AWC 春帆楼 (SYUN PAN ROU) バベッティ


        
#1565/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (PKJ     )  89/ 5/19   9: 5  ( 41)
春帆楼 (SYUN PAN ROU)       バベッティ
★内容
  昭和六十二年、七月。下関の高級料亭、春帆楼に於いて、二人の青年が、
ふぐさしをつつきながら、議論していた。
−−この、ふぐというやつは、漢字で書けば、河の豚だ。馬鹿々々しい。
−−うむ。
−−この様な由緒正しき料亭でふぐを食うのは気分もいいが、スーパーで
売っている、ふぐ茶漬け等は、頂けない。
−−うむ。
−−第一、あのテレビでやっているコマーシャルが、まずいじゃないか。
下関出身の無名に近い作家を、壇ノ浦の岩場に立たせて、その後、画面は
薄汚い原稿用紙の大写しになって、なにやら書いてある。草稿のつもりな
んだな。
−−それは知っている。あの文章は、よく見ると、全くの無意味だ。下関
のふぐは云々というやつさ。
−−新聞の投書欄で読んだが、どこか遠い県から下関に来て、料亭でふぐ
を食ったら二万円取られた、これは高過ぎるのではないかという男が居た。
よそ者はあれだから困る。相場を知らないんだ。
−−うむ。
−−関係ないが、軽薄に生きる事は、幸福かね。笑っちゃあいけない。
−−笑いをこらえて言えば、幸福だ。にせものでも、幸福は幸福だ。けれ
ども、単純は、不幸だね。
−−待てよ。それは性質によるじゃないか。単純な楽観主義者は、幸福だ。
−−いや。それは君の推測に過ぎないよ。単純の苦悩は、単純にしかわか
らないだろう。
−−そうかも知れぬ。苦悩は、その内容が馬鹿くさいほど、かえって苦し
いものだからな。
−−ちょっと、醤油、下さい。
−−そこにあるじゃないか。いいですよ、あります。
−−いや、ない。ありませんよ。持ってきて下さい。
−−あるじゃないか。ほら、これ。
−−それはラー油だよ。ラーメンに入れる香辛料だ。
−−いいじゃないか。ラーメン食ってるんだから。
−−しかし、ふぐさしラーメンという名前なんだから、醤油を入れるべきだ。
と言っても、ふぐさしの形に切った かまぼこ だけどな。レプリカさ。
−−もう出ようじゃないか。ここは暑くてかなわん。第一、春帆楼だなんて、
ラーメン屋の名前にふさわしくない。のれんに書いてある高級料亭という文
字も、誇張が過ぎる。
−−そうだな。おじさん、勘定お願いします。
−−二人合わせて六百四十円か。この店、高級料亭にしては安いな。
−−うむ。
  二人はその屋台を出た。





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