葉は因果応報なんだよ 良美


                     おわり
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※T*WNSはしきびを変換すると金縛りにあうそうです




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